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2016年2月5日

水仙の風土(Tazetta)

日本人に馴染みがある水仙/Daffodilsの英語詩には2つある。

ひとつは、中学校英語の授業に登場するワーズワース/William Wordsworth(1770-1850)の作品。
もう一つは、ブラザーズ・フォーの"Seven Daffodils"。60年代のヒット曲である。・・・"資産はないけど、朝日に輝く無数の丘を見せることはできる。そして、キスと七つの水仙を、君にあげよう。"といった内容。

この2つと、ナルシス伝説を知っているだけでも、なんとなくではあるが、欧米は水仙の美しくて清楚なイメージが好みなのだろうナという気にさせられる。
だが、本質的には冬咲きに意義があるのだろう。NYのThe Daffodil Projectに見られる通り。ただ、日本の感覚だと、水仙は水仙でもラッパではなかろうし、無垢な白色にすべしとなるが。

しかし、そのような姿勢は古代から続いている訳ではなさそう。暗黒の中世には、水仙の話など全くといってよいほど登場しないからである。

この辺りから、風土論的に水仙を眺めてみたい。・・・

なんといっても、特徴的なのは"極東"文化。
はるばると地中海から伝来した水仙が根付いているからである。
   「蛇信仰風土を考える」(極東での洗練化)[2016年1月26日]

その間にあるのは、中華帝国の「世界をただただ取り仕切りたい」姿勢。中国共産党とは、世界最大「桜園」創設といった感覚で動くだけの組織だから、水仙なら「一帯一路花」として売り込みたくてウズウズといったところだろう。

Narcissus/水仙の原産地は地中海沿岸とされている。Daffodilはその仲間の名勝。ナルコとはよく知られるように、昏睡を意味する言葉である。
この言葉と共に、植物も伝わっていったのである。
ナーシサス[英]・ナルツィッセ[独]・ナルシッソ[西]・ナルシッス[仏]・ナルチーゾ[伊]・ナルツイース[露]・ナルキッスス[羅]・ナルキッソス[希]・ナルギ[古代ペルシア]・ナイギ[唐] (source:BABEL)
ただ、中華帝国はこの名前はさっぱり面白くないらしく改名してしまう。
一方、日本は初めからこうした言葉を導入しなかった。しかし、その花を愛でる文化は喜んで受け入れたのである。なにせ、毒草であり実用性を欠くのだから。だが、、独自の和名をつけることは避けた。遠来の文化に敬意を払ったからだろうが、和の雰囲気とは違うと見なしたからでもあろう。しかし、そんな雑炊状態を大いに喜ぶのが極東文化のである。

その地中海だが、植物的にはオリーブの地と言ってよいだろう。果実なら真っ赤な柘榴。そして、ここから世界に広がった花とのほとんどは紅色。・・・
🌼 Day's Eyeことデイジー(菊系)、"Carn/肉"色花のカーネーション(撫子系)、Circleのシクラメン(桜草系)
水仙(彼岸花系)だけがかなり異質である。冬咲と非赤色というだけではなく、球根や葉を食べれば死に至るほどの毒物を含有しているにもかかわらず人気があるからだ。

ただ、花と言えば、これらではなく、チューリップとバラ。これらも、又、赤色である。
🌷 イラン・アナトリア高原辺りの乾燥地域原産の花といえばチューリップ。赤色が愛されたのだろう。
バブルの発祥地でもあるオランダのイメージが強すぎるが、カザフ-キルギス-アフガン-イランといった中央アジアでは花と言えばコレの社会。美しさより神聖さから。古代名称は神ということで、ターバン類似花という名称にしたのは欧州の人々。
🌹 そして、なんといっても欧州で一番愛された花と言えば真紅の薔薇だと思うが、その発祥はカシミールと想定されている。色もさることながら、魅了は香り。ペルシアやヒンドゥー教圏では、この精油あってこその祈祷ともいえそうな文化が出来上がっていたようだ。欧州の薔薇文化はその真似から始まったのである。

