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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.8.11] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[32]
−春告鳥は土着−

鴬色はよく知られているが、それは目白の体色である。鴬は木々に隠れ、滅多にヒトには姿を見せないので、その色をわかっている人はほとんどいない。もっぱら通る声のみ。
"梅に鴬"も常識であるが、ドグマとして確立させたのは「古今和歌集」だろう。
春や時 花や遅きと 聴きわかむ 鴬だにも 啼かずもあるかな 藤原言直[#10]

梅の木は渡来種。春告草いうことで、理念的に春告鳥の鴬と組み合わせただけ。
もともと、竹林のように隠れ易い方を好む鳥で、目白のように花の蜜に目が無い訳でもないから、わざわざ梅の花を選んでやって来るとは考えにくい。「萬葉集」では必ずしも"梅に鴬"を詠もうとはしていないように見えるし。
十二月の十八日、大監物三形王の宅にて、宴する歌三首 右の一首は、右中弁大伴宿禰家持。 [巻二十#4490]
あら玉の 年往き還り 春立たば まづ我が屋戸に 鴬は鳴け
六日、内庭に仮に樹木き植ゑて、林帷と作て、肆宴きこしめす歌一首 右の一首は、右中弁大伴宿禰家持。未奏。 [巻二十#4495]
打ち靡く 春ともしるく 鴬は 植木の木間を 鳴き渡らなむ

もっとも、ほんの一時期のみ、雌を探すために隠れずに高い所で通る声で鳴く。周囲に梅の木しかなければ必ず止まることにはなる。

鳴き声が心に染み入るということで選ばれる鴬だが、日本固有種であり、対応する文字が大陸に存在する筈がない。
  鴬ウグイスCettiidae@日本⇒中国語【日本樹鴬
と言っても、"鴬が木の上でホーホケキョと囀っている。"を中国語に訳す時に、"日本樹鴬"を使うことなどあり得ない訳で。どうなるかと言えば、辞典によれば、・・・
 有黄鴬兒在樹上叫着。
このアナロジーでおわかりのように、国字化するほどのことはないから、よくよく考えて類似の鳥を選んだにすぎない。
  高麗鴬コウライウグイスOriolidae@大陸⇒中国語【黒枕黄鸝 or 黄鳥(鴬)
しかしながら、これが近縁ならどうということはないが、生物分類上は全く異なる一族。当然、鳴き声も異なる。しかし、大陸ではそれなりにシミジミとする手の声だったのだろう。鋭い選択と言ってよかろう。

ご存知、「枕草子」"鳥は"で一番力が入っているのがウグイスとホトトギス。そして、鴬の漢詩などにも素晴らしいものがあるとしているが、これ曲者と言うこと。

但し、正直に、宮中に10年お仕えしたが、鴬はやってこなかったと告白している。竹や紅梅があってもと。隠れる場所が少ない場所には雌はやって来ないから、雄が梅の木に止まらないのは当たり前。
一方、粗末な家のくだらん梅の木には留まると記載しているが、そりゃそうだ。普段は隠れているタイプで、その姿を見るには木の下から覗く必要があるような鳥である。「酉陽雑俎」の著者のように、観察眼を磨かない限り習性はそう簡単にわかるものではない。
そうそう、「虫喰い」と呼び換えることを憤慨しているが、コレ、多分、姿が瓜の親類筋(仙台虫喰センダイムシクイ)。鳴き声が全く違うから、名前も異なって当然。でも、そんなことを知ろうと知るまいが、気にせず臆せず、見たこと聞いたことを自分のセンスで語ってしまうことこそ、清少納言の魅力である。
ついでながら、ホトトギスは夏になると鳴かなくなることでガッカリしているようだが、梅雨に入ったからである。

そうそう"うぐいす"の語源だが、皆が鳴き声を楽しみにしていたせいもあって、擬声語との説を支持する人が多いようだ。「ウーグイ」鳥(ス)ということになる。出典は調べていないが、雅語音声学舎が指摘したのだろう。素人からすれば、いくらなんでもこの音は、という印象だが。語尾がメ(集)でなくス(巣)だからそうかもという気にならないでもないが。
そもそも、声に当て字をつけたくなるのは、擬声名称でなかったからではないか。危険を察する声から「人来鳥」としたりと工夫していた筈なのだ。
誹諧歌 題知らず 詠み人知らず [「古今和歌集」#1011]
梅の花 見にこそ来つれ 鴬の 人来人来と いとひしも居る
"梅と鴬"だらけのブーム的風潮を馬鹿にしているとしか思えない歌を収載しているのが秀逸。つきつめれば、「法、法華経」もどんなものかネ〜ということにもなろう。

