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水母の話  2018年3月6日

みずくらげ の話

 大丈夫 四葉を見せて 信じさせ

四っ葉マークがついた御椀型の傘を持つクラゲがいる。水族館展示の定番種である。
  水水月
水母としなかったのは、この種こそ日本のクラゲイメージの源泉と考えるから。もちろん、傘は御椀型で、径は15cm程度。
実際、最も一般的な種であり、水温から言えば、10〜20℃帯の世界中の海に棲息しているようだ。(アクアショップでは15〜25℃飼育を推奨している。暑さは苦手な種とされている。)

古事記冒頭の「國稚如浮脂而。久羅下那州多陀用幣琉之時。」とは、万を越す数の水水月の大群が瀬戸内海に浮かんでいる状態を指すと見てよいだろう。今でも夏場にさしかかれば発生することが知られており、漁網にかかって大いに難儀との話を耳にすることは少なくない。古代は、そんなレベルではなく、海一面を覆うほどの桁違いな数が出現したに違いない。

もちろん、四っ葉マークは飾り意匠ではなく、胃腔の中にある生殖腺が透けてみえているにすぎない。
固着棲時代は単性生殖というか、クローン増殖ができる訳で、わざわざクラゲ体になって海中浮遊する理由は♂♀に分かれて両性生殖をする以外にありえないから、この器官が最重要なのである。ここに進化の原動力が隠されていると言うこともできよう。

古事記のセンス流石。

大陸だと、ヒトは、虱とか、泥から生まれるが、海人の国では"生殖する"命の源泉は海の水との観念を抱いていたことがわかる。そう考えると、クラゲの意味は、海神の依代たる毛ということになろうか。そうだとすれば、水母は輸入漢語であるが、しっくりくる用語だったと思われる。
その命は余りに儚く、うたかたのようなものというのは、日本列島に棲むようになった海人共通の感覚だったことがわかる。クラゲを見ていると癒されると言う方も少なくないが、流行ということではなく、倭人の伝統を引き継いでいると見ることもできよう。

もっとも、脳、循環器、呼吸器が無いから、目立つものは生殖器だけということでしかないが。

とは言え、四っ葉マークだけしか見えない訳ではない。放射状の細い筋模様がある。こちらは体の中を走る水管。小型の種には無いから、体躯が大きいとどうしても栄養を含んだ海水が末端まで回りにくくなるので必要となったのであろう。
どの道、ポンピング運動をしないと沈んでしまうから、管さえ造っておけば自動的に液体は還流する訳で、単純にして合理的な設計思想といえよう。

この水管だが、8あるいは16放射になって枝分かれしているようだ。口から胃腔に入った餌は潰され、エキスが滲み出ると、この管で全身に配られることになる。

このようなシンプルな構造であるからこそ、組織の一部が増殖して、クローン産出も容易にできるということであろう。皮膚組織はいわば全能細胞なのである。

傘縁には数多くの補足て短い触手が付いている。
足というか、口椀は写真には一部しか映っていないことが多くよくわからないが、短い4本からなるのであろう。
ほとんど刺されることがないとの記述を見かけるが、刺胞はあるから触れれば自動的に毒針が発射される。それが刺胞動物の宿命である。全く効かない毒の筈もないから、おそらく針放射機構が簡略で深く刺さることが無いだけのことだろう。

 赤色で 命再生の 音がする
水水月が展示されていると、たいていは似た形で、赤褐色の模様付クラゲも起用されることが多いようだ。赤と白で縁起が良さげということかも。
  赤水母

こちらの模様は、身体の組織から来ていたり、共生している藻の色からきているのではなく、純然たる意匠。
せっかく透明感を出すことで目立たなくしているのに、わざわざ色模様をつけてどうするつもりと聞きたいが、耳がなさそうな生物だから尋ねることもママならぬ。

わざわざ存在感をアピールしているとしたら、危険信号か、知らせたいと考えるお方へのイメージメッセージなのであろう。前者はほとんど意味がなさそうだから、後者だろうが、婚姻のチャンス向上用衣装とは思えず、考えられるのは小魚集め位のもの。側に侍らして、小魚を狙う輩を頂戴するという算段とみた。
小魚達にとっては、捕獲者の脅威から逃れるには効果十分なのは間違いないが、クラゲ毒耐性があるとは思えないから、触手を避けるために始終注意を払う必要がありそう。命を守るためには致し方ないとはいえ、さぞかしお疲れのことだろう。気を抜けばクラゲ君の餌食になってしまう訳で。実際のところ、食物摂取量では、こちらの方が多かったりして。どちらにしても、なかなか優れた設計方針である。

