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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.8.1] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[22]
−味なヤツ−

鴨系の雄は派手な姿だらけ。"巴鴨"はさらなり。面には、緑と淡黄に黒枠の巴形紋。
ところが、古代名は"味"。鯵と違って、余りに直接的な表現。
鴨葱は定番の美食鍋だが、鴨肉のなかでは絶品なのだろう。それなら"小鴨"が選ばれそうにも思うが。

中国名は、大極鴨かと思いきや、"花臉鴨"。"巴"模様は日本的感覚なのだろう。"味"でもよかった気がするが、仏教国であるにもかかわらず、そのような呼び名では下品極まりないということで代替名を急遽用意したのカモ。
もっとも、"縞味"という名称は今も使われ続けており、"巴"柄が一流行した結果か。こちらは色合いは比較的地味で、縞ゝな訳でもなく、顔に太い白筋があるだけ。大陸では"白眉鴨"と呼ばれる。

"巴鴨"の繁殖中心地はバイカル湖辺りと言われているから、台湾辺りが避寒地南限かと思いきや、海南島にも訪れるらしい。珍客扱いだとは思うが。

体躯は小さいが、気力旺盛な旅鳥である。
"縞味"の場合はパプアニューギニアまで足を伸ばすらしい。日本列島は経由地として利用されているだけか。

「萬葉集」では当然ながら食い物で登場することはない。派手な姿が気にいられていたらしく、なかなかの人気。

鴨君足人が香具山の歌一首、また短歌 [巻三#257]
天降りつく 天の香具山霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて 桜花 木晩茂に 沖辺には 妻呼ばひ 辺つ辺に あぢ群騒き ももしきの 大宮人の 退り出て 遊ぶ船には 楫棹も なくて寂しも 榜ぐ人なしに
寄物陳思 [巻十一#2751]
あぢの住む 須佐の入江の 荒礒松 吾を待つ子らは ただ独りのみ
冬十月、難波の宮に幸せる時、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌 [巻六#928]
押し照る 難波の国は・・・沖つ鳥 経の原に・・・ ("味経"は地名と考えるしかない.)
玉に寄す [巻七#1299]
あぢ群の むれよる海に 舟浮けて 白玉採ると 人に知らゆな
岳本天皇のみよみませる御製一首、また短歌  反歌 [巻四#486]
山の端に あぢ群騒き 行くなれど 我吾れは寂しゑ 君にしあらねば
明日香皇女の城上の殯宮の時、柿本朝臣人麻呂がよめる歌一首、また短歌 [巻二#196
飛ぶ鳥の 明日香の川の・・・あぢさはふ 目言も絶えぬ しそこをしも・・・
辛荷の島を過ぐる時、山部宿禰赤人がよめる歌一首、また短歌 [巻六#942]
あぢさはふ 妹が目離れて 敷細の 枕も巻かず・・・
正述心緒 [巻一二#2934]
うまさはふ(あぢさはふ) 目には飽けども たづさはり 言問はなくも 苦しかりけり
正述心緒 [巻十一#2555]
朝戸遣を 早くな開けそ うまさはふ(あぢさはふ) 愛づらし君が 今宵来ませる
弟の死去れるを哀しみてよめる歌一首、また短歌 [巻九#1804]
・・・春鳥の 哭のみ泣きつつ 味さはふ・・・
 [巻十四#3547]
あぢの棲む 須沙の入江の 隠沼の あな息づかし 見ず久にして
或ル本ノ歌ニ云ク [巻三#260]
天降りつく 神の香具山・・・池波立ち 辺つ方は あぢ群騒き 沖辺には 妻呼ばひ ももしきの・・・
私拙懐を陳ぶる一首、また短歌 [巻二十#4360]
・・・夕潮に 棹さし下り あぢ群の 騒き競ひて 浜に出でて・・・
布勢水海に遊覧べる賦一首、また短歌 此海ハ射水郡ノ舊江村ニ在リ [巻十七#3991]
・・・渚には あぢ群騒き・・・

(Wikisource 万葉集 鹿持雅澄訓訂 1891年)
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