表紙 目次 | ■■■ 日本の基底文化を考える [2016.1.19] ■■■ 日本の色彩感覚の原点(茶と鼠) 日本の色彩感覚の凄さを知りたいなら、江戸流行色の「四十八茶百鼠」を眺めるに限る。 実際の色数はそれほど多くはないが、象徴的な数字にしたとの解説も見かけるが素人が一寸眺めるとその程度あってもおかしくなさそう。 華美に当たる色の使用が禁止された結果だが、茶道や華道は勿論のこと、俳句や歌舞伎のような芸道が、町民文化として開花したため、それらの影響下で衣装にも力が注がれたということだろう。 その根幹は、「侘寂」色調。代表的な名称としては、利休茶_で、コンポーネンツは以下のような感じか。 ■松葉 ■土 ■石 ■杮[こけら]葺 ■生壁 ■下地窓の煤竹 ■天井の杉野根板 ■畳 ■炉灰 ■錆茶釜 ■黒楽茶碗 ■抹茶 全般的には、派手な原色や、永久性を感じさせる貴石色とはえらく離れており、自然界にみられる色褪せたような落ちついた色彩だらけと言えよう。 それにしても、微妙な色の違いへの拘りの凄さには舌を巻く。しかも、コレ、被支配層が作り出した文化とくる。と言って、そこに反権力的なパンク的要素は見受けられない。それ故、支配層もその文化を取り入れざるを得なくなる。そのような社会は、おそらく稀である。 【茶】 茶色_ 藍砥茶 古茶 卵茶 利休茶 黄茶 蘭茶 黄茶 猩々茶 桑色白茶 豆殻茶 薄茶 砺茶 渋茶 新斎茶 虎茶 昔唐茶 茶黄枯茶 凩茶 茶褐色 枯茶 鼠茶 小豆茶 栗金茶 栗梅茶 藍墨茶 白茶 黒茶 栗皮茶 紅海老茶 焦茶 黄枯茶 砺茶 宗伝唐茶 柿茶 柳茶 鶸茶 灰茶 璃寛茶 赤茶 江戸茶 岩井茶 枇杷茶 百入茶 海松茶 豆殻茶 枯茶 葡萄茶 海老茶 鴇殻茶 樺茶 栗皮茶 百塩茶 丁子茶 焦茶 丁子茶 黄唐茶 昆布茶 山吹茶 利休白茶 藍海松茶 御召茶 梅幸茶 黄海松茶 藍媚茶 仙斎茶 御納戸茶 湊茶 蘭茶 光悦茶 江戸茶 路考茶 団十郎茶 芝翫茶 璃寛茶 利休茶 媚茶 鶯茶 千歳茶 唐茶 鳶茶 宗伝唐茶 金茶 雀茶 桃山茶 梅茶 遠州茶 信楽茶 納戸茶 抹茶 ・・・ 【鼠】 鼠色_ 素鼠_ 浪花鼠 想思鼠 京鼠 水色鼠 加茂川鼠 黄鼠 遠州鼠 薩摩鼠 生壁鼠 千草鼠 丼鼠 青磁鼠 銀鼠 絹鼠 白梅鼠 茶鼠 薄雲鼠 紅消鼠 紫鼠 桔梗鼠 鳩羽鼠 薄鼠 紺鼠 藤鼠 牡丹鼠 暁鼠 薄梅鼠 湊鼠 鴇鼠 櫻鼠 紅消鼠 柳鼠 白鼠 藍鼠 小町鼠 江戸鼠 深川鼠 銀鼠 梅鼠 葡萄鼠 錆鼠 利休鼠 素鼠 都鼠 小豆鼠 紅鼠 臙脂鼠 嵯峨鼠 島松鼠 呉竹鼠 源氏鼠 濃鼠 薄鼠 ・・・ 茶色は、英語ではBrownだが、抽象的な色概念である。単調かつ地味な色とみられているようで、褪せた「色」との印象も与えたりするようだ。おそらく、古代の衣類染色材料としての、暗い樹皮や肥沃な土をを彷彿させる色なのだろう。どうも、貧困イメージがついてまわるらしく、好まれないようだ。 大陸の漢字では、褐(麻や葛の繊維の衣)となる。古代は染色剤たる棕(棕櫚皮)だったとも。焦茶に近いと、現代的には珈琲色か。 一方、鼠色だが、灰色に近いが、それとは違うとされている。その指摘は重要である。どう見ても、無彩色ではなさそうだから。ただ、大火事だらけだった江戸では「灰色」など縁起でも無いということで代替役を果たしたので混同が生じているが。 。それはともかく、なんらかの色概念を感じさせる抽象的な色と化しているのはまちがいない。 これに対して、灰色の方は、具象的な「灰」の色としての表現にとどまっている可能性がある。グレーの翻訳語として、黒と白の中間色名とされてはいるものの、英語や大陸漢語のように、灰色以外の中間色用語が明瞭に定義されていないからである。それに、浅深あるいは、薄濃という当たり前の形容接頭語も、灰色だけは使おうとはしないし。・・・ 白/White□ -亮灰/Light gray■-銀灰/Silver gray■- 灰/Gray(or grey)■ -昏灰/Dim gray■-炭灰/Charcoal gray■-暗灰/Dark gray■- 黒/Black■ 「四十八茶百鼠」は近世の色彩感ではあるものの、こうした状況を眺めると、日本の色文化とは曖昧色好みであることがわかろう。派手な原色を実現する技術レベルに達していなかったというより、渡来のバター臭い文化へ傾倒しても心の底から馴染めまでにはなれなかったということでは。鎮護仏教の平城京には、莫高窟の石仏や壁面に合わせたような原色風景が創出されたようだが、結局のところ、長続きしなかった訳だし。 そんな気分に陥るのは、上記の茶や鼠を、果たして西洋の色概念と同列に扱ってよいものか疑問が湧くからでもある。情緒的用語を色名にしただけに映るからだ。色の定義には拘らない姿勢ありあり。いかにも、「言葉ありき」ではない社会の特質といった感じ。 おそらく、永久不変を意味しそうな色にはさっぱり生命感を覚えないのであろう。生き生きしているとは、遷ろう色があってしかるべきと考えるということ。 といって色褪せ衣類が好みではないが、西洋のように、色が変わらないことが最高とも考えないのだ。 (参照) 色名一覧 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%B2%E5%90%8D%E4%B8%80%E8%A6%A7 色の名前とweb色見本 http://irononamae.web.fc2.com/colorlist/index.html 本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX> 表紙> (C) 2016 RandDManagement.com |