尚、水水月と赤水母は、都市型水族館である、すみだ水族館がお勧めする見方では、こんな位置付けになっているようだ。・・・
【1】定番
   ミズクラゲ
【2】カラーバリエーション
   カラージェリーフィッシュ…青、白、赤褐色等々様々な色
   ハナガサクラゲ…カラフルな傘と触手鮮やかな赤い触手
   サカサクラゲ…薄いピンク色[→]
   アカクラゲ…鮮やかな赤い触手
【3】形の変化
   タコクラゲ…タコ的外見+傘の水玉模様[→]
   ウリクラゲ…突起がない細長い形+無触手
    ↑刺胞動物のクラゲではない。
【4】動き
   カラージェリーフィッシュ…早めに"パクパク"
   シロクラゲ…ゆったりめにふわんふわん"


 柳葉に
 洗い髪的
 風情あり

赤水母が属す一族の日本代表は、北海道〜東北地方の太平洋側で見られるクラゲ。親潮系か。
  柳水母
緑色な訳ではない。
それなりの大きさ(傘径10cm)だし、傘は乳白色なのでクラゲ的。しかも足(口腕)が長く、リボン状なので展示すると映える。極めて細い触手が同様に垂れ下がる。赤色で24本あるらしいが細かいところはよく見えない。
赤水母もそうだが、これらはすべて刺す。マ、どれにしても刺胞細胞は持っているから当たり前だが、毒性が強いようだ。英語ではこの一族には"刺草[イラクサ]"の名前を献上し、大いに注意を喚起しているようだ。

上記と、北幽霊水母[→]で取り上げた種の一団は、お気付きのように口椀4本(おそらく8本÷2[融合]の八方放射相称)と傘縁からの触手という姿で特徴付られる。

いかにも外洋の潮の流れに乗ろうとの気構えを見せつけるかのようなボディプラン。触手は食われないための用心ではあるものの、傘端にあるから、側を泳ぐ魚が確率的についつい触れてしまう位置にあるのが味噌。魚の群れと同一の潮の流れに乗りさえすれば、黙っていても鱈腹食べていけることになる。仕事といえば、体のバランスを取りながら麻痺した魚をを口に入れるだけのこと。それに適した腕の数というだけの話か。

【刺胞動物/Cnidaria
花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着)

Jellyfish/Medusozoa
┼┼鉢虫/Scyphozoa
┼┼┼旗口水母(ミズクラゲ類) (Semaeostomeae)
┼┼┼-Cyaneidaeユウレイクラゲ
┼┼┼┼○Cyanea・・・ユウレイクラゲ類
┼┼┼┼┼幽霊水母(nozakii)
┼┼┼┼┼┼北幽霊水母/Lion's mane jellyfish or Hair jellyfish(capillata)
┼┼┼-Pelagiidae
┼┼┼┼○Chrysaora・・・ヤナギクラゲ類
┼┼┼┼┼赤水母/Brown jellyfish(melanaster)
┼┼┼┼┼Atlantic sea nettle(quinquecirrha)
┼┼┼┼┼日輪柳水母/Northern sea nettle(melanaster)
┼┼┼┼┼Pacific sea nettle(fuscescens)
┼┼┼┼┼Black sea nettle(chlyos)
┼┼┼┼┼Purple-striped sea nettle(colorata)
┼┼┼┼┼柳水母(helvola)
┼┼┼┼┼(plocamia)
┼┼┼┼○Dactylometra
┼┼┼┼○Pelagia・・・オキクラゲ類
┼┼┼┼┼沖水母/Purple jellyfish(noctiluca)
┼┼┼┼○Sanderia・・・アマクサクラゲ類
┼┼┼┼┼天草水母/Malaysian jellyfish(malayensis)
┼┼┼-Phacellophoridae
┼┼┼┼○Phacellophora・・・サムクラゲ類
┼┼┼┼┼サム水母/Fried egg jellyfish#1(camtschatica)
┼┼┼-Ulmaridae
┼┼┼┼○Aurelia・・・ミズクラゲ類
┼┼┼┼┼水水母/"common" Jellyfish(aurita)
┼┼┼┼┼北水水母(limbata)
┼┼┼┼┼Moon Jjellyfish(labiata)
┼┼┼┼┼(colpata)
┼┼┼┼┼(maldivensis)
┼┼┼┼┼(solida)
┼┼┼┼○Deepstaria・・・ディープスタリアクラゲ類
┼┼┼┼┼ディープスタリア水母(enigmatica)
┼┼┼┼○Diplulmaris
┼┼┼┼┼(antarctica)@南極洋氷海
┼┼┼┼○Poralia・・・リンゴクラゲ類
┼┼┼┼┼林檎水母(rufescens)
┼┼┼┼○Stygiomedusa・・・ダイオウクラゲ類
┼┼┼┼┼大王水母(gigantea)
┼┼┼┼○Tiburonia・・・ユビアシクラゲ類
┼┼┼┼┼指足水母/Big red jellyfish(granrojo)
┼┼┼┼○Parumbrosa・・・アマガサクラゲ類
┼┼┼┼┼雨傘水母(polylobata)

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