→表紙 | 2013.12.1 |
黒酒とは粟酒では正式な神饌の御神酒は、白酒と黒酒のペア。もちろん、現在も通用している。「延喜式」では、白酒は米酒をそのまま濾したもので、黒酒は白酒に常山木の根の焼灰を加えて黒く着色したものとされているそうだ。アルカリ性の灰を入れ、酢になるのを防ぎ、長持ち効果を狙っているということのようだ。 灰持酒(あくもちざけ)とも呼ばれていて、薩摩地酒として流通しているとのこと。甘みが強く赤褐色。と言うことは、肥後の「赤酒」も同類ということになる。拙宅では、味醂的な調味料として使っている酒である。(→ 2009.4.22) 味は極めて濃厚で、とても飲酒の気分にはならないが。両者ともども、行事用として使われているそうだ。味醂のお屠蘇の如き使い方なのだろう。 今迄、この情報をボーと聞いていたのだが、ふと、思ったことがある。 酒を「黒く着色」して一体なんの意味があるのかと。 日持ちする酒と、そうでない酒を並べる意味も、理解し難いものがあるし。 それに、白に対する色としては、和の感覚では「赤」である。しかも、灰持酒は赤っぽいのだ。「赤酒」があるのに、わざわざ「黒酒」がどうして必要になるのだろうか。 と言うことで、小生は全く別な見方をしてみた。 黒酒とは、非米酒の黒っぽい酒の代替品なのではあるまいか。 話は突然飛ぶが、先島に黒島がある。酒造は盛んだったようで、他の島はここから酒を購入していたようである。しかしながら、この島では米はとれないのだ。そこで、由布島に水田を持っていたらしいが、そんな体制で米を原料にした酒造りができる訳があるまい。当然ながら、原料は米ではなく粟。 要するに、先島は、もともとは米の泡盛ではなく、粟酒一色だった可能性が高いということ。 尚、もち粟は、粟善哉を食べたことがあればわかると思うが、餅的な食感で美味しいと評価されていた筈。小生は、山行帰りに奈良田近辺で泊まった際に粟入り飯を食べたことがあるが、大いに食が進んだ覚えがある。そんな感覚から言えば、モチ粟はもっぱら食用。 となれば、酒用はウルチ粟か。 そして、「泡モリ」酒とは、粟(アー)モリ酒(サキィ/ザギー)ということになろうか。 この粟酒だが、蒸留する前の色は、黒っぽいのでは。従って、黒酒生産地ということで、黒島と命名されているのではあるまいか。 ちなみに、台湾原住民族のBunun族は祭儀での「輪杯」は粟酒だという。 日本の古代、それこそ阿波の国が粟で栄え、吉備の国が黍で謳歌していた頃、粟酒や黍酒が神饌だった筈。それが元祖「黒酒」ではないかと睨んでいる訳である。 穀類というか、イネ系統の食用作物の分類を考えると、水田稲作以前の日本列島は粟作文化だったということでもある。その農耕技術が労働集約型の高度なものだったから、容易く稲作導入が進んだと見ることもできるのでは。 おそらく、麦は裏作として流行ったということ。水田の場合は、名づけるなら「田麦」ということになろう。もちろん、粟や稗を表作とした、「畑麦」もあった訳である。 よく言われることだが、倭には、「雑穀」という概念は無かった。それは「Millet」への現代的翻訳対応と見てよかろう。倭における裏作用粉食穀物の「麦」という概念が、西洋に存在していないのと対照的。 倭では、収穫量という点で評価すれば、おそらく、稗が優等生だったろう。しかし、味の点で、粟や黍にはかなり落ちるのは間違いない。好まれたのは、一にモチ粟で、それに次ぐのがモチ黍だったと見てよいと思う。(と言っても、日本の国土はどこでも地形が複雑だから、風や水の温度と日当たりに合わせて"ミクロ"に植え付けを決めるしかない訳で、そうそう好き勝手に栽培ができる訳でない。) それに、収穫量が多いということは、土地がすぐに痩せる訳で、持続的ではないのが辛いところ。 稲が、粟/黍/稗を凌駕し、日本列島に浸透していったのは、水田だと連作しても収穫量が落ちない点にあったということでもある。運営が優れていると、膨大な収穫も望める魅力的な作物だったことも大きい。 しかし、粟/黍/稗の栽培技術もかなりのもの。連作しないということは、芋と交互ということになろう。それこそが田芋であり、里芋ということでは。その重要性は、酉の市で「八つ頭」がつきものになっていることでもわかろう。単なる言葉遊びの縁起モノとされているが、トリを尊ぶのは雑穀時代からで、芋よりは「粟/黍酒」で寿ぐべきだろう。(鳥の大好物は粟だが。)まあ、そうもいかなくなったということ。 温帯芋食文化は必然的に雑穀食文化でもある訳。熱帯芋文化とはいささか違うのである。 ───イネ系植物の分類─── 【イネ/稲】 ○温帯型短粒種 -粳 うるち性 -糯 もち性 ○熱帯型長粒種 ○紫米,紅米,香粳 【アワ/粟】 ○朮 もち性アワ ○粱 うるち性アワ *狗子草(or 猫ジャラシ)・・・非栽培種 【キビ/黍】 ○稷 うるち性キビ ○黍 もち性のキビ ○糠黍 ○高粱 or 高黍[Sorghum] ○玉蜀黍[Maize] ○砂糖黍[Sugar cane] 【ヒエ/稗】(→ 2008.9.2) ○畑稗 ○唐人稗・・・アフリカやインド △四国稗 ▽犬稗,田犬稗,水稗 ▽雌稗芝/雌日芝,雄稗芝/雄日芝 ▽野芝,鬼芝,高麗芝,道芝/風草,力芝 【ムギ/麥】 ○(六条)大麦[Barley] ○四条大麦・・・海外の品種 ○ニ条大麦・・・ビール用 ○小麦[Wheat] ○黒麦[Rye] ○燕麦[Oat] ○鳩麦/薏苡・・・もち性 *数珠玉の変種 ▽犬麦,鼠麦,細麦,毒麦,蝦夷麦/披碱草,浜麦 【チガヤ/茅萱】・・・もっぱら屋根葺用資材 □ススキ/芒 or 薄 □アシ/葦, 蘆, or 葭・・・縁起を担ぐと「ヨシ」 □オギ/荻・・・アシより高台に生えるが区別困難 □カルカヤ/刈萱 ▽米茅.草葦,雀茅 【マコモ/真菰】・・・藁編の「蓆」用 ・黒穂病菌で茎芽が変形すると「菰筍」(→ 2009.11.10) (参考) 萩尾俊章(沖縄県立博物館): 「宮古・八重山諸島における 「酒」 の歴史的変遷」 ・・・蒸留酒のみ対象 台湾原住民デジタル博物館 ブヌン族 国立台湾先史文化博物館 文化論の目次へ>>> HOME>>> |
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