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2003.4.26 |
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PS3用半導体の威力(1:不明な用途)…2003年4月21日、「ソニー、3年間で半導体投資2000億円」とのニュースが経済紙を飾った。株価低迷の時に嬉しい話である。ゲーム機やデジタル家電向け半導体の生産設備に積極投資するという。 (http://www3.nikkei.co.jp/kensaku/kekka.cfm?id=2003042107762)「これで、ソニーも半導体産業の一角を担うようになる」との解説が多いようだ。 確かに間違いではないが、この投資は社運を賭けた意思決定といえるかもしれない。といっても、投資金額の問題ではない。ゲーム事業を根本から揺るがす動きかもしれないからだ。 それでは、どのように見るべきか、考えてみよう。 当初の予測通り、プレイステーション2事業は、半導体開発に潤沢な資金を投入してきたといえる。・・・年間二千万台販売なら、プロセッサーだけで二千億円の市場が生まれ、年間数百億円の研究開発が可能。 (月刊「Voice」2000年5月号 小久保厚郎「プレイステーション2の衝撃--三つの課題を打ち破れ」) こうした資金で、鍵を握るプロセッサとグラフィックチップでプロセス技術を磨き続けると共に、次世代チップ開発も行ってきたのである。 そして、2002年末には出荷台数が5000万台に達した。ここまで普及すれば、次世代製品コンセプトの発表があっておかしくない。 そうした雰囲気のなかで、ソニーとソニー・コンピュータエンタテインメントが、東芝/IBMと共同開発中の新プロセッサ「CELL」構想を発表したのである。(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200304/03-0421) このプロセッサ開発プロジェクトは、2001年スタートした。時間から考えれば、2002年中にチップのレイアウトが完了してもおかしくない。ところが、2003年に入っても、いつまでも発表がない。このことは、プレイステーション3以外の「何かに使う」戦略のため遅れているのではないか、との噂が飛び交っていた。 残念ながら、今回の発表は、こうした戦略の開示はなかった。最先端技術を用いた工場投資の話しと、チップ「技術」の誇示が主体だったのである。 このため、「CELL」がプレイステーション3用を主体とするものなのかは明瞭にされていない。 といっても、談話から伝わってくる、このチップの特性を見れば、単純なゲーム機を目指したものとは思えない。しかし、この時点で応用展開の話しが無いとのだから、プロセッサをオープン販売するつもりはないと見なせる。 驚くことに、「CELL」はマルチCPUだという。どう見ても、ハイエンドサーバ用チップの仕様である。(http://www.zdnet.co.jp/news/0304/21/nj00_sony.html) これほどのチップをゲーム機に搭載するのだ。ゲーム用途のチップは、高度で安価なら良い訳ではない。複雑な構造にすれば、ゲームソフトの開発者の対応力を越えてしまい、ゲーム創作者人口が減りかねないからだ。余りに高度なチップは、必ずしも得策とは言えないのである。 本当にマルチCPUを導入したのなら、チップの第一義の対象先は、端末としての従来型のプレイステーションではないと考えざるを得ない。そうなると、エンタテインメント業界向けのプレイステーション・サーバとか、家庭用の高度なサーバ導入といった、ビジネスシナリオを用意している可能性が高い。 つまり、ソニーが、ゲームと他のメディアとの本格的融合に挑戦を開始することになる。ゲームを超えた新しいマルチメディアエンタテイメント構想である。 こうした構想は、描くのは簡単だが、ハイリスクな挑戦だ。成功は容易ではない。 最大の問題は、コンテンツ創作側が高度な技術に興味を示すとは限らない点だ。特に、既存の巨大エンタテインメント・コンテンツ・ベンダー(メディア巨人)は、既存事業の補強策や周辺展開には熱心だが、新規参入を招きかねない新しい仕組み作りには非協力的である。このため、業界を変えてしまいかねないような高度な機器は浸透しにくいのである。 一方、小規模業者に新潮流勃興を期待するのも難しい。高度なハードは、対応ソフト開発に膨大なヒト/モノ/カネが必要となる。それだけの力量を持つベンチャーは限られる。 自力で新機軸のエンタテインメント創出を始めると、どうしてもコンテンツ開発がボトルネックになる訳だ。 「CELL」ビジネスの成否には、優れた全体構想が不可欠である。その上で、構想に基づいた、「CELL」の周辺技術体系の設計で勝負がつくといえよう。 技術力検証の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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