表紙 目次 | ■■■ 日本語の語彙を探る [2015.3.29] ■■■ 歌字倣-昆虫偏 往来物「小野篁歌字尽」に倣い、昆虫文字で遊んでみました。駄作にもならず、江戸のテキストの質の高さに感じ入った次第。 蝶・・・派手な虫 終日(ひねもす) 平り平り哉 枼は、木に枝3本だが、葉や鰈[カレイ]で想像がつくように、平な形状を示すようだ。木偏の楪は"譲り葉"。チョウは音読みで、訓読みは無い。「ひらり」はどうか。 蛾・・・峨眉誇り 跳んで火にいる パンク嬢 Lady Gagaは漢字ではどう書くのだろう。もしかしたら蛾蛾かと大いに期待したが違った。台湾では女神卡卡。大陸は難しい文字嘎のガ。ガガ小姐あるいは、雷蒂(帝)ガガ。ガの特徴は羽状触覚で、なんとなくガガ嬢に似た感じがするし、自我の強そうなお方だから、日本漢字なら我々が良さげ。その我だが、ギザギザ感表記そのものらしい。訓は勿論のこと、火虫[ヒムシ]。 蚊・・・世の中に 蚊ほどうるさき ものはなし でんぐでんぐと 公園行けず カとはヒトの天敵なり。音読みは当然ながらブ〜ン。刺されて即気付くことは無いが、すぐに痒くなるから、訓は「かゅ」である。 その子、棒振[ボウフラ]はそのままズバリ。漢字表記だと孑孑、虷、蜎。大陸における俗称は面白い。跟頭蟲、方學蟲。カカトを上にして蠢いている姿を良くとらえている。 棒と言えば、アメンボが本家。これは"坊"ではなかろう。そもそも、"飴"が登場するなどあり得ない。水面棒という意味以外に考えられまい。されば、ボウフラの元の名称は水中棒だった筈。 蟻・・・アリん子よ そこのけそこのけ ヒト様通る 葉切蟻の農業従事者としての正義感には脱帽。豪雨で路が壊れると、収穫員、荷運び役、斥候、歩兵、すべてが協力して一気に補修。 ただならぬ数が歩くから「あるき」と呼んだに違いあるまい。 蝗・・・皇軍の 虫を陳列 兵馬俑 日本列島で稲子大群発生との話は耳にしたことなし。蝗という文字は当たっていないのでは。 虻,蝱・・・気配なく やって来たのは 愛の文字 Pat Booneの歌声にはとんとご無沙汰。羽音は聞こえないからこその"亡"を組み込んだ文字になっているが、訓では、音を出す"ぶ〜ん"虫として扱っている。おかしなことではない。情感的には「あっト、ブーン」と、突然、その存在に気付くわけだから。 蜂・・・「逢びき」は ハニームードに 針筵 1945年の映画。夆は尖った先端で出会う状況を示す漢字らしい。出逢いはたいていは危険なかほりが漂うもの。場合によっては、命を捨てる覚悟が必要となる。針の一刺しが絶命を招く訳だ。 天邪鬼的に考えれば、蓮の実パッケージ部分を指す言葉ハチスから、ハチという言葉が生まれたとの逆解釈も可能。蜂巣に似ている形状ということで命名された訳ではなく、その逆と考える訳だ。宗教的に極めて重視されていた清らかな蓮花から生まれ、祭祀品としても使用していたのに、敢えて虫の巣に擬えて名付けたとの見方は強引すぎまいか。ハチスから巣[ス]を取って、"八"虫と呼ぶことにしたという見方もできるのでは。 螽,螽蟖,蛬・・・冬寒に 折れ足かかえて 大人しや グリム童話はアリとセミだが、翻訳バージョンはアリとキリギリス。蝉も螽も鳴く虫なので、バイオリニストとして起用するなら優劣つけがたいが、足を怪我するとか、衰弱していくという様子を考えると、翻訳者の選択は秀逸。 その音色だが、小生にはギリギリス〜に聞こえる。 尚、蝉のイメージとしてはこんな句があるそうだ。・・・「虫偏に、単(ひとえ)と涼し蝉の声」 蜀山人[@blog雨ニモマケズ2005年9月5日セミの声] 蛍,螢・・・火が消えた 提灯の如き 西瓜皮 焚火か、はたまた炬火[タイマツ]2本を掲げた様子か、わからないが、灯火の虫と見るのは自然なこと。お盆の情感も籠る「火垂る」だが、季節に関係無い単なる提灯的な火の意味だと思う。現代的には、ホロコーストを狙う焼夷弾の火焔とされる訳だが。 蚕.蠶・・・気配消し 潜業主婦の 一人酒 神から生まれた、御カイコ様だから、漢字も天の虫とされているのだろうとずっと思い込んでいた。よくよく見ると、"先先日[朁]"の略字であり、"天"とは何の関係も無い。桑の葉間から陽光を潜望している姿が、常態ということか。倭では、そんな気分は生まれず、もっぱら、「飼い子」として愛でたのだろう。 本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX> 表紙> (C) 2013-2015 RandDManagement.com |