表紙
目次
節足動物

■■■ 2017年12月27日 ■■■

かぶとえび …

甲殻類のうち「鰓脚」と呼ばれる種族を見ておこう。
甲殻類の分類名ははなはだわかりにくいが、これだけは本質をついており拍手。

要するに、脚はあるが、鰓のようになっており、もっぱらプランクトンを濾し取る用途。もちろん、運動器にもなるとはいえ、自律的移動のための遊泳や底這活動を行っていても、その動きは散漫そのもの。
なんだそんなことか、と言うなかれ。よくよく考えてみると、これこそがこの種族が生き延びてきた一大根拠だからだ。

ともあれ、先ずは、生態から。

上の図でお察しがつくかと思うが、兜蝦は田圃に棲息しているお玉杓子である。よくよく見れば蛙の子とは違うのは自明で、大きさは同じでもこちらは親蝦だが、沢山群れている風景を眺めれば見分けなどつかぬ。
近縁の貝蝦、豊年蝦と合わせ、田圃の3大蝦なのだが、そんなことを知る人は水田耕作者とその家族でも稀と言われるほど無視されている。蝦蟹の仲間であっても、脚10本生物の姿とはかなり違うし、害は及ぼさない上に、食用にもならないからだろう。
もっとも最大の理由は、土着ではなく点にあろう。渡来者らしいのだ。

どこからやってきたのかは定かではないが、この兜蝦君、世界中に広がっている。そして、その発祥は恐竜時代。従って、生物學好きの人々にとっては一大関心の対象と見てよいだろう。

恐竜時代から生きていると聞くと、一瞬、驚くが、豊年蝦の近しき親類である"Sea-Monkeys(R)"を知っていれば驚くほどのことはない。田圃の3大蝦は、蝦と言っても互いに姿はかなり異なるが、同じようなライフサイクル。卵を乾燥状態にしておけば、再び生きれる環境ができるまで何年でも持っていられる。実に大した能力の持ち主。・・・
雨季になり餌が豊富になると孵化し、植物性プランクトンを大量に喰うことで僅か2週間程度で成体になり産卵を迎える。寿命は長くても2ヶ月という程度。もちろん、リスクを孕むから一度に孵化しないようで、配慮も行き届いている。

天敵である水棲動物は、短い雨季の間しか水が無い場所では生きていけぬから、この天敵ゼロ環境で生き抜くことに決めた種族ということ。魚類からの避難場所としてはまさに究極的と言えよう。
そして、四つ足動物や二足歩行動物が泥と一緒に卵を運んでくれるから、それこそ磐座の水溜りや、聖なる山の頂上にも棲息している可能性があろう。
もっとも、現代は一時的水溜り環境も少なくなっているからどうなるか。寿命が短いのでペット化の道も難しそうだし。( 餌用に養殖されるアルテミアだけでなく、トリオプス、ホウネンエビも飼育観察セットとして商品化されている。)
(参考)「カブトエビ」@Nature Photo Gallery by Shinji CHI
   …www3.famille.ne.jp/~ochi/kabutoebi/index.html


3種の違いだが、分類名から想像できよう。豊年蝦は蝦によく似ており、数cmになったりするようだが、魚がいないから当然ながら「無甲」である。脚は歩くというより遊泳用と言うことになるが、泳いでいる姿は背腹逆。見物人が勝手に遊泳と呼んでいるだけで脚を動かして水流をつくり餌を口に運んでいるだけ。実に効率が良さげ。一日中浮かんでいて、のべつまくなしに食べているのかも。
一方、兜蝦は、姿が兜蟹的であることでわかるように、底棲が基本。泥をかきわける生活をしているのは間違いなく、水中プランクトン食より肉食を好む筈である。共食い厭わずというより、兜造りにはその方が栄養的に良さげ。
貝蝦とは文字通り軟らかい身体を二枚貝の盾で防御している種。脚で草や藻に取りつくのが得意だと思われる。

