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オジサンのための料理講座  ↓イラスト (C) SweetRoom

2014.5.25

粥作りのポイント…

袁枚は、「飯粥單」で、お粥を食すなら、純粋にお米の美味しさだけを堪能すべしと主張した。しかも、お数を重視するなど本末転倒で、「本」は飯粥にありというのだから過激。
  「随園食單 飯粥單」を読む [2014年5月20日]

美味しい具を混ぜれば、どんなお粥でも、それなりに旨い旨いとなろうが、それでは肝心の歓びを失ってしまい、料理が台無しですゾと言う訳だ。具が素晴らしいなら、別途、お数にしたらよかろうと言うのである。
言われてみれば、その通りだから、反省しきり。
その手のお粥とは、汁掛けカッコミ飯とたいしてかわらないことになる。それは冷や飯用レシピな訳だが、炊飯に手間がかからないようになると、炊き立てでも同じ扱いになってしまう、原点に戻る必要がありそう。

ただ、「飯粥單」はあくまでも中国粥の世界。日本的家常菜の観点では、かなり違うかも。
そう思って、日本のお粥の話をちょっと眺めてみることにした。

そうしてわかったことは、日本でのお粥の話には、たいてい、永平寺の朝粥が登場してくる点。宗祖道元禅師のご指摘が、ご教訓としてあげられているのである。
ということで、原文はどうなっているのか見ておこう。

先ずは、「典座教訓」。調理側の心構えが細かく記載されている。・・・
 取其淘米白水。
 亦不虚棄。
 古來置漉白水嚢。
 辨粥米水。

 納鍋了留心護持。
 莫使老鼠等觸誤。
 竝諸色閑人見觸。

これと対をなすのが、「赴粥飯法」。お粥を頂戴し、食す側の詳細な作法と、修行上の意義が記載されている。なかでも、10の利点が有名なようだ。(小生なりに、適当に解釈してみたが。)・・・

十聲佛罷、打槌一下、首座施食。
 粥時曰、粥有十利、
  十利者、
   一者 ・・・皮膚の色艶が良くなる。
   二者 ・・・力が漲ってくる。
   三者 ・・・寿命が延びる。
   四者 ・・・心やすらかになる。
   五者詞清辨 ・・・言葉が冴え、口も爽やかに。
   六者宿食除 ・・・消化よくもたれない。
   七者風除 ・・・病気を防ぐ。
   八者飢消 ・・・飢餓感を解消してくれる。
   九者渇消 ・・・渇きが癒される。
   十者大小便調適 ・・・便通が快調となる。
 僧祇律。
  饒益行人、果報無邊、究竟常樂。
齋時曰、三徳六味、
  三徳者、
   一輕軟、
   二浄潔、
   三如作法。
  六味者、
   一者苦、
   二醋、
   三甘、
   四辛、
   五鹹、
   六淡。
 涅槃經云云。
 施佛及僧、法界有情、普同供養。
首座合掌引聲而唱。
首座若不赴堂,次座唱之。

現代の栄養科学からしてみれば、お粥を沢庵と少量の胡麻塩だけで摂取する食生活では、危険極まりないと言わざる得ないが、ゆったりとした気分で、じっくりとお粥の滋味に浸るのは悪くない話である。

ここで気になったのは、瓢亭の作り方も同じだと思うが、永平寺のお粥の作り方は、家庭とは大きく異なる点。現代中国粥と同じ、世界標準の米粥作り方法。

日本の家庭では、水から米を炊くのが普通だが、そうではないのだ。大釜で作るせいもあろうが、沸騰した湯に米を入れるのである。
そこには、明らかな、考え方の相違が見てとれる。

小生は、家庭では、水炊きが圧倒的に美味しいと判定。ここで、「家庭用」という意味は、二人分しか作らないということ。これを超える場合は、湯炊きの方が優れていそう。まあ、それよりは、炊飯器のお粥コースをお勧めしたい。
と言うか、炊飯器を超える美味しさを狙いたいということ。かなりレベルが高い話をしているのである。

