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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.3.28] ■■■
[272] 二人同夢
💤夫婦そろって同時に同じ夢を見る話は、珍しいとはいえ、時に耳にすること。
「今昔物語集」の夢話は、もっぱら往生と霊験・ご利益か、懐妊であり、夢そのものについて考えることはしなかったようである。
その点では、仏教徒であっても、"夢"に一巻を割いた「酉陽雑俎」の著者とはかなり姿勢が違いそう。

夫婦同夢という点では、なんといっても有名なのは、釈迦牟尼懐妊に係る話。
  【天竺部】巻一天竺(釈迦降誕〜出家)
  [巻一#_1]釈迦如来人界宿給語 [→釈尊誕生本生譚] [→仏伝]

マ、そんなところかと思っていると、最終巻に少々異質な夢話が登場してくる。
多少は触れておかねばなるまいということだろうか。
  【本朝世俗部】巻三十一本朝 付雑事(奇異/怪異譚 拾遺)
  [巻三十一#_9]常澄安永於不破関夢見在京妻語
  [巻三十一#10]尾張国匂経方妻事夢見語
類似譚連続ということであるが、ご教訓はとってつけたようなもの。

最初の方は、確かに奇譚である。

と言っても、現代でも、夫婦や双子で、異なる場所にいながら、二人同時同夢が発生していることが、時々報告されているから、創作話の類ではなさそう。しかし、未だに、どうしてそのようなことが起きるか、納得できる説明がされていない。
しかしながら、環境要件が同じなら似た夢を見ることはありそうだし、夢中の会話の文言にしても、本人が忘れているだけで、記憶に残されているものかも知れない。よくある"déjà-vu"感の夢版ということか。
惟孝親王の下家司である常澄安永は、
 親王の封戸での租税徴収役として上野国に派遣された。
 1年余経ち、帰京となり、途中、美濃国不破関に泊まることに。
 安永は京に若妻を居いて来たので、ずっと不安だったが、
 この地で急に恋しくなってしまい、
 翌朝はすぐに京に向かって立とうと決めた。
 関守番小屋の壁際に横になっていたが
 寝込んでしまい夢を見た。
   京の方から、燈火を持った童が女を連れてやって来た。
   側に来ると、その女は妻だった。
   壁を隔てた側にその二人は座ったので
   壁穴から覗いて様子をみると、鍋でご飯を炊いて食べていた。
   どうも留守の間に、二人は夫婦になったようで
   睦みあっているのだった。
   驚くとともに、怒りにかられて、その現場に飛びこむと
   燈火も無く、人も居ないので唖然。
 と云うところで目が覚めた。
 そこで、ますます不安が募った。
 急いで帰宅すると、妻は無事だったので、嬉しかったが、
 妻は笑いながら言うのである。
   昨日、夢を見て、
   見知らぬ童が来て、連れ出されました。
   何処だかわからぬ場所に、燈火をつけて行くと、
   人気が無い家があり、そこでご飯を炊き二人で食べて、
   横たわったところ、あなたが急に現れ
   驚いたところで目が覚めました。
   なんとなく不安になっておりましたら
   ご帰宅なさったのです。
 それを聞いた、常澄安永も、
   そんな夢を見て、不安になったので、
   急いで帰って来たのだ。
 と言うので、
 妻はビックリ。


尾張に住む匂経方、字は官首。
 年来共に棲む妻がいるが、忍んで通う情婦も。
 本妻は、それを知ると妬み狂うことになる。
 匂経方に上京の用事が出来た。
 そこで、出立前に国府へ召されたと妻を欺いて、
 夜、女のもとへ。
 女と物語等して過ごし、共に眠入ったところ、夢を見た。
   本妻が走って入って来て、罵りながら、
   二人が臥しているのを妨げて大騒ぎ。
 そこで目が覚めたのである。
 怪しみ怖れて急いで帰宅。
 夜明け、上京のことなどつらつら思案しながら本妻の傍らに座り、、
 「今夜、御館に事の沙汰があったりして、・・・」
 などと言うと、
 本妻は、
 「速く来もせす、実に 連れなき者だ。
  今夜、あの女のもとに行って
  二人臥して愛し合った顔をしているくせに。」と。
 誰がそんなことを語ったのだと問うと、
 「夜前に、出で行く時、
  必ず行くと思ったの。
  だから、今夜の夢で、
  あの女のもとに行ったの。
  女と二人臥して、万を語らっているのを
  はっきり聞いてしまったから、
  邪魔をしたのよ。」と。
 その時、何を言ったのかと尋ねると
 一言も落さず夢で罵った言葉を答える。

こちらは、そう奇譚というほどのものではない。
不倫亭主は、本妻の怒りを始終感じており、睦みあっている最中に乗り込まれて罵倒される状況を予想していたので、その圧迫観念が夢に現れただけ。
どうせ夫は、女のもとに行ったと見ている妻が、不倫現場に怒鳴り込む夢を見るのもいかにもありそうなこと。長く一緒に生活して機微を知るようになれば、妻の性情はよくわかっているから、同じ夢になってもおかしくなかろう。

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