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2004.2.20
 
 


土建大国の課題…

 誰でもが、日本は土建大国と言う。
 先進国のなかでは、この産業セクターに係わる人口比率/GDP比率が特に高いのだから、そう言われて当然だ。

 それだけ巨大産業なら、力もある筈だと思うが、実際のところ、世界的に見て競争力はどの程度なのだろうか?

 建設収支尻の月次変化(右図ピンク色の点(1))を見ると、この産業は出超を維持していることがわかる。
 参入障壁があるにしても、出超ということは、競争力があることを示しているといえよう。

 この業界は、1997年のアジア金融危機にともなう市場縮小と、海外企業への国内市場開放に直面したから、出超維持が危ぶまれていたが、頑張っているようだ。
 といっても、建設受取(右図紺色の点)を見ると低下傾向が見られる。これに伴って、収支尻の黒字も減ることになる。

 従って、先行きは暗そうである。

 特殊分野で技術力を発揮できる企業は別だが、高コスト体質の日本のゼネコンが競争激化が進む市場で、今のポジションを保てるのかについても、疑問が湧く。
  → 「ゼネコン等」 (2003.8.17)

 この業界の一番の問題は、この体質だと思う。

 安藤正雄千葉大学工学部教授は、大手ゼネコンは「工期やコストをきちんと守ることで発注者からの信用を獲得し、信頼関係を基礎とした長期的な取引関係を構築することに重点」をおいてきた、と指摘している。
 このため、「受注者は市場原理に従って選別され」ない仕組みができあがった。
 仕事に係わる全ての企業が、緊密な関係を結ぶことになる。他社に迷惑をかければ、排除されかねないから、各社ともに、一生懸命に業務の質を高める。この仕組みが上手く働けば、工期遵守や高品質工事の実現に繋がる訳だ。皆に収益が約束されているなら、この路線も悪くない。

 しかし、発注側が安価にこだわり始めれば、全員に対しての収益保証ができなくなる。そうなると、この構造はもろくも崩れる。
 生き残るために、互いに利益を取り合いかねない状況に落ち込む訳だ。工事の品質担保さえ難しくなりかねない。
 この業界は、まさに、このような転回点を迎えている。
 
 このため、各社とも、変身を図ろうとしているようだが、部外者には、どう変わろうとしているのか、よくわからない。
 「現場での工夫や技術開発・改良などは海外と比べて、はるかに優れ」ているかにもかかわらず、競争力が発揮できないと語られているからだ。
 それでは、どのようにして競争力を高めるのだろう。

 優れた部分があるなら、知恵を発揮すれば、活路がひらける筈だと思う。
 ところが、優れた部分が消えていくことを嘆く声ばかり聞こえてくる。・・・マネジメントの仕組みに欠陥があるのではないだろうか。

 日本のモノ作り産業の産業の競争力の基盤は現場の力だ。
 しかし、この力を事業の競争力に転化できたのは、マネジメント力があったからである。これを欠けば、競争優位に立てなかった。
 サービス産業はこの教訓を学ぶべきだろう。

 誤解を恐れず語れば、モノ作り産業の強みを、現場での、工夫や技術開発・改良と見てはいけないのである。
 製品製造過程で様々な問題を発見し、地道に解決することが、成功の鍵ではないことを知るべきである。

 見逃してならないのは、「高品質な製品を作れば高コスト化必至」とのドグマを破る仕組みである。

 常識で考えれば、製品の高品質化を図れば、必ず手間が嵩む。ここだけ見れば高コスト化の動きである。
 ところが、日本のモノ作り産業は、狭い視点から見ているから高コスト化に見えるだけ、と看破したのだ。より高い視点から眺めると、品質向上がコスト削減に繋がることに気付いたのである。
 品質向上活動とは、実はコスト削減のタネを発見する活動でもある。問題を発見したら、それに直対応してはいけないのだ。必ず、高い立場に立って、できるだけ大きく、より本質的な問題を見つける努力をする。そして、この大きな問題を解決することで、コスト削減を実現するのである。
 マネジメント力なくして、このようなことはできない。

 土建業界は、このようなタイプのイノベーションを創出できないのか、問われていると言えよう。

 --- 参照 ---
(1) http://www2.boj.or.jp/dlong/bs/data/bp004sr2.txt
(2) http://www.decn.co.jp/tokushu/75tok1/200310164201.htm


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