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2007.5.28
 
 


中国は食の安全性を確保できるか…

 日経ビジネスNBonlineで、北村豊氏が「危ない中国食品」シリーズで中国食品の危うさを指摘している。(1)
 氷山の一角のように見える事件が多い。

 産経新聞中国総局記者福島香織さんのブログでも、「民以何食為天 食の政治学」が連載されている。(2)
 こちらは、2007年に出版された『民以何食為天』(3)を参考書にして、断片的な現地ニュースを紹介しているのだが、壮絶なものも多い。街角で拾った小ネタ、タブロイド紙の三面ネタが出所だから、真偽のほどはなんともいえないが。
 と思うのは、権力闘争に絡むガセネタにはことかかないし、情報統制されている国だから、特異な事件や噂話で大騒ぎし易い体質があるからである。
 それに、貧困層の食と先進国並の食が同居する超大国だ。日本の平準化された生活レベルに慣れきっていると、問題の深刻性をどう捉えるべきか、よくわからないというのが正直なところ。

 とりあえす、福島さんの「ぺきんこねたぶろぐ」を読んで、気になったことをまとめてみた。

 一つ目は、偽造食品問題。偽ではあるが、まともな材料を使っているなら、解決の優先課題ではなさそうだが。

 典型は、ハチミツ類似製品(水飴、デンプン、ハチミツ香料、色素)。不正表示だが、もともと、蜂蜜は需要に見合うだけの生産量確保は無理筋だ。それに、正規な材料を用いた偽物よりは、純粋品の方が安全性では問題があるかも知れない。蜜蜂用殺ダニ剤が混入していないことを確かめる術はないからだ。
 そもそも、日本でも、スーパーに行けば、純粋蜂蜜とは思えない値段の商品が並んでいる。消費者が、これを本物と見なしているとは思えないが。
 但し、2007年5月15日、農林水産省が、異性化液糖を混合した「純粋はちみつ」表示品調査を行うと発表した。(4)

 面白いのは、人造フカヒレ(魚や豚の皮のコラーゲン、ゼラチン、膨張剤)。魚由来なら、結構筋が良い食品かもしれない。日本でも春雨を始めとして、類似食感の実現食品はよく見かける。ただ、それを日本ではフカヒレと呼べないだけのこと。
 日本でも、“牛のサーロインの部位の肉に牛脂その他の添加物を注入する加工をおこなったもの”を新聞広告で「サシが入った」肉として大々的に販売する業者(5)がいるのだから、五十歩百歩という感じはするが。

 秀逸なのは、人造鶏卵。まさか、本物と見間違うほどできが良いとは思えないが、商品として流通するのだから凄い。製造が面倒だと思うが、そんなことにめげず、開発したのだから、たいしたもの。
 (殻:炭酸カルシウムと石膏 中味:樹脂、デンプン、凝固剤、色素、みょうばん、海藻酸ナトリウム、ゼラチン、塩化カルシウム)

 この辺りまでは、フーンですむが、そうはいかないのが、とんでもない原料の人造醤油。醤油無しでは生活できない日本人には、人造醤油には馴染みが薄いが、海外ではよく見かける安価な調味料だ。
 ただ、中国で問題になったのは、旨み成分のアミノ酸の原材料が毛髪だったと言う点。ゾッとする話だ。流石に、中国人もこれには震え上がったようだ。

 これらは、防ぐ仕組みさえ作れば、危険な食品の登場は避けることができると思われる。
 しかし、すでに人々の生活に溶け込んでしまった悪質な食品があるようだ。これが二つ目の問題。
 先ずは油。
  ・酸化した廃棄油の再加工品
  ・豚の内臓や皮を加工して抽出した油
  ・下水溝のたまった油を集めて精製した油
  ・レストランや食堂の食べ残しゴミを回収して抽出した油
 そして、米。
  ・黴が発生した黄変古米を漂白し鉱物油で光らせた白米
  ・カドミウム等の重金属高含有米
 売れそうにない果物の加工品。
  ・黴が発生した廃棄品を洗浄しパラフィンを塗ったオレンジ
  ・みょうばんと甘味料を注入した青モモ
  ・砂糖水と色素を注射した未熟スイカ