そういう点で、新井白石が"生"+"巣"と見たのはわかる気がする。古代人が、山奥からやって来る、と知らない訳がないのだから。
その辺りを突いた鋭い歌もある。
 西行法師[「山家衆」#992]
鴬は 田舎の谷の 巣なれども だびたる音をば 鳴かぬなりけり
「鴬」の本字「鶯」は、輝かしい鳥であることを示している。つまり、この鳥は、本来的には、皆様方が賤しいとする山里棲みの鳥なのですゾ、とご注意申し上げていることになる。もちろん、その鳴き声は都も田舎もなんら変わらない訳だが、都からすれば田舎の"だび声"と解釈されるのでしょうかネ、と。出家した自由人とはいえ、少々危ない表現である。

---梅の木とは異なるシーンに鴬が登場する「萬葉集」の歌---
《山木立》
[巻六#1057]
鹿背の山 木立を繁み 朝さらず 来鳴き響もす 鴬の声
《竹の林》
十一日、大雪落積もれること、尺有二寸。因拙懐を述ぶる歌三首 [巻十九#4286]
御苑生の 竹の林に 鴬は しば鳴きにし を雪は降りつつ
《山野》
鳥を詠める [巻十#1824]
冬こもり 春さり来らし あしひきの 山にも野にも 鴬鳴くも
《野》
鳥を詠める [巻十#1825]
むらさきの 根延ふ横野の 春野には 君を懸けつつ 鴬鳴くも
《萩》
山部宿禰赤人が歌一首 [巻八#1431]
百済野の 萩の古枝に 春待つと 来居し鴬 鳴きにけむかも
《柳》
鳥を詠める [巻十#1819]
打ち靡く 春立ちぬらし 我が門の 柳の末に 鴬鳴きつ
《柳》
鳥を詠める [巻十#1821]
春霞 流るるなべに 青柳の 枝くひ持ちて 鴬鳴くも
《柳》
柳を詠める [巻十#1850]
朝な朝さな 吾が見る柳 鴬の 来居て鳴くべく 森に早なれ
《卯の花》
花に寄す [巻十#1988]
鴬の 通ふ垣根の 卯の花の 憂きことあれや 君が来まさぬ
《野辺》
鳥を詠める 旋頭歌 [巻十#1888]
白雪の 降り敷く冬は 過ぎにけらしも 春霞 たなびく野辺の 鴬鳴きぬ
《春日野》
春の相聞 [巻十#1890]
春日野に 鳴く鴬の 泣き別れ 帰ります間も 思ほせ吾を
《春日山》
霞を詠める [巻十#1845]
鴬の 春になるらし 春日山 霞たなびく 夜目に見れども
《春の野》
二十三日、興に依けてよめる歌二首 [巻十九#4290]
春の野に 霞たなびき うら悲し この夕影に 鴬鳴くも
《春山》
春の相聞 [巻十#1892]
春山の 霧に惑へる 鴬も 吾にまさりて 物思はめや
《山の辺》(長歌)
四年丁卯春正月、諸王諸臣子等に勅して、授刀寮に散禁めたまへる時によめる歌一首、また短歌 [巻六#948]
ま葛延ふ 春日の山は 打ち靡く 春さりゆくと 山の辺に 霞たな引き 高圓に 鴬鳴きぬ 物部の 八十伴男は 雁が音の・・・千鳥鳴く その佐保川に・・・
《木末が下》(長歌)
雑歌是中長歌十六首 [巻十三#3221]
冬こもり 春さり来れば 朝には 白露置き 霞棚引く 泊瀬のや 木末が下に 鴬鳴くも
《野》(長歌)
[巻十七#3969]
大君の 任のまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し・・・春の野の 茂み飛び漏く 鴬の 声だに聞かず・・・

