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■■■■■ 2013.12.12 ■■■■■

四石稗の話

  立ち易はり 古き鄙地と 成りぬれば
    鴨之足草 長く生ひにけり

       万葉集#1048に習って

シコクビエはずっと四国稗と思っていたら、四石稗なのだとか。
まあ、簡単に手に入るものでもないから、どうでもよさそうな感じもすると言えば、語弊があるか。雑穀命の方々が増えているらしいから。
しかし、この植物は孤立している山奥での栽培が多そうで、それぞれの地域毎に勝手に呼び名がありそうだから、統一名称は難しいというのが実情なのでは。
徴税対象から外されている「雑草」扱いにするためには、「稗」ではまずかろうし。(従って、公的文献調査では、栽培実態はわかるまい。)
現在残っている栽培農家は僅かだが、かつては広範囲だったと見るべきではないかも。それぞれの農家が勝手に栽培を続けてきた手の植物のように見えるからだ。
以上、言うまでもないが、単なる推量でしかないから、信用しないこと。

小生がそう思うのは、この作物、粟・稗・黍と違って、いかにも「非栽培種」という風合いだからだ。ヒエと名付けられているが、植物学上はヒエの類縁ではない。ただ、自然な生活分類で言えば、ヒエに入るのは間違いない。「畑稗, 唐人稗, 四国稗, 犬稗, 田犬稗, 水稗」と「雌稗芝/雌日芝, 雄稗芝/雄日芝, 野芝,鬼芝, 高麗芝, 道芝/風草, 力芝」の一群となる。言うまでもないが、イヌビエやシバ類は農家にとっては大敵である。
  → 「イネ系植物の分類@黒酒とは粟酒では」 (2013.12.1)
・・・植物学の分類の正当性を実感したかったら、写真を見ると一目瞭然。素人目には、初期生育段階だと、オヒシバとの差異はなにも感じられない。要するに、田畑で蔓延る雑草としてえらく嫌われている植物と全く同じ。そんな植物の栽培を権力者が推奨するとはとうてい思えまい。ただ、細かな工夫が可能な個々の農家にとっては、自分の農地への影響なきようにして、自家用として細々と続けることは十分考えられよう。
多分、そこらがこの作物が僅かに栽培され続けている所以なのでは。

さて、このシコクビエだが、サハラ砂漠以南のサバンナ農耕文化の中核穀物とされる。粥食のようだ。多分、教科書では同時にササゲ、ヒョウタン、ゴマも栽培される、世界の農業の1大パターンと記載されていることだろう。
それは確かだろうが、小生は、疎林帯焼畑向きイネ科穀物と呼びたくなるところだ。

古い歴史を持つ作物のようだが、欧州には近代になってMillet(訳語:雑穀)の一種として伝来した模様。アフリカ原産なら、真っ先に伝わってよさそうなものだが。その理由はわからないようだ。

東アフリカ原産とすれば、日本への渡来ルートはこんなところでは。(畜産主体の中央アジアや欧州には普及しなかったと考える訳。)

 東アフリカ高原地帯
 ├─→西アフリカ
 ↓
 (アラビア半島・ペルシア)
 ↓
 インド大陸西側
 ├─→デカン高原
 ↓
 ベンガル→ヒマラヤ→中国南部→日本
 ↓
 インドシナ半島→島嶼

これを見ると、日本は最北端での栽培に挑戦したクチ。

どうしてそこまでして栽培する必要があるのかと感じる訳だが、たしかに魅力的な点も多々ある。その特徴はこんなところ。全体を勘案すると、手がかからない栽培とは言い難いものがある。
 ○夏成長一年草作物である。
 ○比較的低温乾燥地帯でも生育する。
   他の穀類では困難な環境にも耐える。
   ただし余りに冷涼気候地域は無理。
 ○一般に発芽率は高い。
 ○初期生育能力も高い。
 ○種子量・収穫量比では魅力的である。
   分けつ力(枝分かれ10〜20)が高い。
 ○栄養分が乏しくてもそれなりに育つ。
   肥料分が多過ぎると生育能力が落ちる。
 ○土が痩せると流石に収穫量は激減する。
 ○水の量が多くてもなんとか育つ。
 ○焼畑化したばかりの土地でよく実る。
 ○問題は、初期成長が雑草より緩慢な点。
   初期は雑草との競合で負ける。
   [除草・土寄せで対応可能]
 ○発根定着力が高くよく根が張る。
   [苗床からの移植可能]
   [土を砕く効果あり]
 ○収穫は穂のみ切り取るしかない。
   [成熟バラツキで要数回収穫]
 ○種は収穫期の風雨で脱落しやすい。
 ○穂のままなら数年間は保存可能。

食物そのもので考えても、手がかかるから、そうそう人気が湧くことはなさそうである。精白は難しそうだからだ。粒食だと皮を食べざるを得まい。従って、炊飯あるいは日本的な粥向とは思えない。(アフリカの粥食はどのようなものかわからないが。)それに粘りが無いらしいから、日本の食文化では重用され難し。まあ、もっぱら粉食となる。そのためには、麦類以上の力仕事が必要となろう。
炒ってからの粉は、ソバ掻や麦焦がし的な食となり、生粉はもっぱら団子ということになろうか。味の方はよくわからないが、囃された話はついぞ耳にしないから、今一歩かも。まあ、穀類は慣れが大きいが。
それでも、栽培し続けてきた農家が存在するのは、他の穀類では安定した収穫が見込めない土地が側にあると、どうしてもそれを生かしたくなるからでは。

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