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水母の話  2018年3月24日

Immortal jellyfish の話

 魅力無し 記憶を無くした 若返り

ヒドロ虫花水母に属す種で、不死現象というか若返りが見つかったと発表されたのは1991年のこと。
  紅水母
この種自体の姿は特殊ではなく、赤提灯水母や花明かり[ハナアカリ]水母といった一族[→]と似ており、なかなか美麗である。

その後、2015年には、軟水母に属す柔軟[やわら]水母と鉢虫旗口水母に属す水水母の一種でも同様な報告があったにすぎない。極めて稀な現象と言ってよさそう。

普通は、"ポリプ体"の芽から生まれて私塾した径4〜10mmの♂♀"クラゲ体"の受精卵から発生したプラヌラ(鞭毛体幼生)が固着してポリプとなるというライフサイクルだが、ストレス環境下では、"クラゲ体"の傘と触手が一気に退化して細胞が団子状態になり着床。すると、分化が始まりポリプとして再生するのである。
(正確には、団子状態で固着すると、すぐにポリプ茎が伸びる訳ではない。高ストレスだと、皮膜で覆われた状態で付着しそこで細胞再構成が行われ、その後に根が出るようだ。皮膜ができない状態の場合は、かなりのエネルギーが残っているので、短時間で細胞再構成が行われるようである。)

通常、動物は子孫を残して早晩世を去るものとされているが、この種はそれ以外の道を歩んでいることになる。
成熟していても、分化していた全細胞をシャフルして、変態前駆のクローン生殖"ポリプ体"に戻ることが可能なのだ。従って、若返りの術というか、「不老不死」を実現していると称されることになる。
当然ながら、一躍脚光を浴びることになった訳である。
そんなこともあって、成長段階途中の状態に戻る際に発現する遺伝子探索も行われたのだが、残念ながら、その発生プロセスの理解を助けるような明瞭な結果は得られていない。
[Yoshinori Hasegawa, et.al.:"De Novo Assembly of the Transcriptome of Turritopsis, a Jellyfish that Repeatedly Rejuvenates"Zoological Science 33(4) 2016]

そもそも、どんなクラゲだろうと、死の定義は厄介極まる。

と言っても、喰われる場合を除けば、普通は、傘が凹んだり萎んできて、小さな塊になってついには消滅という路を辿るから、これを死亡と見なす。簡単と言えば簡単。
しかし、もともと、口腕や触手を脱落させる種も少なくないから、突然にしてバラバラになってしまうこともある。これも死亡と言う以外にない。
さらには、一夜にして、見えなくなってしまうことも。溶解したと見なすしかないが、それは細胞がバラバラになったことを意味しよう。それを死の定義とするしかなさそうだが、しっくりこない。
酷い状態に陥っても、復活してくることもあるからだ。
それだけではない。種によっては、"クラゲ体"が2つに分裂したする。
触手の基底部に芽が生えて稚水母を産む種もあるほど。
  衣魚子[しみこ]水母
名前が示唆するように大きさは僅か数mm。最大でも1cmなどトテモトテモ。触手束が8ヶ所で、それに合わせた眼点も8個の八方放射相称形。
口柄でクラゲ芽からクローン水母を作る時期と、有性生殖を行うため卵母細胞を作る時期があるそうだ。
その威力は凄まじい。・・・鶴岡市立加茂水族館での増殖記録[@2013年2月18日]を見ると、1月28日2個から、2月10日には106個になり、2月18日には1,406個ともはや数えることができない程まで増殖。これぞ正しくクラゲ算。

ついでながら、大きくて1mmの正真正銘の小ささを誇る近縁についてもふれておこう。
  小粒水母
この大きさでは生活実態把握困難に決まっていると思うが、それでも、それなりに知られている種ではないかと拝察申し上げる。
コリャ小さいと喜ぶ好事家がいるという話ではなく、小さな水母の一大特徴は、一気呵成のクローン増殖による大量発生があるから。一般の人も流石に膨大な数が浮かんでいれば気付く訳で、コリャナンダと専門家が呼ばれることになる。
そして、海水を掬えば何時でも出会え種であることにビックリするが、ここまで小さいと虫眼鏡の世界だから、一般人はすぐに興味を失うことになる。

