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■■■ 2015年4月23日 ■■■

光輝貝類…

     君を手に とりいつくしむ 幸せに
       心おどらせ 時をわすれて
  あちきち作
          http://www.takaragai.jp/otome.tanka.htm


高貴な貝と言えば、貨幣として大量に使われていた「宝貝/Cowry/寶貝」 [→2006年3月31日] 。こればかりは、他の貝と見間違えようがない。輝くような光沢がある貝殻などそうそうあるものではないからだ。従って、ビーチコーミングでは一番に拾われるので、浜にたまたまのんびり遊びに行っても、あるのは表面が削れたものだけ。沢山流れてくる浜だと、さらに出会う確率は低くなる。お土産品として売るための収集活動が朝一番で行われているからだ。そんなこともあり、小生は宝貝拾いをしたことがない。だから知識に欠けるという訳ではなく、もともと浅学なだけ。
と言うことで、一寸、調べてみたくなったりする訳である。

この貝はその形状で桃子、棗実、亀背、翁面、括枕の5種類に分かれるそうだ。
と言う情報は、19世紀の旗本御家人が記した貝類図鑑からの受け売りである。[→武蔵石寿+服部雪斎,他 画:「目八譜」 1843年 (C)NDLS]

その第十巻 寶貝には、「貝子 子安貝 寶貝 四十七品」の美麗な絵と解説が満載。・・・
(1)柘榴貝[子],青柘榴[(2)麦粒貝],(3)白玉,(4)貝子,
(5)白貝手,(6)餘泉,(7)黄貝子,(8)縮緬貝子,
(9)霞貝子,(10)出貝[子],(11)珠貝,(12)眼貝子,
(13)櫻貝子,(14)棗貝子,(15)恵貝,棗貝子[(16)餘𧵄],
(17)網代貝子,(18)西洋貝子,(19)花紋貝子,(20)菖蒲貝[子],
(21)鯖貝子,(22)綬貝子,(23)糸碪[不偏],(24)霰貝子,
(25)鮫貝子,(26)浮貝[子],(27)紫貝[子],(28)碪手[貝子],(29)星碪,
(30)柳絞,(31)黒碪,𤾽貝子[(32)一文字],(33)紫碪,(34)花貝子,
(35)筆ノ穂,(36)女郎花,(37)床貝[子],(38)琉球貝子 or 子宝貝,
(39)綿帽子,(40)岩石貝[子],(41)花丸雪,(42)小紋貝,(43)腹[口]黒碪,
(44)八丈宝,(45)屋久嶋宝,青_貝[(46)星宝],(47)西洋宝


現代に当て嵌めるとどうなるのかは、素養を欠くので検討していないが、おそらくこの辺りを出典として、その発想を踏襲しながら命名したものと思われる。
ざっと見てみようか。

先ずは、コレクター垂涎モノらしき名前。
日本【希少】,王様【高額】,神聖【高額】,龍宮,金冠,翁,浦島,夢
立派との評価はこちらか。
本白金瑪瑙,鼈甲,亀甲,鼈[スッポン]
ただ、マニア好みの名前はこちらではなかろうか。冒頭の句からの推測にすぎぬが。
乙女【希少】,姫,姫原,生娘,柔肌,髪筋

もともとは、南島から頂戴するものが多かった筈で、一般的な名前としては、地名だったかも知れぬ。そのうち、代表種の名称になったということでは。産地以外は、格別なおぼしめしある収集家の土地なのだと思う。
網代,八丈,屋久島,偽屋久島,細屋久島,姫屋久島,沖縄,天竺,南洋,櫻井,寺町【希少】

極く普通に見つかるものは単純な色名になるもの。
茶色【本邦ポピュラー】,黒,黒原,赤茶,黄色,鼠,薄茜
ただ、日本の場合、花好きだから、それを連想させる名称が喜ばれることになる。もちろん、花だけではないが。
花弁【南島ポピュラー】,飾女郎花,黒百合,菖蒲,無花果,蜜柑,胡桃
特殊な模様もある訳で。
【本邦ポピュラー】,褄紫目,雛目,褄紅目,網目,蛇の目,綾目

御家人は着物に凝ったようだし、江戸市中では町人が柄物を愛したようなので、そんなお洒落模様の貝は大人気だったろう。
絵,帯締,小紋,縮緬,鹿子,裾紫,柳絞,豆絞,更紗【高額】,千鳥,焦千鳥,瑪瑙千鳥,一文字千鳥,哲明千鳥,斑入千鳥,墨流,梨地,熟梨地,花紋,樺斑

流石に、生地の染模様とは違うものもあるから、それは別途。
鯖,本鯖,偽鯖,鮫,縞馬
星もあるし。
星,星砧,樺星,姫星

口の部分に特徴があるものも。
広口,口紫,布哇口紫,偽口紫,口黒砧,瑠璃口

しかし、インテリ御家人も少なくなかった。好事家町人になると教養レベルも高かったから、それに合わせた命名も少なくなかったろう。
曙,朝焼,朝ぼらけ,初雪,叢雲,花丸雪,偽花丸雪

変わりモノ好きもいたろうし。
疣,樽,原,浮標,玉子,棗,擬棗,偽御握,裾四眼,瀬戸物

これだけ色々あると、コレクターもさぞかし大変なことだろう。

ここでお話を終えようと思ったが、ビーチコーミングの視点では、そういう訳にはいかない。
お寶には、必ず偽物が付随するから、それも付け加えておかねばなるまい。それは、「有殻海牛」。

海牛/Sea slug or nudibranchは「海の宝石」とも呼ばれ、日本のダイバーにはすこぶる人気。カラフルで形のバリエーションも多岐にわたるからだと思う。
よく知られているように、海牛[→]は巻貝の一種とされているが、ほとんどの場合は貝殻は消失している。遊泳して、別な食餌場あるいは新しい繁殖地を目指すためには殻はいかにも邪魔。
ところが、立派な貝殻を持つ連中もいるのである。しかも、寶貝形状で模様も美しいとくる。
そんなものが浜で見つかれば、高貴な貝の入手ということで大喜びできる。しかして、どの種かとタカラガイの情報を眺めてもわからないのである。そして、そのうち、貝殻に厚みを欠くことに気付く。そう、偽物なのである。
  ■偽光輝貝類■【有殻海牛の一種】
 ○御簾貝[ミスガイ]/Striped paper bubble/泡螺
 ○屋形貝[ヤカタガイ]/White-banded bubble/白帯泡螺
 ○紅屋形貝/Royal paper bubble/-
 ○葡萄貝,磨葡萄貝/Cymbal bubble snail/-[微小貝]
 ○紺絞貝/Miniature melo/-
小生は、この偽貝の本物標本を見たことがあるが、実に美しい。高貴な貝より素晴らしい。そう感じる人は、多分、光輝貝コレクターにはなれない。
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