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2004.2.13 |
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観光小国…観光白書によれば、2002年の国際旅行収支(旅客輸送除外)は、受取4,408億円、支払3兆2,960億円である。観光小国を如実に示す数字である。(1)・・・と気軽に言っていられる時代は終わった。 石油に次ぐ膨大な支払いを何時までも続けられる筈がない以上、観光での増収の実現を図らざるを得まい。 と言うことで、観光産業振興が図られてきた。(2) 専門家を投入して政策を立案したと思うのだが、周囲を見渡しても、ほとんど変化が感じられない。一般人には遠いところで、観光キャンペーンが進んでいるのだろうか。 官庁特有の、一律平等型の予算ばら撒き政策を行っているのかも知れない。 観光産業振興を進めるなら、先ずは次ぎの質問にはっきり答えるべきである。 獲得したい顧客は誰か? それは何故か? ところが、この議論を避け、広く海外に「観光にいらっしゃい」と呼びかけるのが、日本の観光振興の特徴である。 観光のニーズはばらばらであるにもかかわらず、このような一律型キャンペーンが目立つ。 こんな無駄は早く止めるべきだ。 成熟した社会では、大量生産、大量販売は通用しない。観光業も同じである。 ところが、観光業には、この流れに逆らう組織が多すぎる。 既存事業への梃入ればかり行うのである。裏を返せば、新機軸を打ち出す流れを阻止する方向に動いているのだ。 ニーズに合わないサービスの延命が図られるため、新サービス提供がしにくい状態が続いていると言えよう。 本気で観光振興を考えるなら、先ずは、訪日観光客のニーズを明確にすることから出発すべきだろう。 繰り返しになるが、観光のニーズはばらばらである。 この認識が重要である。 2002年の訪日観光客データを見ると、地域別シェアは、アジアが65.2%(韓台中香55.2%)、北米17.1%(米国14.0%)、欧州12.8%(英国4.2%)、オセアニア3.8%である。(3)
観光客が急増しており、チャンスあり、と考えられている顧客群である。 アジアから見れば、日本の魅力とは、先進国の富裕生活における楽しみに触れる点といえるのではないだろうか。「日本の古典」に惹かれ、訪日しているとは思えない。 要するに、日本の伝統文化だろうが、西欧輸入文化だろうが、先進文化ならなんでもかまわない訳だ。 従って、日本国内でも人気がある東京ディズニーランドの魅力はただならないものがあろう。繁華街のウインドショッピングにも惹かれることだろう。 その点では、日本人が大好きな温泉も重要な観光資源となる。ウインタースポーツも、日本で人気がでれば、きそって訪問者が増えるだろう。もともと雪が珍しい地域の人々にとっては新鮮な喜びである。 しかし、如何に美しいリゾートエリアでも、都会型遊びとかけ離れてしまえば、幻滅を感じることになろう。 こうしたニーズを考えると、日本の魅力は高いと考えがちだが、そうとは限らない。 例えば、東京ディズニーランドは日本固有のものではない。アジアの人々の立場で考えれば、本当は、本場の米国へ行きたいのではあるまいか。もしも、時間とコストの制限上、東京を訪れているだけなら、香港にディズニーランドが開設されれば、日本の魅力はなくなることになる。 日本の観光基盤は脆弱なのである。 こんなことは、素人でもわかる筈だが、手を打つ知力に欠ける、というのが現実だと思う。 では、どうしたらよいのか。 簡単である。日本が富裕国となった根源を活かせばよいのである。 例えば、技術立国を称するなら、観光でも、その力を生かすべきである。 テーマパークが必要なら、アイデアはいくらでもあると思う。本気で取り組めば、道はひらけるのではないだろうか。 ハイテクを駆使した未来社会的なテーマパークでもよい。 アニメでは日本がダントツと誇るなら、キャラクターのテーマパークを強化する策もあろう。 あるいは、3次元歴史ドラマが体験できるテーマパークといったアイデアもあるかもしれない。 立体映像化された歌手やスーパースターのステージショーを行うこともできそうだ。 もちろん、ロボット王国を作ってもよいし、超未来車のレース場や、様々なオートバイに乗れるパークもありえよう。 残念ながらこのような動きは極めて弱い。業界融合型の大型プロジェクトが苦手なのである。メーカーにはテーマパーク運営スキルは無いし、観光業は狭い分野での経営能力しか磨いてこなかったからだ。地域振興は、官僚が取り仕切る体制になっている。これでは、上手くいく筈がない。 このため、テーマパークといえば、オランダやスペインを始めとする海外の情景を日本に移築した企画がまかり通る。これなら、既存観光勢力だけで、安心して取り仕切れるからだ。 今のままなら、日本の魅力の根源をはっきりさせないまま、上滑りの宣伝でアジアの観光客を集めることになりそうだ。空しい振興策が続きかねない。 (振興策を考えるより、運賃削減や渡航規制撤廃を図る方がましである。) 一方、欧州の観光客はアジアとは全く違うものを求めていると思われる。 おそらく「古都」や「首都」には興味はあるまい。来日すれば、一応は、眺めるかもしれないが、たいした魅力は感じまい。雑多で、訳がわからない街並が、満ち足りた成熟社会の住民の関心を引くことはないだろう。 物議を醸した、仏の政治家(サルコジ内相)の発言が、古い欧州社会に生きる人達の価値観を如実に示している。「香港は魅惑的な都市だが、東京は違う。東京は息が詰まる。京都も何が人々の感嘆を呼ぶのか理解できない。御所もうらぶれているように映る」というのである。(4) 欧州の人々は、存在しているだけに過ぎない建造物を見るために、遠い日本を訪れる気にはなるまい。入場料を払って、近代的な町中にある古い寺社仏閣を、一列に並んで見学するのでは、興醒め以外のなにものでもなかろう。なんの感激も味わえまい。 興味をひかれるのは、住民の文化/風俗や、生き続けている伝統工芸の方だろう。京都なら、錦小路の商店街見物や、町屋の生活に触れることができるなら、大喜びする筈だ。 都会でも、食い倒れ文化に根ざした住民のバイタリティを感じる、大阪南の飲食店街なら、とてつもなく面白い筈だ。 さらに言うなら、大都会よりは、低い山々に囲まれた田圃のなかで育まれた日本の「田舎の文化」の方に、極めて高い価値を見出すことは間違いあるまい。 もともと持っていた生活文化自体が、欧州の人々の関心を呼ぶのである。 アジアと欧州で、これだけニーズが違う。両者共通部分を探したところで意味など無い。 観光業振興の一般論では対応できないのは明かである。 タイや韓国で成功した観光キャンペーンを真似たところで、奏効する訳がない。 → (2004.2.14) (1) 平成15年版 観光白書 表1-3-5 国際旅行収支の推移 http://www.mlit.go.jp/hakusyo/kankou-hakusyo/kankou-hakusyo_.html (2) 運輸省は1996年に「ウエルカムプラン21」、2000年に「新ウエルカムプラン21」を打ち出した。 (3) 平成15年版 観光白書 図1-2-4 上位10カ国地域からの訪日外国人旅行者数の推移 (4) http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200401/17/20040117k0000e030040001c.html 「政治経済学」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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