---梅は登場しないが、鴬が登場する「萬葉集」の歌---
[巻六#1012]
春されば 撓りに撓り 鴬の 鳴く吾が山斎そ 止まず通はせ
大伴宿禰家持が鴬の歌一首 [巻八#1441]
打ち霧らし 雪は降りつつ しかすがに 吾宅の苑に 鴬鳴くも
丹比真人乙麻呂が歌一首 [巻八#1443]
霞立つ 野の上の方に 行きしかば 鴬鳴きつ 春になるらし
鳥を詠める [巻十#1826]
春されば 妻を求むと 鴬の 木末を伝ひ 鳴きつつもとな
鳥を詠める [巻十#1829]
梓弓 春山近く 家居らし 継ぎて聞くらむ 鴬の声
雪を詠める [巻十#1837]
山の際に 鴬鳴きて 打ち靡く 春と思へど 雪降りしきぬ
問答巻十#1935]
春されば まづ鳴く鳥の 鴬の 言先立てし 君をし待たむ
山部宿禰赤人が春鴬を詠める歌一首 [巻十七#3915]
足引の 山谷越えて 野づかさに 今は鳴くらむ 鴬の声
  右ハ年月所処、詳審カニスルコトヲ得ズ。但聞キシ時ノ随ニ茲ニ記載ス
 [巻十七#3941]
鴬の 鳴くくら谷に 打ち嵌めて 焼けはしぬとも 君をし待たむ
天平二十年二月二十九日、大伴宿禰家持。 [巻十七#3966]
鴬の 鳴き散らすらむ 春の花 いつしか君と 手折り挿頭さむ
天平二十年二月二十九日、沽洗の二日、掾大伴宿禰池主。 [巻十七#3968]
鴬の 来鳴く山吹 うたがたも 君が手触れず 花散らめやも
[巻十七#3971: 山吹の 茂み飛び漏く 鴬の 声を聞くらむ 君は羨しも
[巻十七#4030: 鴬は 今は鳴かむと 片待てば 霞たな引き 月は経につつ
右の一首は、即ち鴬の哢くを聞きてよめる。大伴宿禰家持。 [巻二十#4445]
鴬の 声は過ぎぬと 思へども 染みにし心 なほ恋ひにけり
十二月の十八日、大監物三形王の宅にて、宴する歌三首 右の一首は、主人三形王。 [巻二十#4488]
み雪降る 冬は今日のみ 鴬の 鳴かむ春へは 明日にしあるらし
(長歌)[巻六#1053]
吾が大王 神の命の 高知らす・・・鴬の 来鳴く春へは・・・

---霍公鳥と鴬が登場する「萬葉集」の長歌---
霍公鳥を詠める歌一首、また短歌[巻九#1755]
鴬の 卵の中に 霍公鳥 独り生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺よ・・・
霍公鳥また時の花を詠める歌一首、また短歌[巻十九#4166]
時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ 耳に聞き・・・木晩の 四月し立てば 夜隠りに 鳴く霍公鳥 古よ 語り継ぎつる 鴬の 現し真子かも・・・

---梅と鴬が登場する「萬葉集」の歌---
少監阿氏奥島 [巻五#824]
梅の花 散らまく惜しみ 我が園の 竹の林に 鴬鳴くも
少典山氏若麻呂 [巻五#827]
春されば 木末隠りて 鴬ぞ 鳴きて去ぬなる 梅が下枝に
算師志氏大道 [巻五#837]
春の野に 鳴くや鴬 なつけむと 我が家への園に 梅が花咲く
大隅目榎氏鉢麻呂 [巻五#838]
梅の花 散り乱ひたる 岡びには 鴬鳴くも 春かたまけて
對馬目高氏老 [巻五#841]
鴬の 音聞くなべに 梅の花 我ぎ家の園に 咲きて知る見ゆ
薩摩目高氏海人 [巻五#842]
我が屋戸の梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ
筑前拯門氏石足 [巻五#845]
鴬の 待ちかてにせし 梅が花 散らずありこそ 思ふ子が為
鳥を詠める [巻十#1820]
梅の花 咲ける岡辺に 家居れば 乏しくもあらぬ 鴬の声
雪を詠める [巻十#1840]
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る
花を詠める [巻十#1854]
鴬の 木伝ふ梅の うつろへば 桜の花の 時かたまけぬ
花を詠める [巻十#1873]
いつしかも この夜の明けむ 鴬の 木伝ひ散らす 梅の花見む
右の一首は、大和国守藤原永手朝臣。 [巻十八#4277]
袖垂れて いざ我が苑に 鴬の 木伝ひ散らす 梅の花見に
十一日、大雪落積もれること、尺有二寸。因拙懐を述ぶる歌三首 [巻十九#4287]
鴬の 鳴きし垣内に にほへりし 梅この雪に うつろふらむか

(Wikisource 万葉集 鹿持雅澄訓訂 1891年)
[→鳥類分類で見る日本の鳥と古代名]

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