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2007.7.11
 
 


電子タグ普及の熱は醒めたのだろうか…

 電子タグについては、政府も振興策の進め方をかなり変え、積極姿勢を示した。
 それもあってか、関係する組織も活発に動いているようだ。(1)
 セミナーもずいぶん開催されたが、大入りのものが多かったように思う。
 ・・・と言うことから見て、産業界の期待感が膨らんでいたのは間違いない。

 ところが、このところ急速に電子タグに関する話題が減ってきた感じがする。
 実用化に向けて着々と動くフェーズに入ったとも思えない。市場の状況がわかってきたため熱が醒めてきたのでなければよいが。

 同じ道を歩むことになるのかと言うと、怒る人が多いだろうが、政府が旗を振った結果は惨憺たる結果なのは、事実なのだから致しかたあるまい。
 個々のエンジニア・研究者の質は高いのに。

  日本の誇るISDNの仕組みは一体どうなったの?
  日本の誇るテレビ放送規格は海外で使われているの?
     (ブラジルは使っていると聞いたことがあるが。)
  日本の誇る携帯電話は海外で通用するの?
  通信機器分野で(例えば、ルータ)、競争できる製品は何があるのか?
  情報機器分野で(例えば、サーバやパソコン)は?
  それでは、半導体分野では?

 もっとも、最近は、日本はブロードバンド普及では大成功と見る人もいる。
 しかし、もしそんな感覚で動いているとしたら、電子タグの普及は無理ではないか。ブロードバンド化で、新産業が立ち上がった感じはしないし、産業の生産性があがるような動きがでてきたようにも見えないからだ。今の日本の利用シーンでは、ブロードバンドとナローバンドとたいした違いはないのではなかろうか。せいぜいが、IP電話で料金が下がったことと、ダウンロード購入する一部の人が便利になった位に見える。
 見方によっては、ブロードバンド普及政策とは、ISDN用に日本全国至るところに敷設した光ケーブルの活用促進策と言えなくもない。

 IT分野で重要なのは、高機能製品開発や、インフラ作りではない。使う人を生み出すことである。
 何故かといえば、単純である。ITの力を発揮するには、既存の仕組みを変革する必要があるが、新しいモノが登場しても、人々がそれを用いて変革を始めるとは限らないからである。
 と言うより、日本は安定志向だから、できる限り既存の仕組みを続けるようにして、新しいモノを導入することになる。これでは、折角のITの力が生きてこない。

 そんなことは、日本の情報システムを見ればすぐわかる。企業の壁を超えたシステムなど、ほんの一握りの企業だけ。企業内の仕組みでさえ、全社的に重要な役割をするようなシステムを稼動させている企業は一部である。
 要するに、日本のIT投資とは、今までやっているやり方を、そのままコンピュータに置き換えるだけのこと。算盤では、コスト削減となっているが、疑問である。生産性はほとんどあがっていないからだ。

 つまり、日本では、本気で新しい使い方を始めるユーザーへの支援でなければ、振興策にならないということである。
 先進的なユーザーに普及の起爆剤の役割を果たしてもらうということ。

 この観点が感じられないものは、どんな新しいやり方をとっても、結果はたいしてかわらない。

 そんなことは、電子政府の状況を見てわかっていると思うが。
 パスポート電子申請、登記電子申請、・・・と実白押しで、とてつもない投資額。セキュリティの名のもとに、肥大化しメインテナンスも重い負担となる仕組みを作らせたのである。
 言うまでもないが、利用者はでない。仕組みは変えず、ハコものだけ作ればどうにもならない。
 おかげで、ゼネコン型体質のベンダーは一息ついた訳だが、ビジネスの質はさらに低下していくことになる。
 これが、この業界の現実である。

 ただ、今回の電子タグ振興策には期待していた人も多かったようである。
 と言うのは、政府が積極的に見えたから。なにせ、不透明な施策で知られる電波枠行政が、世界での競争を考慮するということで、電子タグ用にUHF帯の電波枠を提供したのだ。(2)
 しかし、これは振興策というより前提条件である。枠が無ければ、そもそも成り立たないのだが。

 それに、メディアが喜ぶプロジェクト(2004年8月〜2006年7月)を立ち上げたことが効いた。“1個5円”目標とのスローガンがよかった。しかも、成果はライセンス・アウトするとの条項付で、従来の殻を打ち破るプロジェクトスタイルだったから、期待も集まった訳である。

 しかし、すでに述べたように、こうしたモノから入るやり方はお勧めではない。せっかく開発しても宝の持ち腐れになりかねないからである。
 繰り返すが、重要なのは、本気で使う人を生み出すこと。
 “1個5円”ができたから始めるようなユーザーが「本気」な訳がない。電子タグが必要と考えているなら、1個5円でなくても、とっくの昔、試行している可能性が高い。ビジネスとはそういうものである。
 (言うまでもないが、コストは、タグ価格だけでなく、タグ寿命や使い捨てかという利用条件と、インフラ運営費用を合算したもの.)

 はっきり言えば、普及は、タグの値段の問題ではない。膨大な数のタグを使うには、読み取り装置をはじめとして、情報システム構築が必要だからだ。こんな投資に踏み切れる業界があるかという問題である。
 そもそも、企業間をつなぐ情報システムなど稀な社会であることを忘れているのではないか。この状態でタグなど入れても効率などあがらない。補助金でも出ない限り、動かないということ。

 そうそう、いつも話になる標準規格だが、規格統一の音頭をとって、「ISO/IEC18000-6 typeC」ができたとされているが、タグのハードの基本を揃えただけとしか思えない。
 と言うのは、今もって、“響”、“EPCグローバル”、“U-コード”が並んでいるからだ。
続く>>> [予定: 2007.7.12]

 --- 参照 ---
(1) 電子タグ関連リンク集 [NiCT]  http://www.venture.nict.go.jp/trend/tag/link.html
  「電子タグ(ICタグ)・電子商取引(EDI)の活用」  http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/tag/
(2) UHF帯は欧米は使えるが, 日本では携帯電話や放送系にかぶるから難しいとされてきた.
  業界が働きかけようやく認可された.


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