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■■■ 2015年5月29日 ■■■

海鼠喰貝類…


 腹裂けた
 無花果貝の
 コレクション
 貴石のごとく
 供物のごとし


ビワ貝という名称の貝がある。
枇杷の実の形状から来た名称と思われるが、楽器の琵琶かも知れぬといった解説も見かける。面白いのは、貝の形状説明も記述されているのだが、枇杷ではなく、無花果だったりする点。
それなら、初めからイチジク貝とすればよさそうに思うが。
ところが、驚くことに、ビワ貝類のなかに、その名称の貝がある。素人が見た感じでは、ビワとイチジクの違いは、肥り方の違い程度にしかみえないほどよく似ている。
なんとも臍曲がりな命名だ。なにせ、貝殻の口でもある、割れ目から覗ける色は枇杷色からは程遠く紫系統なのだから。
しかも、英語がFigとくる。西洋梨でもよさそうな感じもする大きな貝もあるが、無花果が似つかわしいを考えたようだ。

  無花果貝/True fig shell/花球枇杷螺
  枇杷/Fig shell/小枇杷螺
  大枇杷/Elongate fig shell/大枇杷螺
  石枇杷/Threaded fig shell
  細枇杷 or アメリカ白枇杷貝

比較的大き目なので、見栄えがするせいか、コレクターが好む手の貝のようだ。

写真を見た瞬間に、これとは同族の貝と思えないものの、肥った貝型の感じがなんとなく近しいのではないかという気がする貝がある。分類名はヤツシロ貝で、地名としか思えないが、土地勘が全く無いので何が特徴なのかさっぱりわからない。一方、英名はTunなので成程感あり。BarrelやCaskの一種というか、箍で締められた木製のワイン樽の名称ではないかと思うが、横筋が浮き出している貝殻の特徴そのもの。色的には、木製樽よりは、鶉の方がピッタリではあるが。

  八代貝/Gold-mouthed tun
  /Partridge tun
  -/Giant tun/栗色鶉螺
  幌貝/Black-mouthed tun
  常盤貝/Costate tun
  宮代貝/Banded tun
  梨形宮代/Pyriform false tun

れらの貝は食用にはしていないという人もいれば、そんなことはなく食べるという話もあるようだが、貝殻の口が大きいので加熱が面倒ということか。美味しい汁が流れ出ないように工夫するのは存外難しそう。
上記の2グループは分類学上でも近縁だと思うが、食生活が似ていることが類似性を作りだしたと見てよさそう。と言うか、要するに、海鼠喰貝なのである。
確かに、動かずに海底でゴロゴロしているだけの肥った海鼠を沢山食べるには好都合な形だろう。貧栄養な餌だから大喰らいするしかなく、食にありつけば、同じように、ゴロゴロしていることだろう。当然、丸々と肥る。面倒なのか、蓋もないようだ。
海鼠喰貝という命名がわかり易そう。
尚、形状的には似ているが、細い螺旋筋が目立つ上に、殻が薄くて半透明感が生まれているのが、蕪貝[カブラガイ]/Bubble turnip。ソフトコーラル内に埋まるように棲んでいるそうだ。

他にも、海鼠[→2006年7月14日]を食べる種もいるが、まあ、時に珍味を味わう程度でしかないと思われ、このような偏食をモットーとする貝が海鼠の真の天敵だろう。もっとも、今や、天敵の地位を滑り落ちつつあり、中国人が代替しつつあるようだが。

他に、果実名称の貝はないかと眺めてみると、椰子とメロンが見つかる。
椰子はいいとしても、メロンは誤解を与えやすい。今では、日本のメロンは球形のマスクメロンが代表だからだ。海外で主流のメロンの形は瓜なので、メロン名前に付けると、色彩かと思ってしまう人が多かろう。
そもそも、瓜的な形ということでメロンを援用し、それをさらに肥らせた形でもある椰子を使うのは考えもの。「法螺」という用語を多用するからだ。法螺の取っ手部分というか、細く伸びた下部が目立たなくなれば、自動的に瓜、メロン、椰子の形になる訳で。メロン法螺とか、椰子法螺として欲しかった。
尚、林檎貝とは、ジャンボタニシのことである。[→]

  椰子/Indian volute or Bailer shell/椰子渦螺
  稲妻椰子/Heavy baler or Umbilicate melon/閃電椰子渦螺
  稲妻角椰子/Diadem volute or Giant baler
  派手振袖椰子メロン/Hunter's marbled volute/韓特氏渦螺
  帯メロン/Lightning volute

とは言え、確かに、大きい貝なら椰子と呼びたくはなる。しかし、陶器的なつるりとした感じからすれば、「唐蟋蟀法螺/Bat volute」の仲間と言われる方がソウダナ感が湧く。蟋蟀とされるとナンダカナだが、要するに、深海網にひっかかかってくる"○○ボラ"のうち、膨れた形状で、模様が美しい手のもの。分類学的には「常陸」と呼ばれている。この用語は、鹿島神宮の崇める聖なる腹帯。それを貝の名前に用いたのは、妊娠時の腹の様に似ていることを表現したかったということなのだろう。低俗な用語を避けた訳だ。

それと似たような命名が「ショッコウラ」か。貝殻の価格から見て大きなものは希少。縦筋が引き立っている上にいかにもデザインに凝ったような模様がついており、情緒感をさそう御姿と言えよう。
  蜀紅螺/Harp Shell/大楊桃螺
内陸国家たる蜀が海の貝に関与する訳もないから、どう考えても蜀江流域の絹織物模様類似ということ。時の天子垂涎の布だったろう。正倉院所蔵品に含まれるから、それは間違いない。貝殻の方は来訪しなかったようだ。

付け加えておくと、ウミウシ類には、棗貝、葡萄貝がある。

それと、ショップを覗いた感じからすると、人気ありそうな目立つ貝殻があり、貝集めというか、貝殻買を始めたりするとすぐに覚える名前があるようだ。
  揚桃[ナツモモ]/Beautiful clanculus/小草鍾螺
  苺揚桃/Strawberry topshell/紅鍾螺
ご想像がつくと思うが、前者は拾える可能性がある貝で、目立つように売り場に並ぶのはアフリカ産だったりする後者。揚桃という言葉は聞きなれないが、山桃のこと。誰でもわかるヤマモモにしなかったのは、この貝の全体形状が球形からはほど遠く、綺麗な低円錐で、果実と貝殻が全く似ていないからだろうか。要するに、表面のブツブツだけがソックリなのである。

(イチジクの写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Fig.jpg
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