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2008.3.3 |
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グローバル経済の新潮流…成長率約4%のサウジアラビアで、史上空前の建設工事ラッシュが続いている。(1)2008年は成長率は5〜6%になるのは間違いなさそうである。なかでも、世界中から労働者が集まり、急ピッチで工事が進んでいるのが、Petro-Rabigh(2)(Saudi Aramco・住友化学の50/50JV)建設プロジェクト。完成すると、エチレン130万t、プロピレン90万tの超巨大プラントが誕生し、EPPE/LLDPE/HDPE/EGPP/POを生産する石油精製・石油化学コンプレックスが立ち上がることになる。(3) 日本から見れば、虎の子の一大プロジェクトだが、今や100万tクラスの大型プラントは珍しいものではない。世界需要でみれば、エチレン換算では約1億tだから、年率数%成長でも、(4)毎年数百万tの生産能力増強が不可欠になるからである。 だからと言って、生産施設さえあれば、黙っていても利益がついてくるとは限らない。 原油価格高騰に伴い、天然ガス価格も急上昇したから、資源確保能力で勝負がつく時代に入ったからだ。 米国とサウジアラビアのエチレン原料単価が一桁違ってもおかしくないというところだろう。こうなると、技術力でどうにかなるレベルではない。 米国のエチレン輸入国化は避けられまい。 GEのPlastic事業がSABIC(Saudi Basic Industries Corp.)に売却されたが、(5)経営力でなんとかなるような事業ではなくなったのだから当然の流れと言えよう。 逆に、SABICは欧州ですでにDSMの石油化学部門を買収しており、(6)果敢に下流部門へと歩を進めることになる。日本の下流にも手を出したいところだと思われる。 要するに、石油化学業界で生き抜くためには、低コストの原料調達・生産と高効率の販売網が不可欠になったということである。グローバルな視点で、どこに生産拠点を持ち、どの市場にターゲットを絞るかで収益性が大きく左右されるから、その能力を欠く企業は競争どころの話ではなくなった訳だ。 日本企業は、この流れのなかで、Petro-Rabighを通じて、下流でかろうじて土俵に残ったと言えるだろうか。言い方を変えれば、上流ではついに土俵にも登れなくなったということでもある。言うまでもないが、ミレニアムを期して、メジャーがさらなる巨大化を図り、巨大な総資産とリストラによる強靭な体質を実現したからだ。 (Exxon/Mobil, Total/Fina/Elf, BP/Amoco/Arco, Chebron/Texaco, Conono/Phillips) この結果、まともな資源国は、貴重な資源をフルに活用できる幅広い能力を持つ企業しか相手にしなくなった。資源価値の極大化を考えれば、当然の姿勢である。 従って、資源外交も性格が変わってきた。外交力に意味があるのは、軍事独裁国家における、軍事的支援と資源のバーター取引になってきたのである。 これは、石油を取り巻く産業の大きな流れだが、これはこの産業の特殊なものと見るべきではない。 世界の分業体制がボロボロと崩れ始めており、世界の産業構造が変わりつつあるという、大きな流れの一つでしかない。 例えれば、少し前までは、資源は中東、ハイテク部品は日本、製品製造は中国、ITサービスはインド、そして、米国はそれらを包括する金融業を統括するという、基本構造ができていた。それが揺らいでいるのだ。 中国は世界の工場という、古典的、かつステレオタイプの見方では流れは読めなくなってきたと言うことでもある。 その典型が、ここで述べたサウジアラビア。資源輸出国ではなく、金融業主体になるかも知れないし、石油化学産業の雄になるかも知れないのだ。 インドも同様。国内インフラはさっぱり整わないが、その安価な労働力をフルに活用してグローバルな形での製造業参入を大胆に始めているからだ。すでに、世界の鉄鋼業のリーダーはインド企業と見てもよいだろう。そして、自動車産業の雄になる可能性さえある。 → 「第2のフォード現る 」 (2008年2月13日) まさに、“The Mindset Has Changed”(7)である。 数年前まで、Bombayなどと比較すべきもない都市だったDubaiが、今や繁栄を謳歌しているのが現実。そこは、実はインドから2時間の距離。そんなグローバル競争が繰り広げられる時代に入ってきたのである。 --- 参照 --- (1) JAD MOUAWAD: “The Construction Site Called Saudi Arabia” NewYorkTimes [2008.1.20] http://www.nytimes.com/2008/01/20/business/worldbusiness/20saudi.html (2) http://www.petrorabigh.com/ (3) 「ラービグ計画の実施について」 住友化学 2005年 http://www.sumitomo-chem.co.jp/japanese/ir/pdf/setumeikai/rabigh0508.pdf (4) 「世界の石油化学製品の今後の需給動向について」経済産業省 2007年4月 http://www.meti.go.jp/policy/chemistry/main/teikihapyousiryou/070419h18sextukajyukyu.pdf (5) Rachel Layne & Justin Baer: “Sabic to Buy GE Plastics for $11 Billion, People Say” Bloomberg [2007.5.18] http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aPyo0FoaCEak&refer=home (6) “Sale of DSM Petrochemicals to SABIC completed” DSM [2002.1.28] http://www.dsm.com/en_US/html/media/press_releases/DPC_to_Sabic_completed_June282002.htm (7) ‘The Mindset Has Changed’(Interview with Ratan Tata, Chairman of Tata group) Businessworld [2008.1.4] http://www.businessworld.in/content/view/3324/3421 (世界地図) (C) アビス “世界地図・世界の国旗” http://www.abysse.co.jp/world/index.html 「政治経済学」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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