さて、「鰓脚」という点では、田圃の3大蝦の一大類縁もあげておかねばなるまい。誰でもが知る微塵子である。どこにでも存在するまでにご発展の種族である。種の数も半端ではない。
   [2015年4月18日]
そんなことより、日本の種は渡来であり、クローン増殖だという点に驚かされた。どのように棲み分けているのかはなはだわかりにくいが、少なくともサイズだけでもかなりの幅がある。日本でのコモン微塵子は1.5-3.5mmだが、象鼻的な吻がある象微塵子は0.3-0.5mm。鈍間なノロになると15mm以上。

微塵子の化石はそう古くないから、魚類のいない環境で安定して生活ができるようになった一族が、再度、魚類棲息環境に挑戦したということか。危険回避の逃亡能力を欠いているから、ブラブラ遊泳していても魚の眼では見つかりにくいように小さくて透明な体躯にしたのであろう。透明微細蝦ということ。
山で清冽な湧水を飲もうと思ってコップの中を覗いたら微塵子が泳いでいたので驚いたことがあり、棲息範囲は思った以上に広いのではなかろうか。

全体は以下の通り。・・・

■■鰓脚Branchiopoda■■
《サルソストラカSarsostraca…蝦型体形
無甲Anostraca (Fairy shrimp)
  -Artemiidae
   ○Artemia・・・アルテミア類
    ブラインシュリンプBrine shrimp(franciscana)
    "Sea-Monkeys(R)"(salina)
  -Branchinectidae
  -Branchipodidae
  -Chirocephalidae
   ○Branchinella・・・ホウネンエビ類
    豊年蝦(kugenumaensis)
   ○Eubranchipus・・・キタホウネンエビ類
    北豊年蝦(uchidai)
  -Parartemiidae
  -Streptocephalidae
  -Tanymastigidae
◆[化石]Lipostraca
  ○Lepidocaris・・・レピドカリス類
   (rhyniensis)@英ライニー層<デボン紀>
《葉脚Phyllopoda
背甲Notostraca(Tadpole shrimp)
  -Triopsidae
  ○Triops・・・カブトエビ類
   アメリカ兜蝦(longicaudatus)…日本では関東以西
   ヨーロッパ兜蝦(cancriformis)…日本では山形-長野
   アジア兜蝦(granarius)…日本では鳥取-近畿
   オーストラリア兜蝦(australiensis)…日本には未移入
  ○Lepidurus
   箆尾兜蝦(arcticus)…日本では千島
   Vernal pool tadpole shrimp(packardi)
   (apus)
双殻Diplostraca
 {Laevicaudata}
  -Lynceidae
   ○Lynceus・・・タマカイエビ類
    玉貝蝦(biformis)
 {Spinicaudata} (Clam shrimp)
  -Spinicaudata
   ○Caenestheriella・・・カイエビ類
    貝蝦(gifuensis)
  -Leptestheriidae
   ○Leptestheria・・・トゲカイエビ類
    棘貝蝦(kawachiensis)
  -Limnadiidae・・・ヒメカイエビ類
   ○Eulimnadia
    三筋姫貝蝦(braueriana)
   ○Limnadia
    大和薄姫貝蝦(lenticularis)
 {キクレステリアCyclestherida}
 {枝角Cladocera}
  --異脚Anomopoda
  -Daphniidae
   ○Ceriodaphnia・・・ネコゼミジンコ類
    尖猫背微塵子(cornuta)
    網目猫背微塵子(reticulata)
    偽猫背微塵子(dubia)
    切尾猫背微塵子(megalops)
    姫猫背微塵子(pulchella)
    猫微塵子(quadrangular)
   ○Daphnia・・・ミジンコ類
    大陸微塵子(similis)
    大微塵子(magna)
    微塵子(pulex)
    大琵琶微塵子(pulicaria)
    間切微塵子(ambigua)
    尾無微塵子(obtusa)
    琵琶微塵子(biwaensis)…絶滅
    針長微塵子(longispina)
    替わ針長微塵子(rosea)
    薄皮針長微塵子(hyaline)
    兜微塵子(galeata)
    蝦夷針長微塵子(ezoensis)
    冠針長微塵子(cuculata)
    (cristata)
    尖針長微塵子(longiremis)
   ○Daphniopsis
   ○Megafenestra
   ○Simocephalus・・・オカメミジンコ類
