表紙 目次 | ■ 分類の考え方 2015.7.6 ■ 陸上化時代を彷彿させる植物の分類 茎だけで、葉が無く箒のように枝分かれしている上に、根も茎そのものという、いかにも原始的な風合いの"園芸"植物がある。現在形でなく、過去形か。小生はついぞ見かけたことがないから。 しかし、天保の頃、この盆栽が江戸で大流行したという。高価なものになつなると、家作と交換できるほど。 名前は松葉蘭であるが、もちろん、蘭の仲間ではなく、見た感じは特殊な苔に近い。 ・・・図譜を眺めたのである。花銘所載数は122で、うち60品が色刷りだとか。 → 長生舎主人[栗原信充]:「松葉蘭譜」1836年@NDL近代デジタルライブラリー 奇品がとてつもない金額で取引されていることに関心があるようで、茎形態の変異が生まれやすいということで、白羽の矢か。 まあ、もともと奇妙な植物であり、植物学者なら、興味を覚えるのは間違いないが、園芸植物好きの一般人が大騒ぎするのは理解し難いところ。 牡丹や紫陽花を愛でているうちに、奇品も欲しくなるというのとは訳が違う。観賞ポイントは、せいぜいのところ、茎の分岐形態なのだから。まさに、コレ如何にである。 変異品の名称が凝っている。・・・雲龍獅子、七寶縮緬、麒麟角、金剛獅子、鳳凰柳、折鶴、髭棒、友白髪、燕尾、青珊珸、太郎斑、富士雪、等々。 ともあれ「おカネはそこそこあって、ヒマもあった同好の"士"のコミュニティができあがっていたことがわかる。 奇品それぞれにの小枝の形態に合わせて植木鉢のデザインも工夫されており、その注力ぶりは半端なものではない。 幕臣にとっては、士農工商の枠組みを越えた、実利とは無縁な知的なお付き合いができる嬉しさも大きかったにちがいない。 そんなことを考えると、「松葉蘭」が、こうした新時代の人達の気を引いた理由もなんとなく合点がいく。図譜のペンネームが長生舎主人だからだ。 長生草とは、岩檜葉[イワヒバ]のこと。 江戸期園芸品種の場合は「巻柏」と表記したようだが。こちらも、松葉蘭に負けず劣らず流行っていたのである。 この2種類を、現代の分岐分類学で眺めると、陸上植物誕生の頃を彷彿させる類に当たる。いわば元祖。変異の多さから、なんとなしにそれを感じとっていたから、夢中になったのかも知れぬ。 先ずは、「藻」は一体、どのような定義になるのだろうか。そして、どこからどこまでなのだろうというのが、素人の偽らざる疑問である。 → "「藻」だらけなので生物分類は難物"[2015.3.5] 緑藻系で一括りか。 ┌灰色藻 ┤ │┌紅藻 └┤ ┼│↓クロロフィルb 緑色化 ┼│┌プラシノ藻 ┼││ ┼└┤┼┼┌トレボウクシア藻 ┼┼│┼┌┤ ┼┼│┼│└緑藻 ┼┼│┌┤ ┼┼││└石蓴[アオサ] ┼┼└┤ ┼┼┼│┌接合藻 ┼┼┼└┤ ┼┼┼┼│↓多細胞化 ┼┼┼┼↓ 車軸藻は苔と同じグループでよいのだろうか。そうそう、日蔭鬘、岩檜葉、松葉蘭、木賊は羊歯の仲間と考えてよいのかも、よくわからん。 ┌──"水中棲"車軸藻類 │↑"水中棲"のまま ┤◆ │↓陸上棲開始 │┌───【苔】・・・・・・・・・・・・・・・「無葉」 ││ └┤┌──【角苔】 ┼└┤ ┼┼│┌─【蘚】 ┼┼││↑無維管のまま ┼┼└┤◆ ┼┼┼│↓有維管体制開始 ┼┼┼│┼┌──日蔭鬘・・・・・・・・・「小葉」 ┼┼┼│┌┤ ┼┼┼│││┌─岩檜葉[イワヒバ] ┼┼┼││└┤ ┼┼┼││┼└─"水中棲"水韮 ┼┼┼└┤ ┼┼┼┼│┌─────------種子植物類 ┼┼┼┼││↑種子化 ┼┼┼┼└┤◆ ┼┼┼┼┼│↓無種子のまま ┼┼┼┼┼│┼┌松葉蘭・・・・・・・・・「無葉」 ┼┼┼┼┼│┌┤ ┼┼┼┼┼││└花蕨,花鑢 ┼┼┼┼┼││ ┼┼┼┼┼└┤┼┌─竜鱗[リユウビンタイ] ┼┼┼┼┼┼│┌┤ ┼┼┼┼┼┼││└─木賊 or 砥草・・・・・・「楔葉」 ┼┼┼┼┼┼└┤ ┼┼┼┼┼┼┼│↓・・・・・・・・・・・・・・・「大葉」 ┼┼┼┼┼┼┼│┌───薇[ゼンマイ] ┼┼┼┼┼┼┼└┤ ┼┼┼┼┼┼┼┼│┌──裏白,苔忍 ┼┼┼┼┼┼┼┼└┤ ┼┼┼┼┼┼┼┼┼│┌─蟹草 ┼┼┼┼┼┼┼┼┼└┤ ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼│┌(その他の羊歯) ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼└┤ ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼└"水中棲"羊歯 ただ、4.8億年前に水中棲藻類が陸上に進出したと想定されており、現存する藻では、車軸藻が陸上進出藻に一番の近縁と見て間違いないらしい。 (細かな分岐順序例:陸上植物←車軸藻類←コレオケーテ類←ホシミドロ類←クレブソルミディウム類←クロロキブス類←メソスティグマ) 素人的には、ここらは生殖の仕方で分類するのがベストということか。これが、何を意味しているのか、直観的にわかるシナリオが欲しいところ。まあ、水という媒体を欠けば、精子が卵子に辿り着くのは厄介な仕事になるから、ある程度の想像はつくものの。(配偶体を雌雄体としてある。) 【雌雄体】 ・・・"水中棲"車軸藻 │ 【雌雄体】,【胞子体】 ・・・絶滅[化石:アグラオフィトン・マヨール] │ │┌【雌雄体】-胞子体 ・・・苔 └┤ ┼└【胞子体】,【雌雄体】 ・・・羊歯 ┼┼│ ┼┼【胞子体【雌雄体】】 ・・・種子植物 (参考) 坂山英俊[神戸大学大学院理学研究科]:「植物の上陸作戦=シャジクモの辿った道」BSJreview 2010 (C) 2015 RandDManagement.com |