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2010.3.17
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日本の横笛考[その2]…

 篠笛は、単純な構造にもかかわらず、規格がバラバラであることとに驚いたとの話をしたが、標準的なものは、以下の2点を満たすと言ってよさそうである。
  ・管材が竹で、長さ30〜50cmの直管の横笛
  ・穴は歌口と7つの指孔
 わざわざ、こんな定義を書いてみたのは、素の竹笛がありながら、丁寧に塗装した笛もあり、両者は同じものなのか違うものかが素人にはよくわからないからだ。

 簡単に言えば、主に雅楽に使う、装飾が高度なものは篠笛とは呼ばれないが、その理由が腑に落ちないということ。フルートなど、木製を金属製に替えても、名前は同じだ。楽器はどんな演奏でも使うのだから、用途で名前を変えるものではなかろう。
 確かに、厚手に塗料を塗れば音質は相当変わるが。さしづめ、バロックの曲を木製フルートで演奏すると、その楽器は古楽器のフルート・トラベルソーと見なすといった姿勢に近いのでは。

 どこが違うか理解するために、塗り笛の特徴を記載してみよう。
  ・本体の管に、頭部管をつないでいる。・・・鳴るよう首を太くしたいということか。
  ・指孔部分の表面を削ってへこましている。・・・指でしっかり穴を塞げる。
  ・歌口部分を注意深く形をつくっている。・・・音が鳴り易い。
  ・管の内側を漆で丁寧に塗ってある。・・・管基材の変質を防ぐ。音質も変わる。
  ・首管の下部に出っ張りをつけている。・・・回転を防止し、吹き込み位置が安定する。
  ・頭部管の頭に閉管部を設定し錘を入れている。・・・重量バランス。音も安定する。
  ・管を樹皮の皮や藤蔓で巻いて膠で固める。・・・管割れ防止。管を太くし音質を変える。
  ・管の外側表面を完全に塗布する。。・・・変質防止。。

 単なる竹笛より格段に高度だが、篠笛と大きく違うものとは言いがたい。加工がされているため音質は変わるのは間違いないが、金管楽器の錆び止めに塗料で彩色するようなレベルとほとんど変わらないと思う。
  にもかかわらず、違う笛とするのは、高貴な用途と大衆用は違うということかも。あるいは、高級品という訳ではなく、こちらが渡来した元祖の笛で、それを真似た簡素品が篠笛ということか。

 なにせ、笛の名前は龍笛。特別扱いされていることがわかる。
 確かに、それだけのことがある素晴らしい笛も少なくない。眺めているだけで、枕草子の時代に奏でられた笛の音が聞こえてきそうな気がしたりする。

 “龍”の声に似ているという理屈がある筈もないから、霊的な音色がする根拠は桜樺が使われているということか。(見ただけでは、わからない。)あるいは、中国でそのように言われていただけかも。
 それなら、桜の木をくりぬく笛があってもよさそうに思うが、それは許せぬという感覚だろうか。木製フルートは黄楊や黒檀製で、同様なものが日本で作れなかったとは思えない。縦笛のブロックフルーテは木ををくりぬいたもので、材も好き好き。その手の楽器は日本には痕跡も残っていない。葦(ヨシ、アシ)製の笛が使われたようだが、縦笛も敬遠されている。例外は、中国伝来にもかかわらず、中国では消滅してしまった尺八。竹を切っただけの楽器だ。
 日本では、笛の材料には縁起が良い竹を使うという点には、かなりのこだわりがありそうだ。
 相撲を純粋なスポーツ化できないのと同じように、竹笛演奏には古代からの信仰と絡んでいそうだ。

 それはさておき、中国の笛を見ておこう。現在使われているタイプは指孔の数は6。穴が多いものもあるが、それは半音を出せる特殊用途か調律用だろう。位置がおかしいのは装飾用だと思われる。しかし、なんといっても独特なのは、共鳴膜用の孔の存在。ここまで違うと、龍笛の面影など皆無と言ってよいだろう。
 装飾の仕方も龍笛とは違うし、筒も長いものが多く、全体イメージでも全く別物。
 この中国の笛だが、名前は笛子。明・清時代の笛だ。中国では、新しいタイプが登場すると、それ以前の楽器を代替するのである。100%ではないと思うが、滅多に使われなくなるのが普通。
[笛子(dizi)だが, 江南は曲笛(qudi), 北方では[木偏に邦]笛(bangdi)と呼ばれるらしい。音の高さや音色が異なるのだろうか。]
 日本は正反対。龍笛は、雅楽のうちの“唐楽”に使うのだから、唐時代の楽器をほぼそのままという可能性さえある。代替などもってのほかという精神。融合させるならよいが、伝統を消し去るのは避けたい訳だ。

 しかも、海外文化が好き。明の時代に笛子が渡来していない筈はないから、こちらも京で一世風靡したに違いない。にもかかわらず残っていないのは、日清戦争が発生し、敵国文化ということで消しさったということか。(沖縄は該当しないと思う。)
 それでは一掃したと言えるか。小生はこの文化も残したと見た。
 なにかと言えば、プラスチック製の教材笛。西洋のドレミ音階だが、明の笛と違って、日本の笛はこの音程には合わない。つまり、共鳴膜を無くしたプラスチック製笛子ということ。
 ただ、面白いのは、ベーム式フルートのリッププレートがついていること。これは、金属製にしたので、木製管の厚みを感じさせるように作ったと言われているもの。明の笛と現代フルートの融合品を狙ったとしか思えまい。

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