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2004.3.23
 
 


豆腐百珍を眺めて…

 「豆腐百珍」(1782年刊)は、豆腐を使った料理と作り方が掲載されている料理本である。
 知る人ぞ知る本と思いがちだが、結構有名である。豆腐好きが増えているので、この流れに乗ろうと、特徴ある豆腐料理をウリにした店が増えているせいもある。

 この本には、さらに「豆腐百珍続編」と「豆腐百珍余禄」という続編があるそうだから、江戸時代は豆腐料理が盛んだったようだ。

 ところで、「豆腐百珍」には、100品が解説されているのだが、面白いことに6段階に分類されている。尋常品26品、通品10品、佳品20品、奇品19品、妙品18品、絶品7品といった選定だ。(1)

 さっと目を通すと、面白い。

 先ず、ここ数年はやっている「21. ふわふわ豆腐」、「25. よせ豆腐」、「29. おぼろ豆腐」が目に付く。
 もちろん珍しそうなものや、いかにも手がかかりそうなものものもある。

 しかし、どうしても尋常品が気にかかかる。
 というのは、冒頭に掲げられている、誰でもが知っている田楽(「1. 木の芽田楽」、「2. 雉子焼き田楽」)のすぐ後に、とんでもない品目が登場するからだ。

 「4. 結び豆腐」である。
 良く見ると、「17. ぶっかけうどん豆腐」もある。

 両者ともに、解説無しでもわかる単純な料理である。
 単純ではあるが、こんなものが、提供されていたのだから驚きである。

 前者は、豆腐を「結ぶ」のだ。
 酢で締めるのだろうが、今の豆腐でこんなことができるとは思えない。箸で運べないような脆いものばかりで、結ぶどころの話しではないからだ。
 (といっても、逆に、絹ごしを湯煎すれば、多少柔軟性が出るから、太いものを結ぶことができないこともないかもしれないので、スキルの問題かもしれないが。)

 「結び」料理は、おそらく、一興ということでお吸い物に使ったのだろう。こうした目的なら、面倒でもかまわないだろうが、ぶっかけうどんとなると、そうはいくまい。
 おそらく、庖丁で7〜8ミリ角に切って、太いうどんに見たてたものだ。
 流石に、これは、今の豆腐ではできまい。
 特注豆腐が必要となろう。
 (人気はないが「とうふ麺」なる商品は、外食や小売りに登場している。)

 江戸時代の天明年間の豆腐では、このような料理が作れたのである。
 このことは、現在の豆腐と江戸時代の豆腐が全く違うものだったことを示しているといえよう。今より固かったのである。

 どうしてここまで変わったかは、自明である。
 豆腐作りの職人達は、水脹れ豆腐の技術を磨いたのである。同じ量の大豆で、如何に多くの豆腐を作るかに努力が注がれた訳だ。大豆臭が薄く、柔らかくて口当たりが良い豆腐が上品なものとされたのである。生産者にとってもコストメリットがあるから、この流れはずっと続いている。
 現在でも、工業製品は本にがりを使わないが、それ自体のコスト高というより、凝固能力が低いためと見た方がよい。凝固剤なら、水分含有量を限度まで増やせるのである。
  → 「「大豆トラスト」の意味」 (2004年1月5日)

 こうした豆腐づくりを、工業製品が抱える問題だ、と批判的に語る人が多い。
 しかし、「豆腐百珍」を見れば気付くように、もっと深い問題がある。
 日本料理の「粋」を極める動きが、水脹れ豆腐を進めてきたとも言えるのだ。工業製品はこの流れに乗っただけの話しともいえる。

 --- 参照 ---
(1) 納豆/豆腐業界紙の頁 http://www.toyoshinpo.co.jp/hyaku/


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