単なるクローン増殖ではあるが、全能細胞の集合体であることを意味していそう。そうなると、細胞がバラバラになったところで、たった1個の細胞から元の姿への復元も可能ということになる。

そんなことを考えると、クラゲに寿命とか、老化という概念があてはまるのか、という根本的な疑問が湧いてくる。

どのクラゲにしても、浮遊生活者だから、自然界での個体認識は不可能に近い。1個体の死亡同定もできないし、誕生時点の推定も無理。一方、人工的環境での飼育は見かけは最適環境であっても、多大なるストレス下の可能性があり、そこで飼育した日数を寿命と考えてよいのかは、なんとも言い難し。
しかしながら、平衡石を持つ種については、微細輪紋から成熟期間を推定できなくもなく、それによれば、種によって大きく違うがすべて1年未満のようだ。"クラゲ体"とは♂♀生殖のために"ポリプ体"が変態しただけと見ることもできるから、長くても1年というのは至極妥当な数字だ。

一方、"ポリプ体"の寿命はどうなのかというのも、大きな問題である。
こちらは、♂♀増殖もあるが、クローン増殖を基本としているので、寿命という概念は全く馴染まない。無理に適応させるなら、クローン増殖ができなくなる時点で命の終わりとするしかなさそう。(世間の常識では、生殖不能を生物学的死亡とはみなさない。)

つまり、クラゲの場合、加齢によって機能が衰えるという大前提が成り立たないということ。

実際、8年間に渡る淡水ヒドラ(群生しない。)を対象とした実験では、ほぼ不老不死との結論が得られている。
["Professor Martinez Confirms This Tiny Animal Might Just Live Forever" By Mark Kendall Pomona College news release December 7, 2015・・・"Constant mortality and fertility over age in Hydra"]

外見上分化していても、すべてが全能細胞なのであろう。すべての細胞が、四六時中ゼロベースで更新し続けているのかも。

ここで忘れてはこまるのが、Mortal jellyfishの存在。
  羽海ヒドラ
ヒドラ名称であるが、"クラゲ体"を産む。それは日没時と決まっているという。
生まれる時、♂♀共にすでに成熟しており、すぐに生殖行動に入る。そして、消滅。これは紛れもない『死』である。解説を読むと、"クラゲ体"といっても、無触手である。これでは生活できないのだから、即、消えて頂くしかなかろう。
その命だが、"ポリプ体"から遊離してわずか数時間らしい。

【ご注意】すでに記載したが、プルヌラ・ポリプ体・クラゲ体の発生プロセスは多伎に渡る。[→]
ポリプ体は幼体ではないし、幼体成熟している訳でもない。


【刺胞動物/Cnidaria
花虫/Anthozoa…ポリプ型(珊瑚, 磯巾着)

Jellyfish/Medusozoa
ヒドロ虫/Hydrozoa
┼┼【Leptolinae】
┼┼水母([無鞘]Anthomedusae(=Athecatae or Stylasterinae)

┼┼┼《刺糸:ウミヒドラFilifera》
┼┼┼-Oceaniidae
┼┼┼┼○Oceania・・・べ二クラゲモドキ類
┼┼┼┼┼紅水母擬(armata)
┼┼┼┼○Turritopsis・・・ベニクラゲ類
┼┼┼┼┼地中海紅水母/"Benjamin button jellyfish(dohrnii)
┼┼┼┼┼┼---Immortal jellyfish@伊・日本列島等の沿海
┼┼┼┼┼紅水母(nutricula)
┼┼┼┼┼日本紅水母(-)@和歌山県白浜・鹿児島県

┼┼┼-Rathkeidae
┼┼┼┼○Rathkea・・・シミコクラゲ類
┼┼┼┼┼衣魚子水母(octopunctata)
┼┼┼┼○Podocorynoides・・・コップクラゲ類
┼┼┼┼┼小粒水母(minima)

┼┼┼《有頭:ヒドラ(Hydra)Capitata》
┼┼┼-Pennariidae
┼┼┼┼○Pennaria・・・ハネウミヒドラ類
┼┼┼┼┼羽海ヒドラChristmas tree hydroid(disticha)

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