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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.8.17] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[38]
−青と橙色の鳴鳥−

鶯の鳴き声が愛されてきたのは、季節感もさることながら、わざわざヒトの棲む場所にやってきて通る声で鳴くことが大きかろう。
この他に鳴き声が素晴らしい小鳥として、2種類挙げることが通例化しており、三鳴鳥として並び称されている。

間違った評価とは思わないが、小生は、飼い鳥の宣伝用語ではないかと思う。鶯と他の違いがあまりにも鮮烈すぎるから。

鶯は目白と違って、鶯色が映える訳でもなく至って地味な姿。一方、他の2種は、赤とはいえないが橙色と、青色。色こそが選ばれた理由と違うか。
全身鮮やかな原色といった熱帯系の鳥とは全く違う姿だが、日本人的な色調感覚からすれば、なかなか素敵だからだ。しかも、どちらも山鳥と言うか林禽。鶯とは違って、都住いの人々がその声を耳にすることは極めて稀だったのは間違いない。
と言うことで、青のタイプ、大瑠璃オオルリの仲間を眺めてみたい。
その名称は鶲/火焚ヒタキ。燃える炎のイメージとは無縁で、その声が火打ち石を打つ音に似ているから名付けられたと言われている。確かに、林のなかで目立つというか耳に障る。縄張り主張にしては、強烈すぎるきらい。

つまり、この一族は林のなかで大きな鳴き声を挙げるといことが一大特徴。林歩きに慣れてくると、声の主がどこにいるのかだいたいわかるし、特段隠れようという気もないから見通しがきけば姿を目にすることも難しくはない。

そのなかで、珍しくも"美しい囀り"と感じさせるのが大瑠璃オオルリということ。

この鳥は古代からそう呼ばれていたのかは定かではないが、小瑠璃コルリは"ちはひるり"とされていたようだ。
意味は定かではないが、鳴き声ではなく、なかなかの飛び上手な青い小鳥として注目されたのではなかろうか。
飛ぶ姿に感心させられた理由は自明。虫の空中捕虫が得意ということではあるが、その後、枝に止まって、"ドウダ"と言わんばかりに姿勢を正し、自慢げに獲物を見せつける習性があるからだ。機敏に動くためか、脚や尾が比較的短か目なのでその姿が印象的なのである。

三鳴鳥の残りの1種も類縁である。こちらは、胸色が橙色に近い、駒鳥コマドリ。鳴き声がそんな風ということで。「ヒヒーン」が名声を博すというのはしっくりこないが、目立つという点ではイイ勝負なのは確か。
こちらは胸部が橙色なので目立つ。それよりは、頭部が赤毛的という点がイメージ的にはしっくり来る。小生は体躯全体が若馬ということではないかと。

これらの鳴鳥を含む一族だが、概して眼が大きい。猫でもあるまいに、口のまわりには口ひげのような剛毛羽があったりする。(翁を漢字形成に登用した由来だろう。)嘴は尖って見えるから蚯蚓食いと見てしまうが、図鑑解説によれば、扁平で幅広い形状になっている鳥らしい。ソリャ、飛ぶ虫を攫み易い筈だ。

このような生活なら、体色はモノトーン、あるいは灰褐色か暗緑色が望ましいと思うのだが、瑠璃色で自己の存在をアピールしたい異端も登場してくるのが面白い。
尤も、本格的な異端は、野鶲ノビタキのように林の生活から、草原に移って来て成功を収めたご一家だろう。

只、異端と言いだすと実はキリがない可能性もある。余り名前が通っていないから、小グループの鳥と勘違いし易いが、300種以上と半端な数ではない。新しい環境に入り込むのがえらくお好きな体質とお見受けした。好みの樹木群もそれぞれ異なるだろうし。(そこらに棲む虫が違ってくるから、虫を選り好みしているだけ。)
それは図鑑を見ていて思ったのではなく、林に棲んではいるものの民家の庭先にもやってくる連中も少なくないからだ。(殺虫剤産婦を止めれば、都心の公園棲息種が生まれかねまい。)
寒いから、隠れてでも里に下りてこようとの連中の意図とは違うようで、虫食だから、好奇心から遊覧に来ているとしか思えない。
ヒトの方からこの姿を見かけると、矢鱈に人なつこい鳥だネとなる。
その辺りの感覚を欠くと以下はちっとも面白くない歌である。
寂蓮法師[「夫木和歌抄」#12899]
思ひかね 柴をりくふる 山里を 猶寂しとや 鶲鳴く也
源師光[「正治初度百首」1200年#1797]
百敷に 住処定だめよ 鶲鳥 なれが宿りも 庭にみゆめり
  (ご注意:漢字化は誤っているかも知れません。)

上記で述べたように、以下は個人的な嗜好で並べたにすぎず、この他にかなり多くの種が知られていると考えた方がよい。
但し、林歩きなどほとんどしない人には無縁の話。
 《鶲/火焚》ひたき
  野鶲ノビタキ
  尉鶲/常鶲ジョウビタキ
  黄鶲/黄火焼キビタキ
  駒鳥コマドリ
  大瑠璃オオルリ
  小瑠璃コルリ
  瑠璃鶲ルリビタキ
  鮫鶲サメビタキ
  小鮫鶲コサメビタキ
  赤髭アカヒゲ
  磯鵯イソヒヨドリ…ヒヨドリとは無縁
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