→INDEX

■■■ 今昔物語集の由来 [2019.11.29] ■■■
[152] 惡作劇
フレームアップ臭さが漂う、鬼の犠牲者話がある。

そのように感じさせるように意図的に書いたのではないかという気がする譚がある。・・・
暗いうちに人気の無い官庁に出勤したら鬼に襲われたというだけで、それ以上詳しいことは何もわからないのである。他と並べて鬼譚にしたいなら、それなりの情景を描くのが普通ではないか。

被害者は、通常となんらかわらずに仕事をしていたようで、そこは人が住んでいた場所ではなく、公事のみ。そんな所で鬼に突然襲われる理由がさっぱりわからない。しかも、そろそろ夜が明ける時刻であるにもかかわらず鬼が出現した点も腑に落ちぬところ。
ただ、逆に、極めて簡素な記述に留めているので、いかようにも尾鰭を付けて伝えることができる。猟奇殺人話のタネとしては申し分ない。
  【本朝世俗部】巻二十七本朝 付霊鬼(変化/怪異譚)
  [巻二十七#_9]参官朝庁弁為
 朝庁の、未だ暁の頃。
 燈火で登庁することになるのだが
 遅刻した史がいた。
 すでに、早参して座している弁がいる筈で
 遅参を怖れ、
 東庁の東側戸のもとに行き弁の居る中を覗いた。
 燈火は消えていて、人が居る気配も無い。
 怪しいと見て、弁の雑色が居る屏に立ち寄り
 弁の殿はどこにいらっしゃるのか尋ねたところ
 東庁に早々とお着きになっておられるとのこと。
 そこで史は、主殿寮の下部を召し、
 燈火を持って東庁の中に入った。
 弁の座には、赤い血肉の頭があり、所々に髪が付いていた。
 史は、どうしたことかと驚き怖れながらも
 側を見ると、血がついた笏・沓。
 さらに、弁の手で予定が書き付けられている扇。
 畳は血だらけだった。
 他の物は一切何もないのである。
 限りなく奇異なことであった。
 そのうち、夜が明け、多くの人が見に来た。
 弁の頭は、従者が持ち去った。
 その後、朝庁は東で行うことはなく、西に変わって
 引き続き行われた。


題名には鬼が入っているが、本文に書いてある訳ではない。猟奇的犯人を殺人鬼と呼ぶのは現代でも同じ。たいていはあることないことゴッタ混ぜの噂が次々生まれるもの。
「今昔物語集」編纂者はそんな話を手直ししたのだろう。

もう一話は、よくある怪奇話とも言えるが、本朝では、鬼がわざわざ板に化ける必然性が無いし、殿上人を侍が板で殺した可能性もありそう。周囲は死んでくれて有難う状態だったとの前提で。
大陸なら、いかにもありそうな話。
当然ながら他愛もない筋である。
  [巻二十七#18]現板来人家殺人語
 貴族の屋敷に仕える若い二人の侍が寝ずの番。
 すると、棟から板が出てくる。
 侍は刀に手をかけて睨むものの、板は去らす、
 客殿に隙間から入っていく。
 そして、そこで寝ていた五位の侍を押しつぶした。


この話の教訓がなかなかの出来。
殺された殿上人五位の侍は、男として身につけるべき太刀無しで、室内でグッスリおやすみ。これでは駄目ですナ、というもの。まさにその通りだ。

皆が見ての通り、死因は圧死。しかし、押し潰した板は見つかっていない。 マ、なんであろうと、一晩あったのだから、凶器を隠してしまうのは簡単。

これに引き続く譚も、物の怪に殺された話[→油瓶鬼]。だからといって、同類と見なす訳にはいかないのである。こちらの場合、死んだのは、患っていた娘だからだ。突然に油が注がれて死んだ訳では無い。しかも、物の怪の油瓶がこの家に入って行くのを見たのは、特別な人だけにすぎない。

フレームアップは検非違使の常套手段であり驚くようなことではない。
唐朝など、讒言や謀略の類いは日常茶飯事で、それを防ぐため事情通の占い師を必要としていたとも言える訳で、科挙や公然賄賂の仕組みではない本朝の場合は、そこまで酷くはなかったものの、ある程度は避けられまい。
以下の話は、そういう意味で多くのことを示唆している。陰陽師の話でありながら、その譚を一気に集めた巻ニ十四収載を見送った理由はそこらにありそう。えらくおかしな話だからだ。
  [巻二十七#23]播磨国来人家被射語 [→陰陽師]

 (C) 2019 RandDManagement.com    →HOME