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2004.1.18
 
 


不味い牛乳防止策…

 原料の牛乳が美味くなければ、乳業メーカーが頑張ったところでどうにもならないことを述べた。
   → 「不毛な反乳業メーカー思想」 (2004.1.17)

 しかし、メーカー側の努力で、不味くなることを抑制することはできる。 抜本的な解決策ではないが、技術開発としては有意義である。
 その1例が、「おいしい牛乳」と言える。
   → 「おいしい牛乳の意義」 (2004.1.16)

 牛乳の歴史は長い。従って、不味くなる原因は昔からよく知られている。できることは、もっとある筈だ。


 まずは、原乳の問題だが、少なくとも、酪農家の衛生管理状態で風味に歴然とした違いがでる。
  ・体細胞/雑菌由来の異常風味 (不健康乳牛由来)
  ・乳牛の乳房消毒臭
 (塩素臭)
  ・餌や外部環境から移転する不快臭気
 (低質飼料/清掃不足)
  ・生乳に接する装置/道具の臭気
 (機材臭/洗浄消毒薬品臭)

 信用できるデータが見つからないから、日本の状況はさっぱりわからない。しかし、超高温殺菌を行った国だから、低レベルの原乳が多かったのは間違いあるまい。
 といっても、低温殺菌牛乳がスーパーの棚に並ぶようになって来たから、体細胞/雑菌については、全体で見れば大きく改善されたと思われる。
 (業界の人によれば、流石に2等級は滅多にないそうだ。)

 しかし、農場を指定しないと、塩素量が多い原乳が入るため乳製品が作れないことがある、と発言する人もいる位だ。どこまで本当かわからないが、ウソと言う人もいないようだから、低レベルの乳を出す酪農家がある、と見てよいだろう。

 この問題は深刻である。スローガンやお願いだけでは、これ以上の向上は期待できないからだ。
 衛生状態を向上するには、環境向上、頻繁な清掃、面倒な搾乳手続き、上質な餌など、大幅なコスト上昇や労働量増加が不可欠だ。ギリギリの経営に追い込まれている酪農家が対応できる筈が無い。
 (質の高い乳を生産しようと頑張る酪農家が存在するのだが、質の低い乳を出荷する酪農家を守る施策を展開するため、改善は遅々として進まないのである。)
牛乳生産プロセス
酪農家 牛乳工場
搾乳
[吸引機]

一時貯乳
[バルクタンク]

集乳
[保冷車]
(タンクローリー)
受乳/秤量

受入検査

洗浄
[遠心清浄機]

冷却/保冷貯乳
[バルククーラー]

均質化
[ホモジナイザー]

熱処理
[殺菌機]

保冷貯乳
[サージタンク]

充填包装

製品検査

冷蔵保管

出荷

 従って、この問題を克服するには、メーカー側の品質チェックと、質に対する大幅なインセンティブ制度を取り入れる以外にない。質の低い乳しか出せない酪農家には撤退してもらう仕組みを採用しない限り、状況は変わるまい。
 そのためには、先ずは、酪農家自身が簡易検査可能な方法を導入する必要があろう。
 (乳業メーカーが開発し、酪農家に使用を義務づければよいだけの話しである。)

 もし、このような仕組みに変えることができるなら、一気に美味しい原乳生産にまで進める方が合理的である。
 メーカー毎に、官能検査による実践的な等級認定制度を作ればよいのだ。
 このような評価技法自体は、すでに確立しており、難しいものではない。酪農家でも、訓練すれば、ある程度のことはできる。酪農家に出荷時評価を義務づければ、質は大きく変わる。メーカーは適宜チェックし、虚偽が発見されたら納入停止処分すればよい。


 次ぎが、生産プロセス上の風味変化の問題である。含まれている脂肪や蛋白質といった成分の変質に由来する臭いが原因である。
 脂肪や蛋白といった成分の量的増強だけは、世界の標準レベルに達したが、逆に、風味や変質に関しては無神経なのである。

 風味変化の主な原因は3つある。
  ・含有酵素(リパーゼ)による脂肪の加水分解による脂肪酸臭
  ・空気酸化臭
  ・加熱で発生するこげ臭さ
(業界では、こげていない場合は、調理臭と呼ぶようだ。)

 順に見てみよう。


 酵素がある以上、脂肪の加水分解は搾乳直後から始まる。基本的には、原乳段階での臭さと言える。特に、撹拌や温度変化が効いてくる。
 従って、搾乳直後、乳の混合時、運搬時、には確実に加水分解が進む。
 隔日出荷されるということは、冷えた生乳に搾乳したての暖かい乳が加わる訳だ。これだけでも、かなりの量の脂肪酸が発生すると思われる。
 もちろん、工場でも変化は進む。均質化(ホモジナイズ)すれば、脂肪は細かくなり表面積が増すし、膜も損傷を受けるから、加水分解し易くなる。この直後は、特に反応し易くなっている。
 もっとも、均質化前に酵素を熱で失格すれば、以後加水分解することはない。超高温殺菌を行うなら、予め酵素を殺せば、以後は、この臭気は発生しない。
 ホモ牛乳には、消化し易く、製品バラツキが小さいという利点はあるが、この一点だけ見れば、ノンホモ牛乳の方が加水分解しにくく臭気は少ないと言えそうだ。


 酸化臭は、「紙臭さ」と言われることも多い。紙パックが理由でなく、蛋白や脂肪が酸素したための臭いを勘違いする人も多いようだ。当然ながら、酸素に触れる過程を減らすことが一番の解決方法である。
 一番酸化し易そうなのは、搾乳から受入れまでの間だろう。パイプを通すだけでも、かなり酸化すると思われる。さらに、牛乳工場の製造時間が長い場合も酸化は進む。効率的な仕組みができているかが、味を左右すると思ってよいだろう。
 酸化の観点では、ノンホモ牛乳は極めて酸化し易い状態にある。できる限り酸素から遮断しないと不味さを感じることになる。
 一方、ホモ牛乳なら、製造プロセスで酸化を防げば、酸化臭は発生しにくいと言えよう。但し、工場出荷後に光や熱に晒されれば、劣化スピードは極めて速い。


 超高熱殺菌で発生する風味の変化は避け難い。なかには、カラメルのような香りが含まれている牛乳もあり、管理がいい加減なメーカーもあることがわかる。競争が厳しくなり、管理が進んでいる一方で、未だに不味いと感じる牛乳もスーパーの棚に並んでいる。
 この臭いは、低温殺菌にすれば無くなる。面倒だが、難しいことではない。

 ところが、日本人は超高温殺菌に慣れているため、この臭いを気にしない人が多いとの主張がある。中途半端なデータで結論付けたものが多いから、これが本当かは疑問である。

 常識で考えれば、美味しい原乳を使った低音殺菌牛乳を飲めば、違いがわかるということだと思う。
 日本の現状から言えば、決して美味しいとは言い難い原乳を低温殺菌しているものがある。これでは、差がよくわからないのは当然だと思う。
 飲み比べて差を感じず、高価なのだから、低温殺菌牛乳への流れが進まないのは当然だろう。
 メーカーにとっても、今の原乳の状況が変わらない限り、低温殺菌牛乳に力を入れる必然性は薄い。


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