表紙 目次 | ○ ■■■ 2018年1月8日 ■■■ たいのふくだま …福禄を獲得できるという縁起物“鯛の九つ道具”は江戸後期に流行ったらしい。その中身は、 骨[大龍, 小龍, 鍬形] 血管棘[鍬鎌熊手, 竹馬, 鳴門] 耳石[鯛石] 寄生生物[鯛の福玉]。 すべてが、1857年発刊の書[奥倉辰行:「水族写真」]に正確に描かれており、「鯛の福玉」の姿をみれば、即、それが寄生タイプの甲殻類であることがわかる。 → [→図絵]坂本一男:"-鯛の九つ道具-"@「魚名の由来」研究余話 誰が見ても、それは白色の団子虫以外のなにものでもないからだ。 現代人ならこのような生物は、見た途端に気味悪さが先に立ち、縁起良しという感覚が生まれる筈がない。それが何故かと考える人は少ないようだが、寄生中敵視の思想が植え付けられているからに相違あるまい。 そもそも寄生を悪とみなすのは、プロテスタントとマルキストではなかろうか。生活に余裕がありさえすれば、寄生させて、立派な人になれるチャンスを与えようという姿勢は古代から存在していたと考えるのが自然。仏教的にはそれが喜捨の思想として結実しているのでは。 しかし、「寄生」は「平等」のドグマに反する行為に映るので、大いに面白くない方々も少なくない訳だ。 表だって言うことは少ないようだが、"僕は寄生虫を身体の内で飼っていてネ"という生物学者がいることでもわかるが、古代の人々は共生社会をママで受け入れ、それは大前提として生きるしか致し方なかった筈である。 と言っても、江戸時代に共生社会思想がはびこっていたとはとても思えないが。 話が脱線したが、この手の寄生生物群には一般名称がついている。 「魚の餌」。 言うまでもなく、魚類の口腔内棲み込み生物ということ。 甲殻類お得意の鉤脚で、舌辺りにひっかけることで吐き出されないようにして棲息しているのだろう。宿主が死ぬまで延々と体液を吸い続けることになるから、魚にとってはたまったものではない。度がすぎれば、衰弱一途となろう。 しかし、江戸期には、そのようには思われていなかったようである。鯛が、餌として口に入れたが、命を奪うに忍びないということで、口腔で大切に育てることにしたと見なされた訳だ。 鯛のご厚情の結果であり、そこまですれば見返りも多きかろうとなる。そこはかなく、当時の仏教観がにじみ出ている命名と言えよう。 つまり、鯛にとっては長寿の守り神に違いないとされたのである。 この「魚の餌」の類だが、世界中にワンサカ。 もちろん、寄生先は、口腔内だけでなく、鰓に付くことも多いし、一番目立つのは外皮にしがみつくタイプだろう。 魚類だけでなく、蝦蟹や磯巾着をはじめ、海蛍、サルバや水母と、対象は多岐にのぼる。それこそ、海の生物は網羅的に狙われてきたと見てよさそう。 宿主が捕獲されるとすかさず逃亡を企てるものと拝察するが、なかには、宿主を喰った相手に寄生先を代える上等な輩もいそう。 と言うことは、宿主と、寄生部位で棲み分けが進んでいることになり、徹底的に探せば新種はいくらでも見つかりそうな感じがする。 ただ、寄生されている割合が低い場合もあろうから、簡単に探せるものではなさそうだ。 こんなタイプの甲殻類だから、名前はわかり易いし、なかなかお洒落である。ヒトには寄生しないせいもあろうが。 宿虫 隠 潜 鰓主 鰓潜 魚ノ餌 小判 銀貨 銅貨 七節 海鍬形 砂掘虫 もっとも、外部貼り付きタイプには「鱈ノ虱」との西洋的な発想の名前も。体躯の格好の違いがあるにしても、「鰯ノ小判」とは、えらく異なる発想である。 「オ〜、海の鍬形!」としか言いようがない種も。これは是非ともコレクションに加えたいと考える人が出てきてもおかしくないかも。 しかし、大勢はそうそう変わるものではないか。 所詮は寄生生物。外部なら蚤・虱の類いと同等に扱いたくなるだろうし、内部なら回虫・蟯虫のイメージがダブル。しかも、脚が多いので気色悪しかナ。 そうそう、忘れるところだったが、このような寄生タイプがワヤワヤ集まっているなかに、人気の「具足虫」君[→]も入っている。 ライフサイクルがはっきりしている訳ではないから、もしかすると幼生時代にはなんらかの深海生物に寄生して成長させてもらうのかも。 (参照) 山内健生:「日本産魚類に寄生するウオノエ科等脚類 」Cancer 25, 2016 ◆等脚Isopoda □魚ノ餌Cymothoida (Epicaridea-Bopyroidea) -Entoniscidaeカニヤドリムシ ○Entoniscus 蟹騙宿虫(japonicus) -Bopyridaeエビヤドリムシ ○Parapenaeon 赤海老宿虫(consolidata) ○Argeia 蝦蝦蛄宿虫(pugettensis)エビジャコヤドリムシ ○Apocepon・・・マメコブシヤドリムシ 豆拳宿虫(pulcher) (Epicaridea-Cryptoniscoidea) -Cryptoniscidae クリプトニスクス -Cyproniscidae キプロニスクス ○Onisocryptus・・・ウミホタルガクレ 海蛍隠(ovalis) -Hemioniscidaeヘミオニスクス (Anthuroidea) -Anthuridae ○Cyathura・・・スナウミナナフシ 砂海七節(shinjikoensis) -Paranthuridae ○Paranthura・・・ウミナナフシ 海七節(aponica) (Cirolanoidea) -Cirolanidae ○Cirolana・・・トゲスナホリムシ 棘砂掘虫(coronata) ○Excirolana・・・ヒメスナホリムシ 姫砂掘虫(chiltoni) (Cymothooidea) -Aegidae ○Aega・・・グソクムシ 具足虫(dofleini) ○Rocinelaウオノシラミ 鱈ノ虱(maculata) -Anuropidae ○Anuropus・・・ナシグソクムシ 緋色尾無具足虫(sanguineus) -Cymothoidaeウオノエ ○Ceratothoa・・・ヒゲブトウオノエ 鯛ノ餌(verrucosa) 縞鯵ノ餌(trigonocephala) 底魚ノ餌(oxyrrhynchaena) 鰖ノ餌(arimae) 浪尾魚ノ餌(carinata) 飛魚鬚太魚ノ餌(guttata) ○Cymothoa・・・ウオノエ 魚ノ餌(eremita) 河豚ノ餌(pulchra) Tongue-eating louse(exigua) (elegans) ○Glossobius・・・トビウオノエ 飛魚ノ餌(ogasawarensis) 唐細魚ノ餌(anctus) ○Anilocra・・・ウオノギンカ サッパノ銀貨(clupei) 二座鯛ノ銀貨(prionuri) (capensis)@アフリカ南部 ○Mothocya・・・サヨリヤドリムシ 細魚[サヨリ]宿虫(sajori) 深海鰓主(komatsui) 飛魚鰓主(melanosticta) 妲鰓主(renardi) 細魚宿虫(sajori) (parvostis) ○Nerocila・・・ウオノコバン 魚ノ小判(japonica) 鰯ノ小判(phaiopleura) 真鯊ノ小判(n.a.) ○Renocila・・・ウオノドウカ ゼブラ銅貨(bollandi) 河野銅貨(kohnoi ) 山里銅貨(yamazatoi) ○Pleopodias・・・カイテイギンカ 海底銀貨(diaphus) ○Cterissa・・・エビスエラヌシ 酒井恵比寿鰓主(sakaii) ○Elthusa・・・エルウオノエ 底鱈鰓潜(propinqua) 大鰓潜(raynaudii) 洞穴子ノ餌(sacciger) 鰈ノ餌(samariscii) ○Ryukyua・・・マンマルウオノエ 真丸魚ノ餌(globosa) ○Ichthyoxenus・・・ウオノハラモグリ 田長宿虫(japonensis) 鮟鱇腹潜(minabensis) (opisthopterygium) -Corallanidaeニセウオノエ ○Tachaea 蝦ノ小判(chinensis) -Gnathiidaeウミクワガタ ○Gnathia・・・グナチア 六星海鍬形(trimaculata)…鱏,鮫寄生 泥掘海鍬形(imicola) ○Elaphognathia 南鹿角海鍬形(nunomurai) -Tridentellidae ○Tridentella・・・スナホリムシダマシ 砂掘り虫騙(takedai) 「動物」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2018 RandDManagement.com |