    尖阿亀微塵子(serrulatus)
    日本天狗阿亀微塵子(japonica)
    棘阿亀微塵子(exspinosus)
    阿亀微塵子(vetulus)
    大阿亀微塵子(vetuloides)
   ○Scapholeberis・・・アオムキミジンコ類
    青剥微塵子(mucronata)
  -Moinidae
   ○Moina・・・タマミジンコ類
    透玉微塵子(micrura)
    本玉微塵子(rectirostris)
    ワイスマン玉微塵子(weismanni)
    玉微塵子(macrocopa)
   ○Moinodaphnia・・・タマミジンコモドキ類
    玉微塵子擬(macleayii)
  -Bosminidae
   ○Bosmina・・・ゾウミジンコ類
    象微塵子(ongirostris)
    支那象微塵子(fatalis)
    針長象微塵子(longispina)
   ○Bosminopsis・・・ゾウミジンコモドキ類
    象微塵子擬(deiterisi)
  -Macrothricidae
   ○Acantholeberi
   ○Bunops
   ○Drepanothrix・・・カマトゲケブカミジンコ類
   ○Echinisca
   ○Grimaldina
   ○Guernella
   ○Iheringula
   ○Ilyocryptus・・・フトオケブカミジンコ類
  ○Lathonura
   ○Macrothrix・・・ケブカミジンコ類
   ○Neothrix
   ○Ophryoxus・・・ニセケブカミジンコ類
   ○Parophryoxus
   ○Pseudomoina
   ○Streblocerus・・・ケブカミジンコモドキ類
    (serricaudatus)
   ○Wlassisca
  -Chydoridae
   ○Eurycercus・・・ノコギリミジンコ類
   ○Acroperus・・・フナゾコミジンコ類
    (harpae)
   ○Alona・・・シカクミジンコ類
    (guttata)
    (affinis)
   ○Biapertura
   ○Camptocercus・・・ヒラタミジンコ類
   ○Kurzia
   ○Graptoleberis・・・ヒロハシミジンコ類
   ○Leydigia・・・トゲヒロオミジンコ類
   ○Monospilus・・・ヒトツメマルミジンコ類
   ○Oxyurella
   ○Rhynchotalona・・・カギシカクミジンコ類
   ○Alonella・・・シカクミジンコモドキ類
   ○Alonopsis
   ○Anchistropus・・・ヒドラマルミジンコ類
   ○Chydorus・・・マルミジンコ類
    (sphaericus)
   ○Pseudochydorus・・・マルマルミジンコ類
   ○Dunhevedia
   ○Ephemeroporus
   ○Phrixura
   ○Pleuroxus・・・ハシミジンコ類
  --櫛脚Ctenopoda
  -Sididae
   ○Diaphanosoma・・・オナガミジンコ類
    大頭微塵子(dubia)
    (brachyurum)
   ○Latona
   ○Latonopsis・・・ミツオミジンコ類
    小窪三尾微塵子(kokuboi)
   ○Penilia・・・ウスカワミジンコ類
   ○Pseudosida
   ○Sarsilatona
   ○Sida・・・シダ類
    シダ(crystalline)
  -Holopedidae
   ○Holopedium・・・ホロミジンコ類
    ホロ尾微塵子(gibberum)
  --鉤脚Onychopoda
  -Polyphemidae
   ○Polyphemus・・・オオメミジンコ類
    大目微塵子(pediculus)
   ○Cercopagidae
   ○Cercopagididae
  -Podonidaeウミオオメミジンコ
   ○Caspievadne
   ○Cornigerius
   ○Evadne
   ○Pleopsis
   ○Podon
   ○Podonevadne
  --単脚Haplopoda
  -Leptodoridae
   ○Leptodora・・・ノロ類
    [ノロ](kindtii)
◆[化石]Kazacharthra
   ○Jeanrogerium・・・ジェアンロゲリウム類
    (sornayi)
   ○Iliella
    (spinosa)<ジュラ紀>
◆[化石]Acercostraca
   ○Vachonisia・・・パコシニア類
    (rogeri)<デボン紀>

 「動物」の目次へ>>>  トップ頁へ>>>
 (C) 2017 RandDManagement.com