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■ 孤島国JAPAN ■ 2010.3.16 |
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日本の横笛考[その1]…日本の笛の奥深さに気付いたのは、ずいぶん昔。その話をしてみよう。知り合いに、阿波おどりの“連”にご執心の方がいて、一緒に笛を吹かないか誘われたことがある。和笛を収集しているそうで、興味がおありなら、 漆塗りの素敵な笛を一本進呈するとまでおっしゃる。だが、突然そう言われても、全く知らない世界なので、どんな笛があるのか考えてみようと思い、とある楽器店を訪れたのである。 美しい笛が並んでいたが、お店の片隅に、なんと“Japanese Flute”という笛があった。竹製で袋付だが、これがとんでもない安物。プラスチックの教材用横笛の方が高価なのである。調律されていないだけで、玩具ではないという。西洋楽器の常識との乖離に愕然とした覚えがある。 しかし、話をしていて、それでよいのかも知れぬという気がしてきた。 その理由は、笛といっても様々だから。 おっと、こんな表現だと誤解されるかな。 例えば、フルートにしても、学校用廉価品、銀製スタンダード、プロが好むプラチナ管まで色々。当然ながら、製作者でもお値段が変わる。楽器なら、ピンキリは当たり前だ。天然の竹に孔を開けるだけの楽器となれば、良い材を探せばきりがないから、フルート以上に差があってもおかしくない。 ・・・そんな話とは違うのである。 矢鱈に、細々といろいろな笛があるということ。安価品もその一つ。日本らしさを堪能できる領域と言ってよいだろう。 例えば、フルート族だと音の高さで、ピッコロ、フルート、足管付フルート、アルトフルート、バスフルート、コントラバスフルートといった分類がある。フルートオーケストラ以外では登場しないから知らない人が多いと思うが、バイオリン族やトロンボーン族と同じようなもの。それでもこの程度。 和笛はそんなものではない。初心者が勧められる和笛といえば、“篠笛”(7つの指穴が開いた竹製の横笛)だが、これには本調子と呼ばれる音の高さの分類がある。それが、なんと12種類。フルートだと、確実に特注品で、図面から作ることになるようなものまでカバーする訳だ。 構造が簡単だとはいえ、何時までもそんな細かく提供していることに大いに感心。 ところが、ここで終わりにしてしまうと、本当の凄さがわからない。そもそも“7本調子”の篠笛といった分類が通用するのは、本当は一部だけらしいのである。 それがわかったのは、店員さんの質問から。 どんな演奏をなさるのですかという質問を受けたのである。フルートならプロでなければほとんど雑談に近い話題だが、篠笛になるとそうはいかない。一番肝心な点なのだ。 素人からすれば、江戸囃子、秩父屋台囃子、阿波踊、は同じ笛となるが、正確には違うというのである。仰天。 それぞれの地域の祭り毎に笛は微妙に違うらしい。つまり、当店の笛で問題ないのか確かめようということ。和笛の専門家なら当たり前のことらしい。それなら、フルート・トラベルソーのように、管を継ぐ構造にすればよいと思うが、そんなことには興味がなかったと見える。 微細な話に聞こえるかもしれぬが、祭りによっては全く別な笛だから注意する必要があるというのである。驚いたことに、だんじり祭り用は、指孔が1つ少ないとか。常識では、違う笛ではないかと思うが、篠笛でよいらしい。 う〜む。 そんなものかな。 小生は、ここに和の笛の本質が隠されている感じがした。そう思ったのは、ドレミ篠笛なるものがあるせいも。 西洋音階が吹ける篠笛ということらしいが、そうなると東南アジアの竹笛も篠笛になるのかな。一体、篠笛とは何なのという素朴な疑問が湧いてくる。 まあ、これは後で語ることにして、安物の楽器の方に話を戻そう。 どうして安価なのかは、誰でもすぐにわかる。 竹を切り、所定の位置にドリルで穴を開け、表面を軽く鑢でこすれば完成なのだから。 海外で作って輸入するなら、100円ショップで売ってもおかしくない。オイオイそれは遊びの工作のレベルで、楽器ではなかろうと言われそうだが、はたして、それは正しい判断といえるか。重要なのはココ。 お祭りの笛とは、本来は工作品なのではないか。各自、地元の長老の指導を受けながら、切り出した竹筒から作るものかもしれないということ。使い捨てだった可能性も濃厚である。 と言うか、日本の気候を考えれば、竹は冬の乾燥でどうしても割れる。毎年新調する方が自然である。 つまり、“安物”はあってしかるべき笛なのかも。 毎年作るといっても、標準原器などないから、それぞれの祭りごとに音は微妙に違ってくる。恣意的に他地域と音を変えたい気分も働くだろうし、祭毎に笛が微妙に違うというのはいたしかたなかろう。 ・・・という考え方ができるが、これでは、まだ突っ込みが足りに無い。 地域が違うとはいえ、それぞれの祭りで笛が統一されているかと思えばそうとも限らないのだ。山車で吹く笛は異なるものを使うことが多いらしい。こちらは、綺麗に細工したものを使うのだそうである。一般笛と調子も違うという。 むむ〜。一体、どうなっているのだ。 ここまで語れば、民謡に使う笛がどうなっているのか想像がつくというもの。 もともとは、各地の民謡に合わせた笛を使うのが慣わしだったそうである。しかも、同じ地域でも、違った風合いの歌もあり、そんな場合は、その歌に合った笛に換えて演奏したらしい。その気遣いや、恐るべし。 と言うか、昔は、素晴らしい耳をもっていた人が多かったということでもある。おそらく、少しでも調子が合わないと、気持ち悪くて聞くに耐えなかったのだろう。 調子外れで歌うことをタレントと見なすような耳になってしまうと、この感覚はわからないだろうが。 “Japanese Flute”とは、そんなことを全く知らず、“邦楽用篠笛”を入手しようと来店するエスニック笛コレクター用に置いたものだったのである。吹かない笛はすぐに駄目になるから、それで十分ということもありそうだ。 しかし、こんな安物を、笛好きも購入するらしい。そう、自分で細工するのだ。縦笛のリードを削るのと同じで、訓練しない限り、成果は望み薄だと思うが。 「孤島国JAPAN」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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