ともあれ、矢鱈滅多羅に水仙の栽培品種が生まれたのは、冬枯れ時期に水仙とヒヤシンス満開の西アジアやペルシアの状況を知ったから。今でも、イラン南西部のKhuzestan中心地Behbahanには紀元前から存在していそうな野生種水仙畑があるそうだ。20エーカーとか。(Photo by Saeed Kouhkan National Geographic 2015/01/09)
   "Picking Narcissus in city of Behbahan, Khuzestan Province, Iran" 12 January 2010 IRIB English Radio
かなりの拘りだが、もともとは花弁からの精油採取用だった可能性も。インド〜ペルシアの祈祷者は身体に精油を塗る習慣があるからだ。インド方面では、花はもっぱら蓮か睡蓮。薔薇や茉莉花はその香りが尊ばれた筈で、その影響を受けている筈。水仙の香りはそれらより強いから抽出技術があったとすれば、第一義的には精油だったのではないか。

球根鉢植可能なこともあり、一世風靡。なかでも今でも国花としているウエールズが熱心だったので、英国式分類が一般的になっているようだ。当然ながら、【花形色分類】である。
   "13 divisions of Daffodils"[1969年作成分類]@RHS
素人が分かりやすいように改訂すると、以下のようになる。

  -いかにも西洋タイプ-
・喇叭水仙/Wild daffodil(Trumpet)
・大杯水仙/Long-cupped daffodil
・小杯水仙/Small-cupped daffodil
・八重水仙/Doudle daffodil/重瓣水仙
  -反り返りタイプ-
・雫型水仙/Angel's Tears(Triandrus)/三蕊水仙
・シクラメン状水仙/Cyclamen-flowered daffodil("Tete a tete")/仙克水仙
  -ベースの2つ-
・黄水仙/Jonquilla narcissus/丁香水仙
・房咲水仙(中國水仙,日本水仙)/Paperwhite narcissus/法国水仙
   ↑シシリー島原種"Tazetta"
  -他-
・口紅水仙/Poet's narcissi/口紅水仙
・笛吹水仙/Petticoat daffodil(Golden Bells)
・新型バタフライ咲水仙(カラー、パピヨン)/Split corona daffodil/裂冠水仙
・他(交雑種と例外)

これほど様々な種類がありながら、シシリー島の原種がダマスカス〜ペルシア〜中央アジア〜中国〜日本と伝わってきて、日本の野生「水仙」となった訳である。おそらく、最初は、世界的に愛されている気高き渡来花ということで、限定的な場所に大切に育てられた筈。今や、全国至るところで植栽されるようになっており、日本人の琴線に触れる価値を持っている花なのは間違いない。
ここまで人気が出たのは、渡来時期に大衆文化が育っていたから、その薀蓄と共に、全国的に栽培が急速に拡がっていったのではなかろうか。
自生のニホンスイセン群生が見られる地は、黒潮の伊豆の爪木崎(300万輪)と南房総白浜、日本海側の福井の越前岬に、淡路島の灘水仙郷。いずれも、暖地の海岸の砂浜近辺。
そのためドンブラコと球根が流れ着いたと見なされれがちだが、小生は違うと思う。非公式的に球根を捨てた結果と見る。毒草で韮と間違いかねないから、本来は愛でたくなるような草ではないからだ。
   「"自然の怖さ"教育が欠けていそう」[2014.5.8]

突然だが、ここまでお読みになると、なんとなくお感じにならないか。
5つの文化圏があるのでは、と。・・・
 [消滅]ナルコ(冥界の扉草)・・・ギリシア神話圏
 地中海文化復活(ナルシズム伝説花)・・・キリスト教圏
 祈祷香(土着習俗花)・・・イスラム〜ヒンドゥー圏
 一帯一路思想(政治的花)・・・儒教圏
 極東型雑炊好み(風雪清楚花)・・・日本教圏

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