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2008.3.25 |
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筍の話…近所皆 筍持ちと なりにけり 大田市 三谷コウ NHK俳句2006年5月13日一席の句 [お題: 竹の子 選者: 矢島渚男] 筍といえば、春の香りがして嬉しいものである。日本では古くから、美味しい食物とされてきたようだ。 なにせ、古事記に登場する位だ。 黄泉の国からイザナキの神が逃げる際、追ってくる勢力に頭の飾り物を投げると食べ物になり、窮地と救うのだ。余程、美味しいものと思われる。 → 「古事記を読み解く [神産み] 」 (2005年11月16日)
筍料理をウリにする料亭があるのだから、それこそピンキリ状態だ。 ただ、古事記の話で気になったのは、山葡萄や桃はわかるが、筍を生で食べるという点。 料亭メニューで刺身があるが、採りたてらしいが、軽く茹でてあるようだ。 と言って、北の地方で見かける、アクがほとんど無い小振りの筍が古事記に登場するとも思えない。・・・などと考えていたら、土から出てきた直後の筍を、その場で食べれば生でも美味しいとか。ただ、それは土地の質に左右されるようだが。 古事記の記述はその通りだったようである。 そういえば、祇園祭山鉾巡行にも、筍が登場する。(1)中国の二十四孝の一人、“孟宗”の人形を搭載しているのである。病身の老母のために、雪の中で筍を掘りあてた姿。 京都は、ことのほか筍料理に思い入れが強いようである。この孟宗竹の筍だけでなく、その後順次採れる、淡竹、真竹、寒竹も調達して新鮮なものを楽しむそうである。 もっとも、現在の主流である孟宗竹にはたいした歴史はない。1736年、琉球から島津藩へ渡来したとされており、その名残りが、今でも鹿児島市の仙巌園(磯庭園)にある、「江南竹」だとされている。(2) なるほど、薩摩隼人が黒潮に乗って、南方モノを持ってきて、紀州へ、さらに畿内へ持ち込んだ訳だ。 しかし、暖かい所で雪中筍堀りなどある訳がない。日本で、この情景にピッタリな筍は、雪解けの山で採れる根曲竹だろう。寒い地方の山深いところに生える笹の筍だ。そのため、地竹と呼ぶことが多い。ただ、正式には千島笹と読むようだ。温暖気候が好きな竹の北方限界といったところか。 この筍、小振りの上、アク抜き不要なので、実に嬉しい食材だ。ただ、山に採りにいくのが大変だから高価なのが玉に瑕。 月山筍(3)と銘打った商品がコレだが、ビックリするような値段のことがある。なにがなんでも食べたい人がいるようだ。 ただ、瓶詰めにされている細い筍は安価なものもあり、里に生えている茎が細い竹だと思われる。姫竹と名前がついていることがあるが、篠竹とか笹竹とか呼ばれる女竹の系統に違いない。山と里の品種で、どの位味が違うのはよくわからないが、種の違いより、生えている土壌による違いの方が大きいのではなかろうか。 里の笹は、邪魔者にされがちだから、最近はほとんど見かけなくなったが、昔は結構色々なところに生えていたものである。 まあ、里山が無くなれば当然一緒に消えていくことになろう。 ともあれ、古事記の時代から、筍嗜好は延々と続いている訳だ。 そういえば、干し筍もあって当然だと思うが、スーパーで見かけたことがない。と思ってウエブを探すと、球磨川上流の名産品(4)が出ている。(古来製法で、水煮のフリーズドライ品とか特許にでてくる乾燥製法ではないと思うが。) こんなことが気になるのは、中華料理では、麻竹[Dendrocalamus latiflorus]の筍の漬物、麺麻(メンマ)がお馴染みだから。これ、乾燥筍を戻したものである。英文名称から見て、台湾が本場だろう。メンマが気になるのは、メンマが好きという訳ではなく、醗酵食品だから。そして、そのルーツと思われる中国雲南省の食生活にいたく親近感を覚えるためである。よく知られているが、この地域だけは、漢民族支配がさっぱり進まないようで、少数民族乱立が続いている。(5) ビルマ・ラオス・ベトナムの北に位置するが、南方諸国やチベット、中国の他の地域とは相当違う印象がある。 中国のなかでは森に覆われている点で全く異質だが、それ以上に面白いのは、幅広い気候帯がある点。それこそ緯度的に熱帯気候的であってもおかしくない訳だが、高地の寒冷な地域まである。海が無いことを除けば、日本にそっくりと言える。当然ながら、食物のバラエティは豊かそのもの。しかも、いたく筍好き。 (“食用竹笋除了人箇所熟悉的鮮笋外,_干笋(笋_、_笋、浪笋、笋花)和酸笋(干笋_、水笋_),尤其_酸笋是竹笋制品的上乘者,・・・”(6)) 日本人が筍好きでも、流石にここまでではない。なにせ、筍醗酵調味料“酸笋”を用いた焼き魚が好物だったりするのだから。(“景顔族的特色菜点有酸笋焼魚”(7)) 竹はもともとは南方の植物。それを北へ北へと押し上げてきたのが、倭人だったようである。 そして民族としてのルーツを懐かしむのが、筍食の本質ではないかと睨んでいるのだが。 --- 参照 --- (1) “孟宗山” 京都市観光文化情報システム http://kaiwai.city.kyoto.jp/search/view_sight.php?InforKindCode=1&ManageCode=6000117 (2) “仙巌園マップ” http://www.senganen.jp/iso/isoGuideE.htm (3) “食の都庄内を彩る食材たち 月山筍” http://agrin.jp/hp/miyako/take/index.html (4) “水の上の市場 干し筍” http://www.vill.mizukami.lg.jp/e_shoppy/www/list.cgi?id=000000009 (5) “雲南省各民族の名称・言語系統・人口” 名古屋大学東洋史学研究室 http://www.lit.nagoya-u.ac.jp/~maruha/yunnan/ynminzu_j.html (尚、中国政府が発表する原資料は信用できない。) (6) 「有竹就有る俸家住」新華網 [2004.12.21] (西部新聞網新聞中心) http://www.chinawestnews.net/gb/westnews/xbfq/mzfq/userobject1ai395123.html (7) 「部分少数民族菜的特色」飲食文化 [2007.1.19] (中国の音 中華文化) http://news.chinavoc.cn/ChinaCulture/Files/200701/9021.html (参考) “日本の竹”/“世界の竹” 「竹 Bamboo Home Page」 http://www.kyoto.zaq.ne.jp/dkakd107/E02.html http://www.kyoto.zaq.ne.jp/dkakd107/F.html 「竹類情報館」 http://www7.ocn.ne.jp/~bwc/index-j.html “日本竹笹の会会員HPリンク” 「富士竹類植物園」 http://fujibamboogarden.com/light/link.htm (俳句の出典) http://www.nhk.or.jp/tankahaiku/haiku_tokusen/20060513.html (筍のイラスト) (C) 素材屋じゅん http://park18.wakwak.com/~osyare/index.html 「食」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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