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2009.9.29
 
 


馬鈴薯の話[続]…


  ミッションの 時代を想い ポテト食べ

    ジャガイモの古いイメージは消えつつあるようだ。

 Milletの「晩鐘[L'Angelus]」には、収穫中のポテトが描かれているが、「馬鈴薯を植える」(1)も有名。西洋では、馬鈴薯は象徴的な作物ということ。
 もっとも、日本では、それよりは岩波書店の「種まく人」マークの方が有名だと思われる。

 これらの絵は、いかにも、信心深い“農民画家”が描いた感じがする。ところが、実際は違うらしい。
 ミレーは、借金してでもパンの配達を頼んでいたそうだし、家にはメイドまで。実態は、功なり名を遂げた画家というのが実像。(2)

 一方、Vincent van Goghは、この作られた“農民画家”像を信奉してしまい、労働者階級のライフスタイルを追求したという。馬鈴薯ばかりを食べていたとか。
 その成果が「馬鈴薯を食べる人たち(食卓についた5人の農民)」だろう。もちろん、焦点はポテトではなく、“ランプの下で皿に盛られた馬鈴薯を食べる人々の手”。(3)

 小生は、単なる馬鈴薯に情感を込めた方がよいと思うが。もっとも、「バスケットに入ったポテト」(4)もあるが、そんな感覚は余り感じられず、静物画の一作でしかなかろう。

 日本の都会人種の馬鈴薯感は、この辺りの輸入思想から、大きな影響を受けてきた。
 馬鈴薯など、洋食に付随して入ってきた北方作物でしかないと思うが、そうはならない。それは、単なるイモではなく、格別な想いが込められていたのだ。それは、現代でもまだ続いているようだが。
  → 国木田獨歩: 「牛肉と馬鈴薯」 [青空文庫]

 ところが、そんな情緒を消し去る流れも生まれている。
 そう思ったのは、マガジンラックに入っている古い雑誌を捨てようとした時、表紙に「じゃがいも」が描かれていたから。(5)コレ、武者小路実篤的なものではなかったのである。
 そこには、じゃがいもの食べ比べセットが描かれていた。この題材は、売り物ではなく、趣味で栽培している料理カメラマンからの、奥様への贈り物だそうである。
 時代を象徴するような絵ではないか。作家も、“農民画家”ではなく、様々なことに挑戦しているイラストレーター。
 15種類の「じゃがいも」が、ダンボール製の野菜輸送箱に入っているのだが、見かけはまるで標本箱。そう感じるポイントは、ラベルだ。これで、シガ針でイモを止めていたらもっと面白かった。(シガ針など知らない人の方が多いか。失礼。)

 と言うことで、その15種を並べてみた。(メークイーンだけは、ラベルが外れていた。)
 誰でも知っているのは3種類か。
  ・男爵薯
    -粉吹きイモとして、小学校の家庭科で習った覚えあり。
    -まあ、ホクホクしているから、コロッケ用か。
  ・メークイーン
    -細長いのですぐわかる。
    -煮崩れしないので、肉ジャガ、カレー/シチュー、おでんの定番。
    -粘るということでもある。
  ・キタアカリ
    -男爵を美味しようとしたのでは。
    -惣菜ポテトサラダにはわざわざ表示があるから、向いているのだろう。
    -煮物にするとグチャグチャ。
    -「北光」とは書かないようだ。

 農業試験場が一手に品種を管理しているのだろうが、農林○○という命名をしなかった訳でもないだろう。そんな名前には、人気がでなかっただけかナ。

 この3種位ならすぐ覚えられるが、この先に進むと、特徴はよくわからくなってくる。余り興味を持っていないせいもあるが。

 ただ、気になる流れはある。2008年のポテト年を前にして、インカのイメージが強調されてきたこと。
  → 「馬鈴薯」 (2008.5.20)

 まあ、同じポテトとは言うものの、全然違うイモだ。
  ・インカのめざめ
    -味は、馬鈴薯というより薩摩芋に近い。
    -身の色が黄色。
  ・インカのひとみ
    -めざめの仲間だろう。
    -名前がお洒落だから、お菓子用ということか。

 美味しいからといって、又、どうしても食べたいという気はおきなかったが、ジャガイモマニアには人気なのだろう。マニアに言わせれば、この程度は序の口なのだろうが。
 なにせ、なんだかわからない珍しいものが次々と登場していうようなのだ。それに、高価な感じがする命名だ。おそらく、園芸作物化が始まっているのだろう。
 初耳ばかり。
  ・シェリー
  ・スタールビー
  ・ノーザンルビー
  ・シンシア
  ・シャドークイーン

 上記の「ルビー」もそうだが、「赤」を連想させる名称がある。アンデス系は赤紫のものがあるが、その手の品種なのだろうか。
  ・ベニアカリ
    -紅光なら、北光の仲間ということか。
    -ポテトサラダとして宣伝していたのを見かけたことがある。
    -赤というより、美しい白色が特徴では。
  ・レッドムーン
    -確か、種苗会社品。(国策に反するから、一番珍しい。)

 売り場で見かけない品種は、ポテトチップや片栗粉といった食品加工産業用かな。一般人にその存在が知られたのは、“Snowden”を突然摘発した時か。
  ・こがね丸
    -油で黄金色に揚げますということか。
    -丸ならチップには便利だ。
  ・十勝こがね
    -いかにも十勝のポテトチップといったイメージが湧いてくる。
    -チップではなく、フレンチフライ用か。
  ・らんらんチップ
    -こちらは、チップ用だろう。

 これでもか、という品種作出状態。たいしたものである。

 --- 参照 ---
(1) 「馬鈴薯を植える人々 ジャン・フランソワ・ミレー」 山形県学校美術館
  http://www.yamagata-c.ed.jp/kyouka/art/05_museum/01_school/e_set.htm#馬鈴薯を植える人々
(2) 井出洋一郎: 「ゴッホの中のミレー, ミレーとバルビゾン芸術」
  http://www.ne.jp/asahi/art.barbizon/y.ide/09milletGogh.1html
(3) Azuma Takashi: 「馬鈴薯を食べる人たち(食卓についた5人の農民)」 Salvastyle.com
  http://www.salvastyle.com/menu_impressionism/gogh_mangeurs.html
(4) “Basket with potatoes, I/II”
  http://www.vincent-van-gogh-gallery.org/Basket-Of-Potatoes.html
  http://www.vincent-van-gogh-gallery.org/Basket-Of-Potatoes-II.html
(5) 和田誠: 「表紙はうたう <すごいそーじゃがいも>週刊文春 2009年8月27日号
  http://www.geocities.jp/a5ama/vmenu.html
(品種の参考サイト)
  「じゃがいも品種詳説」 日本いも類研究会
  http://www.jrt.gr.jp/var/index50.html
  北海道農業研究センター: 「北海道農業研究センター生まれのばれいしょ大集合」
  http://cryo.naro.affrc.go.jp/pamph/imoiroro/imoiroiro.html
  ジャガイモ博物館 [品種アイウエオ順]
  http://www.geocities.jp/a5ama/vmenu2.html
(L'Angelus の写真) [Wikipedia] http://fr.wikipedia.org/wiki/Fichier:Jean-Fran%C3%A7ois_Millet_(II)_001.jpg


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