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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.9.19] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[70]
−鳥居考 [神社の門]−

今、我々が見ている「鳥居」には、社殿無し時代の原型があり、それは2本の縦柱を立てて注連縄を賭け渡した結界だと思われるという話をした。

話がくどくなるが、その辺りの原初信仰を考えておかないと、頭の整理がつかなくなりかねないので、改めでまとめておこう。

自然に存在している精霊を敬う信仰は現在も続いている。老大木に注連縄を回したる、海のかなたから昇る太陽を岩の間に注連縄を張る地から拝むシーンに違和感を覚える人がいない社会なのだから。極めて古層の信仰に元ずく儀礼が保たれていると見てよかろう。
精霊世界と俗界の境界を明確にすることこそが、ヒトと精霊の交流儀礼の原初ということ。

しかし、注連縄を回すための掛ける場所が無い場合は、縦柱2本を立てるしかなかろう。
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つまり、鳥居は結界の標章という当たり前の話。
しかし、これはことの他重要。原初形態の"鳥居"はトリイと呼ばれていなかった可能性が高いからだ。鳥が止まる場所が無いことの方が多そうだし、精霊を神と見なせば、鳥をお遣いに遣わす必然性が感じられないからだ。

このことは、トリイに鳥が関係するとすれば、横木を渡した構造物になった時に始めてその呼び名が登場したと考えるのが自然だ。
そうなると、建築用語として「鳥居」という語彙が古くから使われていた鉦鼓がある以上、単にその呼称を使ったにすぎぬという説はまとも。逆はあり得ぬ訳で。

ただ、鳥とは全く関係なく、原初からトリイという呼称で、鳥居は当て字と考えることもできない訳ではないが、その可能性は極めて低い。

実際、鳥居とは建築構造物の一般名称で、儀礼用語ではないことが露わになっている文献が存在している。
「皇太神宮儀式帳」延暦二十三年(804年)@内宮儀式帖面@国文学研究資料館である。"伊勢太~宮禰宜謹解申儀式幷年中祭行事合二十三條"を記載したものだが、そこに建造すべき門の仕様が記載されている。
  「皇太神宮儀式帳」
 御門十一間
  
𦲭(=葺)御門三間 各長二丈五尺 弘一丈高九尺
  
於不𦲭御門八間 各長一丈三尺 高九尺

鳥居とは、屋根を葺かない門とされていることになろう。鳥居は、宗教儀礼用建造物の正式用語として登場せず、それにほぼ該当しそうな建造物は、建造物の一般語彙の"門"と呼ばれていることがわかる。

つまり、鳥居という用語誕生は、結界の標章が縦柱と注連縄から、横柱がある門に変ったことを意味する。
精霊崇拝の場合は、結界の先は禁足地あるいは直接的な対象物だった。一方、門とは、境という点だけは同じ意味があるが、主目的は境を通行するための建造物である。様相が違ってきたことがわかる。

しかし、物理的定義として、2本の縦柱に横木を掛け渡しただけの門とするだけだと、神ではなく、一般住居用と変らないものになってしまう。
実際、先秦時代の民歌に登場する門とはそのような形だったと言われている。住人は隠者。日本の武家社会で人気が出て、冠木門と呼ばれているタイプだ。
 「衡門」 @「詩経」国風 陳風
 衡門之下 可以棲遲
 泌之洋洋 可以樂飢
 豈其食魚 必河之魴
 豈其取妻 必齊之姜
 豈其食魚 必河之鯉
 豈其取妻 必宋之子

 「贈隠者」 劉滄@全唐詩卷#586
 何時止此幽栖処 独掩衡門長緑苔
 臨水靜聞靈鶴語 隔原時有至人來
 五湖仙島幾年別 九轉藥爐深夜開
 誰識無機養真性 醉眠松石枕空杯


鳥居を門とするなら、形状が似ているだけで、信仰と無関係であると切り捨てる訳にはいかない。
神社とは擬人化された神の住居とされたため、その門となったのが鳥居であると見なすこともできるからだ。自らを仙人と擬えて隠者が選んだ門と同一の形態になっているとの主張は一理ある。

一の鳥居とは、そのような考え方で生まれたのかも。

そんなことを考え始めると、"鳥居門"は、"縄鳥居"から連続的に進展した建造物と言ってよいか気になってくる。
両者の間には一大飛躍があるからだ。

現象論的には、前者には社殿は無く、後者には必ず社殿が有るというに過ぎぬが、それは汎神教から多神教に宗旨変えしたとも言える程の転換である。
"三輪山がご神体だから社殿不要"とは、神はその地から動けないことを意味している。一方、社殿が必要になるのは、神がその場所にお出ましになるから。社殿を移動すれば、神も別な地にお移りになられる訳だ。お神輿でお運びもできる。精霊とは次元が違うのである。

【付言】
寺院伽藍に対応する、大神社の本格的構成は参拝すればすぐわかる。本殿は禁足地内の神の社というだけのこと。・・・{[本殿(扉)+垣]+幣帛神饌台+拝殿+前庭(神楽場)+楼門+回廊}+参道(燈篭)+神橋/手水舎(禊所)+狛犬+鳥居
[→鳥類分類で見る日本の鳥と古代名]

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