[→本シリーズ−INDEX]

■■■ 日本の基底文化を考える [2018.5.29] ■■■
蜘蛛をこよなく愛した人々[5]

『今昔物語集』の蜘蛛譚に引き続いて、『古今著聞集』 巻第六管絃歌舞第七 [246]前筑前守兼俊試笙時,管中平蛛入喉事 橘成季 1254年」も取り上げておこう。

  「前筑前守兼俊 笙の試の時 管中の平蛛を喉に入るる事」
管絃演奏にあたっては、よくよく用心すべきとのお話。
笙の吹き手がいなかったため、名手とされていた前筑前守 源兼俊が宮中に召され、試験を受けることに。(実に名誉なことである。)
御物の伝説的鳳笙、真「さきえ(蚶気繪)」を賜ったが、その中に平蜘蛛が棲んでいた。
それに気付かず吹き始めてしまい、思いっきり息と共に吸い込んでしまった。むせてしまい、七転八倒。
天皇から並んでいた臣下まで揃って大笑い。
お蔭で昇殿の話は立ち消えに。・・・
管絃はよく/\用心あるべき事也。前筑前守兼俊殿上に笙吹なきによりて。昇殿を免さるべきよし沙汰有けり。まづ試有ける日。きさき笛を給ひてふかせられけるに。用心なくして吹出しける程に。管の中に平蛛の有けるが喉にのみ入られにけり。むせてはつきまどひける程に。主上羣臣も笑ひ給て腸を斷けり。おほきに嗚呼を表して。昇殿のさたもとゞまりにけり。
かゝるためしあれば事におきて能/\用心あるべき事也。なかにも御物のつねにもふかれざらんは。まづ小息にて心みるべき也。

(source) 黒板勝美校訂「国史大系 第15巻 古今著聞集(橘成季)」経済雑誌社 1897-1901年@NDL近代デジタルコレクション [#159-60]

いかにもありそうなこと。
演奏家にとっては笑い話ではなかろう。

この扱いからみて、蜘蛛と一緒に生活することに、貴族階層の人々にはなんの違和感もなかったことがわかる。御物に棲みついていても、OKなのだから。竹や木を喰う虫から御物をガードする役と見なされていたのかも。

  本シリーズ−INDEX> 超日本語大研究−INDEX>  表紙>
 (C) 2018 RandDManagement.com