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■■■ 2015年5月18日 ■■■

法螺類…


  潮騒の 音高らかな 白浜に
 打ち上げられし 海神(わたつみ)の貝


「ホラ貝/triton's trumpet/法螺[→2009年3月13日]という名前を知らない人はいまい。
山伏が用いる"仏音震吼器"というイメージ。「ホラ吹き」という言葉ともども普通に使われる言葉である。仏教国となったが故の名称と言えよう。
 今佛世尊欲説大法、
 雨大法雨、吹大法螺、撃大法鼓、演大法義。

  「妙法蓮華経 巻第一 序品第一」

只、それほどに知られている語彙であるにもかかわらず、漢字で「法螺」と書いてあると、"ホラ"と読めない人は少なくなさろう。さらに、"○○ボラ"という貝の名前が、"ホラ"の濁音化と気付いていない可能性も高そう。実際、「○○法螺」でなく「○○螺」に"ボラ"とルビがふられているのを見たことがある。

言うまでもないが、法螺貝同様に信仰と絡む貝こそが、「護法螺」である。 「棘霊貝類と重厚霊貝類」
仏教国教化により、それ以前の信仰対象はすべて折伏されて帰依したことになる。海神のシンボルの貝は「"護"仏法」の役割を担う訳で、ゴボウラ貝という名称はその典型と言えよう。
残念なのは、この言葉の登場で古代の呼び名が消滅してしまったこと。

常識的に考えれば、このような信仰対象だった貝のみに、限定的に「ホラ」という名称が振られそうなものだがかなりいい加減。
実際、"○○ボラ"という名称はいくらでもあるし、法螺貝に似ていると言い難いものも。しかも、同じような形に見えても、法螺にしたり、違う名称という適当さ。
こうなるのは、致し方ない。上記に書いた、「ボラ=法螺」は実は後付の屁理屈だからだ。法螺という言葉が生まれる前から、ボラはボラでしかなかった筈。そう言えばおわかりだと思うが、現在は鯔/Flathead gray mulletの読み方としてのみ残っている訳だ。[→2005年12月9日]
魚のボラだが、語源は「太っ腹」だとの説がある。その「腹」とは「原」と同じで、倭語の基本語彙である。「身体の倭語[続] 」[2015.3.27]
その幼魚の名は、三陸沿岸辺りでは「ツブ」。「螺」と全く同じ名称である。狭義的には「姫蝦夷法螺」を指す。ボラでもあるが、ツブと呼んだりする。その"ツブ"は、「壺[ツボ]」と語源的には同じで「腹膨れ」。
つまり、「ボラ=壺状介」ということ。仏教重視ということで、壺[ボラ]貝を法螺[ホラ]貝と無理矢理呼び換えたに過ぎない。

"○○ボラ"の実際を眺めてみよう。

最初に、信仰からくる名称ではなく、法螺を代表とすることによる、分類上都合でつけられたに違いなさそうなものをあげておこう。海で生活する人々が、類縁の貝を"○○ボラ"と呼ぶのは当たり前だし。
そんな気分で、同類種を図鑑や標本でよくよく眺めると、確かに全体的に似ている貝が多い。肝心な、身の特徴は知らぬが、貝殻上では特徴的な種であるのは間違いない。その、全体の形の類似もさることながら、ゴツゴツしている印象を与える貝だらけなのが特筆もの。
そして、意外と言っては何だが、わりに綺麗なのだ。もちろん、丁寧に磨き上げた標本ならではの美しさだとは思うが。古代の海人も、そんなことをしていた可能性はあろう。磨き上げた逸品モノとして、住居に飾っていておかしくなかろう。現代とは違って、飾りとは、信仰のシンボルを意味する訳だが。
【真正法螺類】
  法螺貝/Triton's trumpet/法螺
  
  蜂〃/Dwarf Hairy triton/蜜蜂法螺
  細小〃[イササ]/Purple Gyre triton/紫端翼法螺
  頭〃[ツブリ]/Long-neck triton
  塩〃/Short-neck triton
  括〃[ククリ]/Shouldered triton
  縞霰〃[シマアラレ]/Tadpole triton
  三角〃/Nicobar hairy triton
  姫三門〃[ミツカド]/Wide-lipped triton/厚唇法螺
  房州〃/Saul's triton
  加古〃/Neapolitan triton
  薩摩〃/Aquatile Hairy triton
  綾〃/Oregon triton
  豪州〃/Red triton
  欧州〃/Knobbed triton
これら法螺貝の仲間の代表は小振り。そして、法螺の名称は消されている。宗教臭はこまるということかナ。
  藤津貝/Black-spotted triton
法螺とは大型を指すのが普通だと思うが、よく見ると小型も結構多い。その場合は宿借君御用達の貝殻となることが多い。つまり、拾い易いということになる。そんなこともあるのか、人気定番品が存在する。法螺貝とは呼ばれないが、その気分に浸れることが嬉しさかも。3大美螺として売られているので知っている方も多かろう。
  寿星螺[ジュセイラ]/Black striped triton
  猩々螺[ショウジョウラ]/Robin redbreast triton
  萬歳螺[バンザイラ]/Golden(or Yellow) triton
確かに美しいから、コレクション向きだが、趣味としての実用性も兼ね備えている。
南島が恋しくなる都会の住人に向くペットは大宿借君。どこまで本当か疑問はあるが、名前を付けてあげると、飼い主によく懐くようになり、えらく可愛いとの話も耳にしたことがある。そのお宿として立派な貝を進呈する訳だ。まあ、こんな話を肴にした飲み代を考えれば、安い買い物である。

