表紙 目次 | ■ 分類の考え方 2015.2.22 ■ 「生物5界」観はわかりにくい 「盗葉緑体現象(Kleptoplasty)」という聞きなれぬ特徴で知られるウミウシが存在する。光合成能力は動物は保有せず、原則的には、植物の能力とされているのに、軟体動物の貝類が保有しているのだ。 → "Solar-powered Sea Slugs In oceans all over the world, sea slugs are at the cutting edge of harvesting alternative energy." By Rachel Sullivan ABC Science 07 June 2007 もっとも、動物以外でも同様なことがおきる。2007年には、Natureに繊毛虫がクリプト藻から葉緑体を盗んだとの論文が掲載された。 ウミウシの場合、光合成する藻類を生きたまま取り込んで共生しているというスゴ技ではないことが判明している。葉緑体以外はすべて消化し尽くしまい、葉緑体のみ自分の細胞内に挿入して光合成機能を発揮させるからだ。葉緑体は自律性が高いからたまたま生じたと見れないこともないが、長期間に渡りその機能を維持するので、そのような解釈には無理がありすぎる。本質的な動きと考えるしかないのである。 と言っても、よくわからないかった訳だが、2015年に入り、ついに新しい知見が提供された。植物のような機能発揮の根拠は、藻類の葉緑素の遺伝子を取り込んだことによるとの研究レポートが登場したのである。 エッ、動物が、植物では無いとはいうものの、藻類の遺伝子を取り込むことができるのか!本当かね。[植物の葉っぱという印象のエメラルドウミウシによるウチワサボテングサの葉緑体取り込み] → "Sea Slug has Taken Genes from the Algae it Eats, Allowing it to Photosynthesize Like a Plant, Study Reports" Posted by Diana Kenney Tuesday, Feb 3rd, 2015 at 12:13 pm The blog of the Marine Biological Laboratory 葉緑体にはDNAがある訳で、その機能を発揮させるには取り込んだ細胞側にもそれに対応する遺伝子が必要との理屈は極く自然な主張と言えよう。 もともと、葉緑素を持つ生物とは、光合成細菌(シアノバクテリア)を細胞内に取り込むことに成功した種にすぎない訳で、ボディプランに係るような本質的なものではないことになろう。 要するに、養分を自ら生産できる光合成生物として一括りした「植物」という概念は捨て去る必要があろう。 そのように考えれば、「動物」についても、定義が問われることになる。 葉緑体を持っている、鞭毛虫やミドリムシは、植物なのか、はたまた動物なのか、どちらにも該当しないのか、という問題が持ち上がるからである。 このように考えていくと、生物を5つの「界」に分けるという見方は、はたしてどれだけの意味があるのか疑問。 原核生物(モネラ)界 原生生物界 植物界 菌界 動物界 全体観を重視するなら、これは拙かろう。 大分類したければ、真核生物をまとめてしまい、原核生物を2つの細菌に分けるしかあるまい。 真核生物 始原(古)細菌 真正細菌 → 動植物分岐を想像すると[2014.12.8] 葉緑体を考えると、真核生物のうち、比較的まとまりよく映る、動物、植物、菌をまとめて、収まりが悪いものすべてを原生生物とする方式で分類しているとしか思えないからだ。これでは、進化を反映した分類とは言い難く、社会的通念に阿った分類以外のなにものでもなかろう。 ちなみに、冒頭のウミウシは、 盗葉緑体特殊動物・・・<真核生物>動物界 細胞内にとりこまれたのは「藻」の葉緑体だが、その系譜をたどれば、発祥元は、 藍色細菌(シアノバクテリア or 藍藻)・・・<真正細菌>原核生物界 この葉緑体を取り込んだのが、「植物系」生物とされ、3種類に分かれる。 ┼┌緑色植物(緑藻類と「陸上植物[苔,羊歯,裸子植物,被子植物]+水草/海草」) ┌┤ │└紅藻 ┤植物界 └─灰色藻 ちなみに、緑色植物に含まれる緑藻類には以下のような藻が含まれる。(車軸藻はどんな位置付けになるのかよくわからない。) 緑藻 プラシノ藻 トレボウクシア藻 アオサ藻 車軸藻(種子植物的な藻なので陸上植物近類) 知識もないのに、一知半解を厭わずに、わざわざ書いてみたのは、「プラシノ藻」が<原生生物>に取り込まれているからだ。 緑虫(単細胞生物「鞭毛虫」の仲間) クロララクニオン藻(単細胞で糸状仮足アメーバ様) これらの生物と同様に、単細胞で鞭毛があるものの、これらとは明らかに異なる系統と見なされる「藻」もある。なんと、こちらは上記の紅藻由来だという。 クリプト藻 渦鞭毛藻 繊毛虫 ここらは、不等毛藻の近縁らしい。もちろん、紅藻由来の葉緑体を持つ。大型の海藻が含まれる群である。 褐藻・・・昆布や若布等 黄緑藻・・・淡水系 珪藻 5界に拘るなら、素人的には、ここらは一括りにして<菌>に入れるしかないのではという気になる。そうでなければ、<原生生物>か<植物>に突っ込むしかないからだ。いずれを選ぶにしても、滅茶苦茶感は免れまい。 これだけ並べればおわかりだろう。 もともと、「藻」とは、光合成する能力があるというだけの曖昧な概念である。しかし、そんな分類が通った時代もあった訳で、ついに破綻をきたして今に至っているだけのこと。しかし、それでは、それぞれの藻は5界のどれに当たるかという話になると、事態はたいして変わっていないことがわかろう。(菌と植物[緑藻]が共生している地衣類をどちらに分類するかという話ではない。) それに、そもそも共生と記述するが、それが遺伝子レベルに係っているなら、樹状の系統分岐では語れないことになる。離れている枝が実は繋がっているということになるのだから。 ともあれ、5分類は早く止めるべし。破綻確実な概念を暗記させるなどどうかしている。 (C) 2015 RandDManagement.com |