表紙 目次 | ■■■ 分類の考え方 2014.8.19 ■■■ 日本の蛇を考える 現代の日本には鰐は棲んでいないが、その理由は気候的に寒すぎるということになっている。しかし、鰐は冬眠可能。蛇同様に日本に棲んでいた可能性はありそうに思うという話をした。 → 「巨大鰐君の長寿の秘訣」 [2014.8.15] そのついでと言ってはナンだが、同じ爬虫類の蛇についても触れておこう。こちらは熱帯-亜熱帯だけが棲息地という訳ではない。 多摩動物公園でアオダイショウをみかけたことがあるが、丘陵地帯だから当たり前とはいえ、突然登場すればビックリする。流石に上野動物園には出ないかと思いきや、上野の山からやってくる輩がいるそうだ。考えてみれば、広尾の有栖川公園や神田川沿いの江戸川公園でも、目の前を横切る茶色の蛇に出くわしたことがあるから、緑がある場所なら、都心であろうが珍しい動物と考えるべきではないのだろう。 関東では、以下の種類が棲息しているようだ。 もちろん、図鑑的情報での話であり、マニア以外は知る由もない。それに、個体変異なのか、環境による変化なのかわからぬが、見かける蛇は、動物園で覚えた外見とは違うし、図鑑を見てもわからないのが普通なのだ。 そこで勝手にコメントをつけてみた。蛇好きとは程遠い、小生が、解説を読んで、棲み分け情景を想像して記載しただけだから、そのおつもりで。 アオダイショウ・・・[人家と林野]木登り/土手や崖上り得意 鳥好きでは ジムグリ・・・[藪や林]穴掘り名手 ミミズや土中の昆虫幼虫あさり シマヘビ・・・[岸辺]湿った場所で鋭い動き 陸棲両生類狙い ヤマカガシ・・・[水面そば]泳ぎ上手 魚や蛙食 ヒバカリ・・・[泥地]泥もぐり得手 おたまじゃくしや水棲幼虫食 タカチホ・・・[湿った森の夜]枯葉かきわけ行動 ミミズ主食 シロマダラ・・・トカゲがいるところ マムシ・・・本来は、ネズミ等がいるところ(人家近辺は徹底駆逐済) ぶらーみに盲蛇・・・[おそらく移入]関東では、離島の小笠原のみ (これ以外の日本の蛇は、南方の島々に棲んでいるようで、結構、種類は多い。末尾に一覧表をつけておいた。) こんなことを敢えてしてみたのは、蛇信仰の対象の蛇とは「具体的に」はどこまで含まれているのか気になったから。頭の後に眼があるように見えるコブラ、ニシキヘビのような大蛇、そこらじゅうにいるアオダイショウ、猛毒のマムシ、海蛇、etc.・・・これらすべてを「蛇」として同一概念で扱うことができるのか、はなはだ疑問だからでもある。 と言って、倭人が「抽象化」した蛇概念を作りだしていたとも思えないし。 こうした分野では、吉野裕子(1916-2008)の著作が有名。そうなると、先ずは、ここら辺りの検討から。 しかし、どう取り扱うかは、かなりの骨。蛇の著作すべてを読んだ訳ではないから決めつける訳にはいかぬが、正直なところ、なんでも蛇信仰に結びつけようとの姿勢が目立ち、ついていきかねる部分が少なくないからだ。・・・レビュー的に「信仰」の全体像を描いた上で、蛇信仰を位置付けている訳でもないし、個々の領域で、異説と対比した検討がなされているようにも思えないからだ。 しかし、こうした「ナンデモ被せる」見方は、日本の土着思想そのもの。時代に合わせて、ご都合主義的に「習合」する信仰は日本の得意技でもある。従って、吉野論は日本の風土から生まれた「正統な」理屈がベースになっているとも言えそう。それを踏まえて、考えてみたい。 まあ、言われてみれば、「蛇」は、確かに信仰対象になり易い生物である。吉野分析を自分なりに書きかえてみれば、こうなるか。 手足無しの怪しい体つきをしている。・・・「霊力」 体の動きが雷を連想させる。・・・「超能力」 口から出る舌の動きが火を思わせる。・・・「〃」 目に瞼がなく、強烈な視線を感じさせる。・・・「呪力」 トグロの渦巻が異常感を与える。・・・「生命力」 何処にでも出没する。(土中、水中、水面、樹上、狭い場所)・・・「支配力」 巨大な動物を倒す。・・・「剛腕力」 性的威力イメージがある。(男根形状の頭)・・・「精力」 脱皮して生まれ変わる。・・・「再生力」 土のなかで冬眠する。・・・「再生力」 水辺に来る動物を倒す。・・・「流水神眷属」 日没・朝日の洞窟に棲みついている。・・・「太陽神眷属」 山から民家にやってくる。・・・「山神眷属」 稲を狙う鼠の天敵である。・・・「稲魂眷属」 海のはるかかなたから流れ着く。(海蛇)・・・「渡来神」 各論では、なかなか鋭い指摘が多く、納得できる話。 