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2006.4.4
 
 


花開く水道技術

 2006年度の「ニュービジネス大賞」最優秀賞は、自家用専用水道「地下水膜ろ過システム」の設計、施工、メンテナンス事業を推進している、(株)ウェルシィが受賞した。(1)

 東京商工会議所の第3回「勇気ある経営大賞」優秀賞も受賞(2)しており、“独自の技術・技能や経営手法によって新たな製品・サービスを生み出すなど、勇気ある挑戦をしている革新的・創造的な中小企業”として評価が定着したようである。

 約百メートルの深さの井戸から汲み上げた地下水を、膜濾過システム(三菱レイヨン製MF膜らしい)で飲み水にするプラントで、「次世代型水道システム」として採用が進んでいるそうだ。
 公共水道があるにもかかわらず、何故自家水道システムが受け入れられていうのかといえば、「コスト削減」「保証」「渇水・断水防備」「安全な水」「おいしい水」「環境保全」と良いことずくめらしい。(3)

 と言っても、驚くような話ではない。

 膜寿命も延びており、大量生産で安価になっているからだ。エンジニア技術も進歩し、膜濾過システムによる水道事業は、世界中で急速に競争力を高めている。MF膜より高価につく、RO膜による海水淡水化でさえ、シンガポールで立米当たり50¢を実現したという。(4)たいしたものである。臨海水工場時代に突入したと言えそうだ。

 ウェルシィが販売するシステムも、1基の値段は約3,500万円だという。地下水が無料で使える限り、設備リース料金と維持管理費だけで済むから、公共水道料金と比べると格段に安くすむようだ。(5)

 歪んだ水道行政が生み出した、象徴的な新ビジネスと言えそうである。

 どんなウリがあろうが、水はコモディティである。ビジネスの一般常識が通用するなら、大規模生産によるコストメリットは膨大である。
 小規模分散型のメリットとは、せいぜいがオン・オフでこまめに需要に対応できる点ぐらいの筈だ。使い方によっては経済効果が期待できないこともないだろうが、どうしても高コストになるのが普通である。

 ところが、そうならない。
 いかに、公共水道が高コストかわかる。

 しかも、さらなる高価格化の道を邁進しかねない状況にある。こまったものである。
  → 「大阪の水道の話を聞いて 」 (2006年4月3日)

 こんな話をすると、すぐに民か官かという議論を始めたい人が多い。
 そうすれば、労働組合が登場する。そしてゴタゴタ。これで問題をうやむやにできる訳だ。
 いつまでこんなことを続けるつもりなのだろうか。

 水道の専門家によると、英国の水道政策を眺めると、日本との“根本的な違いを痛感する”(6)そうだ。政権交代で、民、公、国、と事業者は変わっても、基本的な考え方は一貫しているという。
 なかでも、サッチャー政権の姿勢は特筆ものだという。世論の多数は反対だったが、公約通り、水道事業の改革を進めたそうである。
 まさに、「見直しと改革」、「破壊と創造」の意志と実行力そのものだという。

 “日本人は残念ながら、それらを持たない。”
 “多くの日本人が建前では変化改革を主張するものの(その方が格好よい)、各論になると行動は極めて慎重(抵抗勢力と化する)であって、これを期待するものにとって その落差は余りに大きい。”

 日本の水道行政には期待できそうにない、ということだろう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nbc-japan.net/news/nbi/taisho.html
(2) http://www.tokyo-cci.or.jp/chusho/keieitaisyo/3/kekka/wellthy.html
(3) http://www.wellthy.co.jp/html/wa/system.html
(4) http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/research/75all.pdf
(5) http://www.sankei.co.jp/advertising/toshin/spe0511/kaitaku-051121.html
(6) 斎藤博康「水道事業の民営化・公民連携 〜その歴史と21世紀の潮流〜」日本水道新聞社 2003年


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