護法螺が含まれる分類学上のお仲間も入れておくべきか。但し、これらの代表は水晶貝。
【袖口付の法螺類】
  護法螺/Laciniated conch or Heavy frog conch/闊唇鳳凰螺
  岩石〃/Adusta murex/黒千手螺
  渡辺〃/Martin's tibia/馬丁長鼻螺

見た瞬間に親類と感じる貝も加えておこう。
【疣型の歪んだ法螺類】
  疣法螺/Reticulate distorsio・・・この類の代表格
  大曲疣〃/Bristly Distorsio
  スミス疣〃/Smith's Distorsio
  フロリダ疣〃/Atlantic Distorsio

他に、法螺と呼ばれても、違う種類とされているグループが存在している。
  駝鳥法螺、袋縄法螺、刃[ヤイバ]法螺

一寸違うのではないかと感じさせる貝に移ろう。護法螺と同族のようだが、そうは見えない。
【棘霊貝類こと悪鬼貝系法螺類】 [→]
  縮緬法螺/小皺岩螺
  縮〃/Dog whelk
  鉄〃/Rudolph's Purpura

次は、素人からすれば、どこも法螺とは似たところ無しと言わざるを得ない貝。当然ながら、分類学上では法螺とは無縁。とは言え、特異な形だから、仏法を知らしめる貝として、法螺とする発想はおかしなものではない。こんな貝を拾えるとは思えない。従って、コレクター垂涎品種ではなかろうか。
【糸巻と言うかベルト巻型類[Band shell]】
  糸巻法螺/Trapezium horse conch/角赤旋螺
【階段螺層の特異な形の貝】
  千巻法螺/Japanese Wonder Shell/旋梯卷管螺
宝貝コレクションに入っているらしいが、同族とは思えない貝もある。
【光輝貝類のなかでの異端】 [→]
  兜法螺/Alabaster false tun

このように考えると、法螺類とみなせそうな貝もある。天狗螺[テングニシ/Tuba False Fusus]の類。常識的には法螺と呼ぶことはないが、その理由はご想像がつくかも。そう、貝殻の話ではなく卵の方。(この観点では、房州法螺、磨法螺以外は、法螺とされない。)
   "海ほおづずき"@「あかにし」[2006年5月5日]
【海鬼灯系の一部の貝】
  冠法螺
  逆巻法螺
ただ、それもわかる。天狗螺の肉は美味しいとされているからだ。浜にあがっている貝殻はたいていはそのゴミと言われている。

と言うことは、旨くない貝の場合は法螺と呼ばれ易いと言えないこともない。深海網にかかってくる貝は、"○○ボラ"となりがちかも。
【"常陸帯"と呼ばれる貝の一部】
  唐蟋蟀法螺/Bat volute
  猩々蟋蟀〃[ショウジョウコオロギ]/Blood-red volute
  御光蟋蟀〃/Imperial volute
  垂乳根〃[タラチネ]/False baler shell
  ヘブライ〃/Hebrew volute
  楽譜〃/Music volute
  木目〃/Sclater's volute
  天狗〃/Beck's volute
  (分類上は異なる微小貝)絹
【寒流系の所謂"ツブ"の一部("バイ")】
  蝦夷法螺/Ezo neptune
  陸前
  姫蝦夷〃/Arthritic whelks
  蝦夷〃/Ezo neptune
  螺子〃/Peri japelion
  竪琴梨
   すでに紹介した特異タイプ(糸巻〃)

食用にする気になりそうもない小さな貝にも「○○ボラ」という命名は少なくない。ミニアチュール的な感覚だろうか。
【定番的"宿借用貝殻"類の一部】
  百重法螺/Chinese nutmeg/中華核螺
  螺旋折入〃/Triangular nutmeg
  金剛〃/金剛核螺

こちらの方がより近いか。
【ミニアチュール法螺類】
  宮古法螺/"Common" frog shell/赤蛙螺
  蝦蟇口宮古〃/Noble frog shell/麗珠蛙螺
  大鳴門〃/Red-mouth frog shell
  白鳴門〃/Giant frog shell
  縮緬鳴門〃/Oyama's frog shell
まあ、こんなところだろうか。

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