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2006.8.23
 
 


役に立たぬ日本酒のラベル表示…

 地元産米と地元向酵母による地酒運動は日本酒市場再興にとってマイナスになりかねないという趣旨の話をした。
   → 「東京は地酒の本場」 [2006.8.22]

 当事者にとっては噴飯ものの意見に映るかも知れぬが、これが素人の実感である。

 はっきり言って、こう感じるのは、応援したくなる酒蔵がある一方で、原料・醸造法や法律ばかりをくどくどと説くお偉い酒蔵が目立つからである。

 素人には、理解できないルールを、大事にしている人が多すぎる。

 典型は「全国新酒鑑評会(1)」。日本酒の品質向上のためとされている。
 その意義はわからないでもないが、どうして5月の酒で味を決めるのかさっぱりわからぬ。
 その後は味が変わらないとでもいうのだろうか。
 あるいは、5月の酒が一番という根拠でもあるのか。
 もっとも、金賞を受賞した蔵は信頼できそうな感じはする。それだけのことである。
 消費者が飲むのは、たいていの場合、受賞作とは全く違う酒である。酒蔵が同じだからといって、どれも美味しいくなる根拠などない。

 そもそも、日本酒は時がたてば、味が相当変わる。
 現実に、美味しさに一番影響を与えるのは、酒ができあがるまでより、その後ではないのか。

 輸送や保管方法でどこまで味が落ちるか、試してみればすぐわかる。
 これを知っていれば、密封が難しい高級カップ酒の無理さ加減がわかる筈である。
 小さな酒蔵ならなおさらである。手詰めワンカップ製品など、すぐに飲むならよいが、そうでなければ、どんな味に変わるか想像がつく筈だ。

 酒の流通における質の高低差は大きいのである。
 冷蔵ショーケースがある店だからといって、安心はできない。陳列前の酒瓶が、温風が流れる場所に置かれていたりする例もある位だ。
 たいして美味しくないくせに高価だとの文句は、だいたいがこの手の問題と睨んでいるのだが。
 購入者にとっては、酒蔵出荷日と、その後の履歴が、酒の質の推定に重要なのだが、ほとんどの場合はわからない。店を信用するしかないのである。

 この辺りの問題は酒の造り手側が頑張っても、なかなか変えるのは難しいかもしれない。

 しかし、いい加減な売り手が出るのは、そもそも商品がなんだかわからず、愛着がわかないせいもあるような気がする。

 前回も述べたが、日本酒に関しては、肝心な情報が欠落しており、意味の薄い情報ばかりが流されているからだ。
- 日本酒ラベルの表示項目 -
銘柄名(ブランド+個別名称+分類名)
酒蔵名(製造元)、杜氏名
原料米、精米歩合
日本酒度、酸度、 アミノ酸度
使用酵母
アルコール度数
容量

 その典型はラベル表示である。

 酒税を徴収する国税庁が「清酒の製法品質表示基準」で定めていることからわかるように、消費者の立場で記載されたものではない。

 それでも、役に立つならよいが、実感としては意味はない。
 ラベルから、味の推定などできかねるというのが普通の感覚だと思う。

 少し考えてみよう。

 一般の酒は、メーカーが等級をつけるようだ。
 種別名称がついている酒は、市場の2割程度らしいが、麹米を15%以上使ったものに許されるらしい。醸造アルコールを添加しないものが「純米酒」で、添加すると「本醸造酒」とされる。

 頭で考えると、純米がよさげだが、それはアルコールをコストダウンのための増量材と見るからである。
 確かにそんなお酒もある。しかし、その区別は明記されないから、消費者にはよくわからない。