問題は、これらすべてを総合し、一気に「蛇」信仰が成立したという訳にはいくない点。一つの塊というか、なんらかの概念が原初として存在し、様々なものが次々と習合を重ねていったのだろうが、重要なのはあくまでも最初。それがどれなのか、はなはだ想像しにくいのである。 古事記の感覚で考えれば、少なくとも異なる3つの見方が併存していそう。 (1) 冥界に棲む、雷のような恐ろしげな生物。 マムシ(真虫)だと思われる。 (2) 切り捨てられるオロチ。 現実の蛇ではなく、フィクション。 剣として新たな信仰形態へと変態を遂げる。 渡来の蛇概念では。 (3) 「人家と林野(山)」を行き来する、 小さな穴を通り抜ける神。 蛇の姿を暗示。 山の霊気そのものであり、 男としての精力を発揮する神的存在。 青大将かも。 気になるのがオロチである。概念だけママ取り入れたとは思えないから、大蛇感覚を生む蛇がいたのだろうが、そんな生物は棲んでいなかった筈。しかし、ニシキヘビが船にのせられて渡来したとも思えない。そうなると、黒潮に乗って「生きて」漂流してくるセグロウミヘビを指すことになろうか。大蛇ではないが、海を照らして光り輝きながら渡ってくるような模様のものもいるのだろう。出雲では「龍蛇様」とされているそうだから。宍道湖に注ぐ佐陀川沿いにある佐太大神社に祀られているということか。(秘匿ご祭神)そこは、神々が去来する神在祭(お忌さん:歌舞音曲禁忌)で知られているが、そのころ海蛇が渡来するのだという。 素人が考えられることは、残念ながら、この程度である。 これ以上深堀できないのは、実は、蛇信仰の分類自体に欠陥があり、ゴチャゴチャで頭のなかで考えをまとめることができないからである。 ・蛇自体が「神」・・・天神 or 国ッ神。 ・「神」の一部(太陽を運ぶ烏のような役割) ・「神」の依代(天照大御神の鏡のような役割) ・「神」の標章 ・「神」の渡来役(春日大社の鹿のような役割) ・「神」の守護役(狛犬のような役割) ・「神」の言葉の伝達役 ・「神」が最高に悦ばれる捧げもの(犠牲) それに、そもそも、「神」とは違う可能性もあろう。 以上のどれに当たる信仰かをはっきりさせずに云々しても、それこそ林檎と蜜柑を一緒くたにして議論するようなものになってしまうのでは。 ─・─・─日本の蛇─・─・─ ***視覚欠落種メクラヘビ科 メクラヘビ属*** ぶらーみに盲蛇[メクラヘビ](鈎盲蛇) ***大蛇類ボア科(胎生類)、ミシキヘビ科(卵生類)*** 日本には棲息しない。 ***湿潤森林棲蝸牛食特化蛇セダカヘビ科 セダカヘビ属*** 岩崎背高蛇(琉球鈍頭蛇) ***湿潤森林棲蛇タカチホヘビ科 タカチホヘビ属*** 奄美高千穂蛇(日本背蛇) 台湾高千穂蛇/八重山高千穂蛇 高千穂蛇(背黒蛇) ***無毒/弱毒類ナミヘビ科*** アオヘビ属 先島青蛇 琉球青蛇[オーナジャー] オオカミヘビ属 梅花蛇[バイカダ]/先島梅花蛇 サワヘビ属 喜久里沢蛇 ジムグリ属 地潜[ジムグリ] ナメラ属 青大将 縞蛇 筋尾滑蛇[スジオナメラ]/先島筋尾/[移入]台湾筋尾 臭蛇[シュウダ]/与那国臭蛇 ヒバカリ属 烏ひばぁ 日量[ヒバカリ]/男女日量 宮古ひばぁ 八重山ひばぁ ヒメヘビ属 ナガヒメヘビ/宮良姫蛇[ミヤラヒメヘビ] マダラヘビ属 赤楝蛇[アカマタ] 赤斑[アカマダラ]/先島斑 白斑 ヤマカガシ属 山楝蛇[ヤマカガシ]<毒> ***陸棲神経毒蛇類コブラ科コブラ亜科***<毒> ワモンベニヘビ属 ひゃん(日照)/久米島はい/はい(日照)[ナナフサー] 輪紋紅蛇/岩崎輪紋紅蛇(方言フニンダマハブ) ***海棲毒蛇類コブラ科ウミヘビ亜科***<毒> ウミヘビ属 黒頭海蛇 黒星海蛇 斑海蛇 エラブウミヘビ属 青斑海蛇 永良部海蛇[イラブー] 広尾海蛇 カメガシラウミヘビ属 飯島海蛇 セグロウミヘビ属 黒海蛇---日本海側北海道まで漂着あり (トゲウミヘビ属) [漂着]棘海蛇(印度洋平颏海蛇) ***陸棲出血毒蛇類クサリヘビ科マムシ亜科***<毒> ハブ属 先島波布 [移入]台湾波布 吐噶喇波布 波布 マムシ属 対馬蝮 日本蝮[ニホンマムシ] ヤマハブ属 姫波布[ニーブヤー] (参照) 日本爬虫両棲類学会 日本産爬虫両生類標準和名 http://zoo.zool.kyoto-u.ac.jp/herp/wamei2014.06.17.pdf (C) 2014 RandDManagement.com |