 どう考えても、こんな食材を口に入れれば、その瞬間違和感で気付くと思う。
 もっとも、そう思うのは、豊な食に慣れている人達。安価な食品しか購入できない層にとっては、なにか変だと感じても、食べるしかない。そうした底辺層によって、中国の都市は支えられているのだ。
 発展途上国の貧民層でよく見られるビジネスはいまだに消えていないということ。これらは裏社会の仕事だったりするから、すぐに無くすことはできないだろう。しかし、徹底的に取り締まっていれば、生活レベル上昇とともに消えて行く類のビジネスだと思う。

 しかし、同類に見えるが、全く性質が違うのが中国の牛乳ビジネスの腐敗。生鮮加工品業界はまだまだ発展途上国的マネジメントが続いているようだ。
  ・不合格品に水、乳精、蛋白質、脂肪、麦芽糊を添加し合格させた牛乳
  ・抗生物質混入牛乳
  ・人工蛋白・香料・色素を加えた人造牛乳
 もっとも、日本でも、黴菌に汚染された牛乳を平然と販売し、大規模食中毒を発生させた雪印乳業の例もある。中国より悪質である。腐敗したマネジメントによる経営が続けば、いかんともし難いのである。

 三つ目は、はなから悪質なもの。
 金儲けのためなら、健康を蝕む化学品を大量に混入させる確信犯は少なくない。危険な工業用色素を使った事件の摘発は後をたたないようだ。これに巻き込まれたグローバルブランド食品もある。すべての原料をトレースするのは簡単ではないから、このような事件が確率的に発生する訳だ。
 農畜水産業での、殺菌剤の大量投入も続いているようだ。リスクプレミアムが取れないから、なくなる必然性はなかろう。

 13億人口の国だから、悪い輩の数も半端ではないなどと言ってはいられまい。
 他人事ではない。日本の消費者にとっては、食材のトレースの仕組み作りは、日本より中国の方が重要な筈である。

 ともあれ、こんな類の食品が輸出に向かないよう、中国商務部が、“日本とEUが2006年から導入する食品安全についての新規定に積極的に対応していく、と表明”(6)している。2005年11月のことだ。
 その方針もあり、査察強化が進んでいるのは確かだが、効果は期待薄かも知れぬ。
 例えば、2007年第1四半期の缶詰生産は百万トン。対前年比3割増だ。こんな急成長に対応していくのは至難の業。(7)
 しかも、中国は、摘発と懲罰の勧善懲悪型対策になりがち。このやり方では限界があるから、予防型に移行する必要があろう。そのためには、旧来型幹部を一掃し、マネジメントスキルを持つ人材を投入するしかない。
 つまり、早めの対処策で成功を収めた地方幹部の登用が成功の鍵と言うこと。
 すでに、食の安全と環境保全に関しては、メディア報道の統制を外して、地方幹部に早めに手を打たせる方針に転換しているようだから、もう一歩進めることができるか、という段階だろう。

 この路線が成果をあげることができるかで、現政権の命運が左右されるかもしれない。
 高成長路線から取り残されている第一次産業の問題に手をつけるのことになるからだ。
 貧農に依拠する勢力が権力闘争のタネにするのは目に見えている。

 中国共産党指導部が、気味が悪いほど、儒教的道徳キャンペーンを打ち出しているのは、こんなところもありそうだ。儒教を認めることができない旧勢力の力を削ぐ、深慮遠謀型の方針かも知れない。
  → 「儒教回帰は可能か 」 (2007年4月24日)

 --- 参照 ---
(1) 世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070404/122242/
(2) http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/list/
(3) 周勍: 「民以何食為天-中国食品安全現状調査」 中国工人出版社 2007年1月
  http://book.sina.com.cn/nzt/live/liv/minyishiweitian/index.shtml
(4) http://www.maff.go.jp/www/press/2007/20070515press_4.html
(5) http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.may/070518.pdf
(6) http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/xwdt/t223901.htm
(7) Mure Dickie (北京): “Shake-up for China’s food industry” Financial Times [2007.5.9]
  http://www.ft.com/cms/s/7966ae92-fe49-11db-bdc7-000b5df10621.html


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