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2006.8.24
 
 


日本酒の味わい表現が欲しい…

 前回は、日本酒のラベルに記載された情報がほとんど役に立たないという話をした。
   → 「役に立たぬ日本酒のラベル表示」 [2006.8.23]

 もともと、日本酒は味が複雑であり、原料や造り方も多岐に渡る。味が千差万別になるのは避けられない。

 とは言え、淡麗辛口、芳醇旨口、切れ味、フルボディ、フルーティ、・・・と味わいの流行はある。酒蔵は、この波に乗りながら、商品を出すのだ。大変な労力である。

 成熟社会になると、要求が多様化するから、こうなるのは当然と言うこともできるが、日本酒の場合はそう単純なものでもなさそうである。
 と言うのは、多様化とは、個人が持つ、独自の評価軸が表に出たに過ぎないのだが、日本酒の場合、そんな底流が本当にあるのか、はっきりしないからである。

 余りに商品の種類が多くて、よくわからないから、結局のところは、人の話を鵜呑みにしている人が多い気がする。従って、新しい見方が提起されると、右往左往してしまう。日本酒では、多様化というより、混乱しているだけと見ることもできそうである。

 例えば、一寸前は、“甘口v.s.辛口”と“端麗v.s.濃醇”でお酒を見ていたような気がする。これなら単純でわかり易い。
 ところが、あっという間に、淡麗辛口ばかりになってしまった。すると、こんな軸では、とても商品は選べない。そのため、現在は、“香りが高いか、低いか、味が若々しいか濃醇かの2つの軸で区切る”(1)ようだ。
  ・「香り」(薫)
  ・「熟成」(熟)
  ・「コク」(醇)
  ・「軽快」(爽)

 しかし、香り高いといっても、果実の香りもあれば、草花っぽいものもある。なかには、ご飯臭さを感じるものもある。違いを説明するのに向いているとも思えない。
 そんなところから、利き酒のプロを養成しているのかもしれぬが、それで解決する問題ではないような気がする。

 飲み手は味わいの違いに気付いているが、(2)その違いを表す言葉が流布していないから、説明できないのだと思う。日本酒文化の底が薄くなっているのかもしれない。

 そう思ってしまうのは、日本酒の楽しみの一つである、飲用温度(3)の選択の喜びさえ忘れさられつつあるからだ。
  ・燗酒: 「日向」、「人肌」、「温」、「上」、「熱」、「飛び切り」
  ・冷酒: 「雪」、「花」、「涼」
  ・氷酒: 「霙酒[雪割]」、「甕酒[オンザロック]」、「氷結酒[シャーベット]」

 要するに、昔は、工夫して、情緒を愉しんでいたのである。これが、日本酒のよいところだ。この心の余裕が失われつつあるようだ。
 重要なのは、工夫するという姿勢である。日本酒では、これこそが本来の多様化だと思う。
 例えば、加水してアルコール濃度を下げた燗酒でも結構いける。のんびりと、料理を楽しみたいなら、高級酒より、薄めた酒の方がお勧めである。もちろん、そんなことをするのはほんの一部の人だけだろうが、こうした飲み方が独自の食文化を醸し出すのである。

 鰭/甲羅/骨酒や鰻酒にして旨みを味わったり、季節の香りを愉しむために桃花/菖蒲酒にするとか、枡や徳利を竹/杉/烏賊にして香りで遊んだりする。これこそが、日本酒文化なのだと思う。
 いずれも、ちょっとした工夫でしかない。

 この文化が廃れてしまえば、日本酒も衰微することになろう。

  “淡麗辛口”の流れにしても、おそらくこの味わいは日本海側では昔から好まれていた筈である。
 ここでは、魚料理を味わうことが楽しみだから、濃厚な酒を好む筈がない。加賀料理の伝統文化がしっかり根付いているからこそ、山廃仕込に人気が出るのだと思う。

 料理でなく、酒を主にして楽しみたいのなら、また別の嗜好がある筈である。そんな地方もあろう。
 日本では、飲酒のシチュエーションで好まれる味わいが大きく変わるのだ。これこそが地酒の意義だと思う。
 しかも、日本は世界の文化を気軽に取り込むから、食のバリエーションはえらく豊富なのである。これに合わせることができるのは、実は日本酒しかない。

 日本酒の良さは、こうした条件毎に最適なものが用意できる点にある。ところが、選定の基準もわからないし、味わいもラベルからは全く想像がつかないのである。

 残念なことである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.japansake.or.jp/sake/enjoy/howto/index.htm
(2) 大塚裕子「日本酒の味わいに関する評価表現の分析」JSAI年次大会 2004
  http://www-kasm.nii.ac.jp/jsai2004_schedule/pdf/000184.pdf
(3) http://www.japansake.or.jp/sake/enjoy/howto/table_03.html


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