 本来なら、アルコール添加酒(麹米3割以下)、 糖類等添加酒(麹米5割未満)といったランクも必要だと思うが。

 ともあれ、実態から言えば、高価な酒にも添加されたりするのだから、増量材とは言い難い。
  ・醗酵中の米に浸透し、中心部分から香味を酒のなかに引き出す。
  ・醗酵を途中で止め、すっきりした味にする。
  ・でき上がった酒で、雑菌の繁殖を抑える。
  ・米を柔らかくし絞り易くする。

 このことは、購入者側からいえば、純米にするか、本醸造にするか、選択の基準がよくわからぬ、ということでもある。せっかく記載してもらっても、あまり役に立たないのだ。

 役に立つのは、酒米と精米歩合に関する情報位かもしれない。
  ・70%以下: 「純米酒」「本醸造酒」
  ・60%以下: 「吟醸酒」
  ・60%以下
あるいは酒造好適米50%以上: 「特別純米酒」「特別本醸造酒」
  ・50%以下: 「大吟醸」

 味覚の観点では、精米が進めば、「雑味」が減るのは間違いないからだ。又、澱粉リッチで大粒な酒米は栽培効率が悪いから単価は高いし、精米歩合が低ければ、原料費はかさばる。精米歩合情報で、高額さへの納得感は生まれるかも知れぬ。
 [もっとも, 高級品となれば, 少量手生産にならざるを得ない. 1人で1升瓶100本程度しか作れないらしいから, 人件費の方がウエイトが高そうだが.]

評価項目の意味
- 項目 - - 内容 -
日本酒度 比重(概ね糖分含有量)
酸度 有機酸の含有量
アミノ酸度 アミノ酸の含有量
 「日本酒度」「酸度」が記載されているものも多いが、正直なところほとんど役に立たない。
 その場で試飲すればわかるが、糖分が多いから甘口という訳でもないし、酸度が低いから辛口ともいえない。
だけである。
 確実なのは、糖、有機酸、アミノ酸のすべての含有量がすくなければ味は淡いという位ではないのか。  この程度では、数値があったところで、何の判断もできない。
 一体、何のための表示なのか、さっぱり合点がいかない。
 意味が無い情報というより、邪魔な情報としか言いようがないではないか。

 そもそも、日本酒は複雑である。酵母と米が変わるだけでも、全く違う酒になる。しかも醸造の条件は様だ。簡単に説明できるようなものではない。

 一寸、表示内容を整理するだけでも、その多様さがわかる。

   [加熱殺菌処理]
   ・二度殺菌: 無表示
   ・火入時: 「生詰酒」
   ・出荷時: 「生貯蔵酒」
   ・未殺菌: 「生酒」

   [熟成期間]
   ・できたて: 「しぼりたて、あらばしり」
   ・ひと夏越え: 「ひやおろし、秋おろし」
   ・長期貯蔵: 「長期熟成酒/古酒」

   [醗酵温度]
   ・常温: 無表示
   ・低温: 「寒仕込み」

   [酒母]
   ・速醸: 無表示
   ・自然醸造: 「山廃」「生もと」

   [仕込み方法]

   [アルコール濃度加水調整]
   ・割り水調整: 無表示
   ・そのまま高濃度: 「原酒」
   ・そのまま低濃度: 「やわくち」

   [絞る対象]
   ・「しずく取り」
   ・「中汲み」

   [濾過]
   ・濾過: 無表示
   ・「未濾過」

 最近は、これに、発泡タイプまで登場し始めた。物流の仕組みが高度になったから、余りもたない製品でも配送できるようになったからである。

 さあ、どんな記載がある酒が美味しいのか、と質問を受け、答えられるだろうか。
 せいぜいが、好き好きと言うしかあるまい。

 この状況を変えるためには、どのようなシチュエーションに合うお酒なのかの、アドバイス型の情報が必要だと思う。
 もっとも、飲む方が、そうしたアドバイスを受け入れるレベルに達していないかもしれないが。

  →続く  
(2006年8月24日予定)

 --- 参照 ---
(1) http://www.nrib.go.jp/kan/kaninfo.htm


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