美味しいお粥を食べたいなら、用具として、土鍋と同じように温度がすぐに下がらないセラミック鍋を使う必要があろう。簡単に吹きこぼれたりしないという観点で、鍋の形状も重要である。小型深鍋は必須条件。そして、蓋はガラス製で中が見えること。
それに該当しそうな鍋が無いなら、素人は諦めた方が無難。

レシピは単純。所要時間約1時間。
出来上がったら、すぐに食べることを前提にして始めること。お粥を残したりしないように。

<お米の準備>
 お米は精米したてのもの。2人分として150g。
  (嵩でなら、約半合ということ。)
 すぐに、水で急いで濯ぐ。混ざりものを流すだけ。
 次に、急いで研いで、ともかく早く水をすてる。
 同じことを、もう一回行ったら終了。
  (精米が行き届いているので、この程度で十分。)
 笊にあけて放置。
 米の色が白色になるのを待つ。
  (室温によるが、20分も経つと変わる。)
<加熱>
 水は900cc。
  (嵩でなら、米の10倍量の半升。)
 米を投入したら蓋をして強火で。
  (蓋をしないと簡単だが、我慢である。)
 沸騰したら、ふきこぼれるので超弱火に。
  (素人には、えらく難しい。)
  (タイミング悪いと蓋をとってもこぼれる。)
  (行平タイプの土鍋だと見えないのでまず無理。)
 液面が落ち着いたら、一度、軽くかき混ぜる。
  (底についている固まりをはがしほぐすだけ。)
  (全体を強引にかき混ぜたらお釈迦。)
 弱火だが、その火加減を調整する。
 蓋をしたままで、以後、超弱火で知らん顔。
 20分ほどしたら、火を止める。
<蒸らし>
 蓋をしたまま15〜20分ほど放置した後、食す。
<お数>
 お米が研ぎ終わったら、準備すればよい。
 火を入れたら沸騰するまで、目を離さぬこと。
 (怠れば、必ず、ふきこぼれに見舞われる。)
 超弱火で放置の間に、料理続行。
 まあ、なんでもよいのである。
 時間も十分ある。

お米の甘さを十二分に感じることができたら成功。・・・出汁の旨みなしで、お米とは本当に美味しいものなのだと、つくづく感じ入る筈である。年代にもよろうが。

ついでながら湯炊き式にも触れておこう。
この方式で、二人前の、純粋な「非和風粥」を作ると、これはこれで実に美味になる。そのレシピをご参考迄に。
日本米での話だが、タイ米でも結構なお味に仕上がる。つまり、似て非なる粥作りのお話をしているのでお間違えなきよう。

この場合、重要なのは、米を研いだ後の措置。
笊内で米粒に水を吸い込ませないこと。逆に乾燥させるのだ。そのため、広げて暫く放置する必要がある。温度や湿度にもよるが、1時間程度はかけたい。
当然ながら、米粒が割れてくる。和風だと、それは厳禁だが、非和風は割れないと駄目なので真逆。急ぎたいとか、さっぱり割れないなら、叩いてヒビを入れる位の強引さが必要。ともあれ、ヒビが生まれているようならOK。
そこで米をボールに集め、油を振りかけ、軽く揉んで数分放置。油を米に吸着させる。
その上で沸騰した湯に一気に投入。水の量は、和風と同じでよい。但し、絶対に蓋はしないこと。吹きこぼれない範囲での、最大火力での加熱。当然ながら、すぐに水量が減ってくるから、適宜足すことになる。和風同様に、米が凝集し底にこびりつくのを防ぐため、時々かき混ぜる必要がある。ただ、闇雲な全体撹拌は避けること。
ものの10分から20分もすれば、煮えてきた感がうまれる。後は、その状態で30分程度持続させればよい。
これで非和風粥の完成。

中国粥風ではあるが、その典型の、鶏スープ味で肉入りにしたかったら、この時点で、出来上がった粥に具や調味料・出汁を加えることとなる。これ以前に入れたりすればせっかくのお粥は台無し。

(source):「典座教訓全文(岸沢惟安)」「赴粥飯法全文(中根環堂)」@HIRO'S HOME PAGE

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