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2005.2.2
 
 


「会議は踊る」を狙うEU…

 WTOの機能は風前の灯火だが、さらにやっかいな問題が持ち込まれた。航空機産業への政府補助金問題である。

 BoeingとAirbus間の政府補助規制合意(1992年(1))が破綻したからだ。

 言うまでもないことだが、米国もEUも、安全保障と先端技術開発力の維持の観点から、海外企業に航空機産業を任せることなどあり得ない。東西冷戦後の軍需産業は集約化が進み、米 v.s. EUの2大ブロック対決の様相を呈しており、どちらも引く訳にはいかないからだ。
  → 「Fortune500を読む(2:航空・防衛産業) 」 (2003年8月3日)

 こうした環境下で、AirbusがA380をテコにしてさらに順調に伸びる一方で、Boeingの業績の長期低落に歯止めがかかりそうにないのだから、紛争が勃発するのは当然といえよう。

 この分野での公平な競争など夢物語と皆がわかっている。
 にもかかわらず、WTOの紛争解決手続きを使う発想には驚かされる。

 もしも、WTOでまともに裁決を行えば、結果は見えている。
 BoeingとAirbusは膨大な補助金を受領しており、これは貿易のルールから見て不当、との結論を出すしかあるまい。そして、罰を裁定することになる。
 しかし、両者ともそれに従う筈などなかろう。

 とはいえ、流石に、そこまでの茶番劇は避けたようだが、WTOでの議論は続けるようだ。

 そもそも、安全保障に関係する軍需産業に密接に係わる大型航空機問題を貿易障壁論議に持ち込むことがおかしいのである。

 にもかかわらず、「理想論」を語る人がいる。

 WTOでルールを定め、違反に対する罰則を決め、国際的な指導者に監視を委ねよ、と主張するのである。(2)
 一見、正当な話に聞こえるが、実態は軍需産業なのだから、多くの国を集めた国際的民間貿易の枠組みを作るのは無駄な努力である。
 と言うより、誤解を恐れず語れば、偽善と言った方が正しい。

 EUが、WTOで議論を進めさせた理由は単純である。
 日本、中国、ロシア、カナダ、ブラジルといった国々を競争相手として登場させないよう、歯止めをかけたいのである。
 この点だけは、米国の産業界と利害が一致する訳だ。

 しかし、一番の目的は、こうした国々をWTOでの議論に参加させ、Airbusの優位性を強化することだろう。

 例えば、リージョナルジェット機市場で熾烈な競争を続けているカナダのBombardierとブラジルのembraerや、大市場になりそうな中国も参加させ、議論を散逸させれば大成功である。
 Boeing-日中連合を崩し、アジア連合勃興を抑えることができれば万々歳だ。
 WTOでの論議を、米欧間でなく、その他の国々に広げることで、Boeing提携国の政府支援を抑制し、Boeing連合に楔を打ち込みたいのである。

 EUにとってはまさに好機到来である。

 2004年、Airbusはついに超ジャンボ機A380を投入した。これを契機に、かつてのBoeingのドル箱、大型機市場で圧倒的地位確立を狙う筈だ。新型機開発を怠ってきたBoeingには直接対抗手段は無い。他のセグメントでの提携による顧客囲い込みができなければ、さらなる没落は間違いあるまい。

 Airbusは、さらに、A350開発を始めることを決定した。(3)
 Boeingが開発中の長距離中型機7E7 Dreamliner対応である。2年ほどの遅れになるが、先行者への納入企業を上手く使い、開発費用を抑える目論みと思われる。

 要するに、WTO論議とは、当座、A380とA350を売るための有効な手段なのである。

 早速、Peter Mandelson通商担当委員は、中川昭一経済産業相と会談し、日本政府がBoeingへの間接的補助金を提供しているとして圧力をかけた。補助金規制交渉に参画の意向は無いとの日本政府の反応を引き出すだけで終わったが、これは序幕と見て間違いあるまい。(4)

 政治的な画策はEUだけの問題ではない。日本の7E7 Dreamlinerプロジェクトへの投資自体も純政治的な決着と見るしかない。(5)
 長距離中型機の需要を考えれば、日本参画に必然性があるとは思えないからだ。

 このような状況下で、多くの国を集めれば、WTOでの議論は混乱する一方だろう。

 「会議は踊る」で利益を狙う方策だけは止めて欲しいものである。それが何をもたらすかは、欧州は歴史から学んだと思うのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/04/232&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
(2) Jeffrey Garten “How to head off an aerospace battle”Financial Times 2005年1月10日
(3) http://www.baesystems.com/newsroom/2004/dec/101204news2.htm
(4) Sanchanta & Alden “Japan opts out of airline subsidy talks”Financial Times 2005年1月21日
(5) 7E7 Dreamlinerは機体開発が米日中、エンジン開発が米英日という組み合わせ 日本は約3分の1を担当


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