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■■■ ジャータカを知る [2019.3.15] ■■■
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🐇"墮落音"譚では、おっちょこちょいの兎が、大きな物音に驚いて世界が壊れると言い出し、皆が一目散に逃げ始め、一大騒動をまきおこした、という筋だった。

弱い動物なので、すぐにビックリするという体質と見ていたのかも。それと、跳躍疾走する単独行動者という点も加味されていそう。

しかし、兎の特徴は繁殖力が凄まじい点だろう。
それに、跡をつけられ巣穴を発見されぬように工夫する賢さも知られており、ちょっと違うかナという気もする。

ただ、ジャータカでの兎と言えば、何と言っても、猿 ジャッカル 獺と共に登場する、兔本生譚[#316]だ。
インドラ/帝釈天が兎が誠心誠意供養するつもりがあるか試すという話。

自分の身体を布施するつもりで火に飛びこんだので、その徳を称えて、月に姿を残させたということで、「月の兎」として日本ではよく知られている。

一方、この翻案の「今昔物語」第5巻第13話@平安後期では、「大唐西域記」の再録らしく、登場するのは兎、狐、猿で、兎は死ぬことになる。ジャータカでは死ぬことはないのだが。そこまでして、余りに可愛そうということで、日本人の琴線に触れるのであろう。

冷静に考えると、自殺でお布施だ。この考え方はどうなのだろうか。現代で言えば、愛する家族の生活を護るため、生命保険金目当てに自殺するようなもの。そんな行動を賞賛する人はいないと思うが。
そもそも、自殺とは明らかに殺生に含まれる概念だし。

小生は、この話はインド発祥ではないと見る。
   [→"十二支の「兎」トーテム発祥元を探る"(2015.8.31)]
余計なことだが、日本では兎は白色イメージだが、「月と兎」の図像を考えるなら黒色でないと。白は因幡の素兎こと、兎神の姿である。
唐代の書「酉陽雑俎」を読むと、中国における、兎・蝦蟇・桂の意味も色々とわかってくる。[→"兎の毛色"](ジャータカの兎のインパクトが大きかったため、月と不死薬が関係する話は、日本では広がらず、兎は薬作りではなく餅つきなのだ。酒好きだが、幻覚を生む薬草酒は嫌っていたからでもあろう。)

せっかくだから、インドの月信仰についての流れを読むとこうなろう。・・・

「月と兎」を読むと、月に果たして神格があるのか疑問を感じさせるが、インドラは別格ということ。
シュメールは太陰暦であり、月神はおそらく宇宙神。インドではそれがヴァルナVaruṇa。現在は水神であるが、最高位の神だった時代があったのだ。その後、月神の地位はチャンドラCandraに譲ることに。占星術が一世風靡し九曜概念が入って来たからである。
そして、インドラが最高位に着くと、祭祀に用いる特別な薬草酒に関係するソーマSomaにその地位が与えられることに。

  →ジャータカ一覧(登場動物)

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