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■■■ 2015年5月19日 ■■■

内陸小辛螺類…

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よく聞けば 田螺鳴くなり 鍋の中  漱石
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よく訊くは 田螺泣くとは 本当か  暇人

小辛螺と書いているが、その張本人が読み方がわからない。
どうも、「ニシ」でよいらしい。

海棲の代表は「アカニシ」[→]だが、漢字だと普通は赤螺。これも、本来は赤辛螺らしい。身が辛味を感じさせるからだろうか。(アカニシがニシの語源で、「丹[ニ][シシ]」との辞書学者の説はいただけない。赤い部分は貝殻の口であって身ではないから。)
一方、陸棲なら文句なしに「タニシ」だ。こちらも普通は田螺だが、田小辛螺ということになるらしい。

突然、タニシを取り上げたのは、誰でも知る名前だし、巻貝呼称を考える対象としては便利な気がしたから。
様々な「○○ボラ」(法螺)を眺め、[→]余りに曖昧な概念なので往生したから、ここで、一寸考えておくことも悪くなかろうということで。

ところでタニシの語源だが、田の"アルジ"(主)との主張もそこここで見かける。元来の呼び名は田"ヌシ"と見なすのである。もちろん、田圃の巻貝だから、「ニシ」()とされたというのが通説だが、この主張も一理ある。現在では、ほとんど見かけない状況だが、その昔は溢れかえるほど獲れるほど、沢山棲んでいたのだから。
しかも、ニシという語彙は、どんな概念なのかはっきりしている訳ではない。"ツボ"(壺)形態の「マキガイ」(巻貝)を指すと思われる用語を用いて、「ツブ」()としてもよかったことになる。(螺はラと音読みされているが、「」()という文字もあり、こちらは陸介の"かたつむり"である。

実際、「タツブ」と呼ぶ地域も存在しているそうだし。小さな貝だから、流石に"、大型イメージがついてまわる「ボ」(法)とは呼べないだろうが。
しかし、細くて尖がった形が多い「ニナ」()ということで「タニナ」とは呼ばないようだ。タニシの友のような存在である「カワニナ」(川蜷)が存在するからだろうか。
ニナの古語は、おそらく、「ミナ」()。一部の地方では、よく使われている言葉のようだ。
つまり「螺」は、ニシ、ツブ、ラ、ミナと、都合、4通りの読み方ができる訳だ。

これでおわかりのように、素人には、巻貝の名前はナニガナニヤラ。

この他にも、「バイ」()が多用されるが、訓が「ハイ」の「カイ」()と同一文字と見てよさそう。音、訓、共に濁音化させることが多いし。
カイ」()も同じであり、一いずれも般用語だと思われる。尚、「」()は呉音である。

ということで、肝心の「内陸小辛螺類」だが、こんな感じ。・・・
まずは、図鑑でタニシ科とされている貝から入ることになるが、「タニシ/River snail/田螺」は分類名称でしかなく、特定の名称ではないそうだ。

<真正田螺類>
南米と南極を除けば、淡水域には必ずと言ってよいほど棲んでいるらしい。環境対応力が優れていたのだろうが、それは人間が本格的な開発を始める迄のこと。今は、希少種へとひた走りだろう。もっとも、食用種は別だが。
どこにでも、日本には以下の4種が棲息とされる。よく見かけるのは姫か。
  姫田螺/環稜螺 or 石田螺
  丸田螺/Trapdoor snail or Chinese mystery snail/中國圓田螺
  大田螺/Japanese mystery snail
  長田螺@琵琶湖
思うに、食用は大陸からの輸入モノだろうが、伝統的な適格棲息地に放す好事家もいそうにないから、外来種はほとんど入っていないのでは。かつて行った米国貝の養殖種が拡がっているらしいが、それは真正田螺ではないそうだ。
美味しい田螺とはどれかはよくわからないが、大陸での人気種は以下かナ。名称も「螺」と特別視する位だし。
  瘤田螺/方氏螺@雲南高原の湖沼
人に付いてくる種のようだから、琵琶湖の種は古代に移入された品種ではなかろうか。食べ物に関しては目が無い人々が来日した筈だし。

タニシを取り上げたのは、実は、ニシだけの話ではない。
田圃で棲む小辛螺というのは理解できる。しかし、それなら、山に棲む、所謂、陸棲の種なら「山小辛螺」つまり「山螺」とすべきだろう。川螺、田螺、山螺となる筈。
ところが、現実にはそうではなく、「山田螺[ヤマタニシ]」と呼ばれている。

<陸棲田螺類似貝類>・・・タニシとは異なる。
  山田螺
   沖縄,琉球,八重山,宮古,喜界
   中華,台湾,インド
   ジグザク〃/Darangan Cyclophorus・・・学名臭が強い英語だが。
   大王
    [超々微細タイプ]
   微塵
タニシ名を落とす場合もあるようだが、こちらの方が正統派なのではないか。方氏螺は当然だが、他の田螺類よりは味は落ちるが代替品になるということで商品化され、山田螺と呼ばれ、元からの名前は消滅の憂き目という気がする。
  山車/Japanese Peg Cyclophorus

ヤマタニシはタニシとは違うゾということが一瞬にしてわかる貝もある。山でなく陸になっている。どう違うかは説明不要だろう。いかにも南洋の美麗さ。
  青身陸田螺/Shining Leptoma/@南島
こんな貝も。
  厚蓋貝
素人からしても、淡水棲と陸棲貝を同一名称にして呼べば違和感を覚える訳で、特別扱いがわかり易かろう。そんな配慮を感じる貝もあるが、もともと名前が知られていなかったという感じがする。
  大和貝
   東海〃@本州中部の山脈
   もじゃもじゃ〃@トカラ列島
   井上〃@紀伊半島
   徳之島〃@徳之島
   沖永良部〃@沖永良部島

素人にわかり難いのは、ヤマタニシの超々微細タイプと思いきや、そうでないとされる貝がある点。もっとも、小さな巻貝はどれも
だが。以下の貝の分類名称は「何時迄貝」となかなかの思わせぶりで面白いが、個々の貝は違うのである。

<陸棲微小巻貝類のタニシ名系>・・・ヤマタニシとは異なる。
  山豆田螺
  姫陸豆田螺

小さな貝は、素人感覚では、尖ったものは川ニナ系に近く、他は田ニシ系に見えるからどうということはないが、別な名前が欲しいところ。以下も、上記の仲間だと思ったら、分類学的には違うらしい。沼螺という名称はその点では優れている。
  蝦夷豆田螺
  豆田螺/東北沼螺
この仲間が、川ニナ的に映る、住血吸虫の中間宿主ということで有名な貝。宮入は研究者名で、片山は地名のようだ。
  片山貝
かなり遠縁のタニシ形状の貝もあげておこう。
ひとつは、海棲の貝だらけの一族の異端。小さいし、多少、紅色を帯びるようだから、いかにも違う種という印象は受けるが。
  胡麻陸田螺

そのような貝は、当然ながら絶滅が心配されることになるが、逆に、タニシを駆逐するかもしれぬ非タニシ類もある。

<偽田螺類>・・・林檎貝と呼ばれている。
  擬田螺/Apple snail/光瓶螺
  ジャンボ田螺 or スクミ林檎貝/channeled apple snail/黄金螺
結構、進出が進んでいるようで、ビーチに貝殻があったりするそうだ。川ニナ系は海に流され、岸に漂着も有りうるが、田ニシ系はどうかネ。カキやホタテ同様に浜辺に捨てられているのかも。

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