表紙 目次 | ■■■ 日本語の語彙を探る [2015.3.22] ■■■ 蛇という蟲 蛇は蟲[虫]である。 そして、真の虫とはマムシ。 ヘビとして扱われていたか否かははっきりしていないが、まさか別ジャンルということもあるまい。 そのヘビだが、寛政の頃の書に虵蛻皮 倍美乃毛奴介と記載されているから、蛇ではなく虵という文字が使われていたようである。 「虫+它=蛇」だが、它は毒蛇の象形らしいから、虵は代替文字なのだろう。 文字はわかるが、ヘビとはどういう言葉なのだろうか。諸説あるようだが、勝手に想像してみたい。 ただ、用語としては、ヘビが一番古い言葉なのかはなんとも。 枕草子はご存知クチナワだし、素戔嗚命のお話に登場するのはヲロチだから。 そうそう、落語だとたいていは、ウワバミである。 常識的には、クチナワは口縄だろう。いかにも、蛇信仰を切り捨てた感じだから、仏教信仰が主流になった時代の言い方だと思われる。多分、漢字で朽縄と書いて揶揄したに違いない。 ただ、その姿勢は良くないということで、ヲロチという古い言葉を捨てなかったのでは。漢字では、遠呂智とか尾呂智という比較的まともな印象の文字が使われているからだが。古事記の記載は、どうみても山から流れる暴れ川の主とされていた蛇信仰を切り捨てた逸話。一方、蛇ということでは、三輪山のご神体が戸の鍵穴から抜け出たとされているから、いかにも蛇信仰が存在していたことを暗示していそう。 と言うことは、ヲロチとは「丘(オ)の霊(チ)」と見なすのが妥当だろう。雷の「イカヅ霊(チ)」や、鮫龍を指す「水霊(ミズチ)」と同じ扱いと見てよいだろう。 つまり、ヲロチは、ヘビという生物概念の言葉ではなく、抽象概念ということになる。 ウワバミだが、それはもっぱら大蛇を指しているから、上(ウヘ)蛇(ハミ)だろう。 太古の日本語は、濁音は滅多に使わなかった筈で、現代語のヘビは、古代ではヘミだったということでもある。 それに、Hemi→Hebiはいかにもありそうだし。 しかも、eの母音を欠く琉球語ではHabuだから、Hami→Habu→Hebiという過程を経たのではないかと想像される。 Hamiは"食み"ということだろうから、蟲の概念が入ってからの呼び方としてはハミムシが正式だったかも。 ハミを反鼻から来たという説があるようだが、こじ付けだと思う。と言うのは、マムシの文字は蝮だからだ。あくまでも腹が特徴であり、鼻ではないから。 注意を要するのは、大陸はすべて蝮だったという訳でもなさそうな点。大陸といってもいささか広い訳で、古代には、色々な文字(虺,䖠,𧈰,𧉇)が当てられていたようなのだ。地域毎に特徴の取り上げ方が違っていたのだろう。 ただ、本土の毒蛇としては、マムシもいるが、ヤマカガシ[山楝蛇,蠎/虎斑頸槽蛇]も。八俣遠呂智を生物としての蛇ジャンルと見なしているのは、目が赤加賀智のようとされているからだ。これはどう見ても生物のヤマカガシだから。日本に大蛇は棲息していないので、ウワバミとは上(ウヘ)蛇(ハミ)を指しているのかも。 本土の最大のヘビは、アオダイショウ[青大将/日本錦蛇]。富国強兵の時代到来で青大蛇を言い換えた風情紛々。 蛇族は、○○ヘミと呼んでいたのだろうから、もともとはアオヘミだったろう。 ただ、特殊な蛇だけは別名。そう、ジムグリ[地潜]。 尚、先島にしかいない"サキシマ"スジオ[筋尾]は尾の正中線に明色の縦縞からくる命名。大陸では、眼後部の黒色筋模様が気になるらしく、「黒眉」錦蛇と呼ばれる。先島は大陸文化濃厚な筈だが、蛇を口縄的に見ているから全体像に目が行くのだろう。 最後に、現代の半公定の命名を示しておこう。 大陸南部に棲息する無毒の大蛇は誰でもが知る錦蛇。中国では蟒となる。日本ではお目にかからぬ文字である。日本には大蛇はいないので、それこそがウワバミやヲロチだと見なされるのは致し方ないが、錦蛇と呼ぶセンスはどうかネ。中国での名称、錦蛇とは、日本の普通に見られる蛇全般を指すからだ。こんなことをして何が嬉しいのかさっぱりわからぬ。 ┌─盲蛇類 ┤↓真蛇類 ├─○ │┼└──並蛇/游蛇 │┼ ┼├鎖蛇/蝰蛇・・・日本蝮,波布が入る. │┼┼┼┼└滑羅/錦蛇・・・臭蛇,青大将,地潜,縞蛇,筋滑羅が入る. └─昔蛇類 ┼┼└──錦蛇/蚺(蛇)・・・日本には棲息していない。 (参考) 深江輔仁「本草和名 上/下」1796 @国会図書館デジタルコレクション 本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX> 表紙> (C) 2013-2015 RandDManagement.com |