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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.4.24] ■■■
[299] 身体布施と求法苦行
巻五は天竺 付仏前である。全32譚を、ほぼ眺めてきたが、その中核的存在である筈の釈尊本生譚が残っているので見ておきたい。
  [巻五#_7]波羅奈国羅大臣擬罸国王語
  [巻五#_8]大光明王為婆羅門与頭語
  [巻五#_9]転輪聖王為求法焼身語
  [巻五#10]国王為求法以針被螫身語
これらは、釈尊前生である王族が主人公の身体布施と求法苦行の話だが、うち3譚は、ご丁寧にも敵対的登場者をわざわざ提婆達多の前生との解説付き。

巻五全体のなかでの、この4譚の位置付けを見たいので、整理してみた。

現在の上座部仏教の流れの大元ともいえるセイロン島の由緒譚を冒頭に持って来ており、まさに慧眼と言えよう。#15と#22を取り上げたが、構成的に不可思議な箇所に入れ込まれている。・・・
---部派仏教"辟支仏"譚(隠遁独覚修行者)
[_1]《僧迦羅⇒国王》@僧伽羅国シンガラ=セイロン島
[_2]《獅子仔⇒国王》@僧伽羅国シンガラ=セイロン島
[_3]《盗人⇒半国王》
[_4]一角仙人》@健邏国ガンダーラ
[_5]《鹿母夫人》@吠舎釐国ヴァイシャーリー(ビハール)
[_6]《般沙羅王500男児》
---釈尊本生譚
[_7]須蘭提太子》(羅大臣=提婆達多)
[_8]大光明王》(隣国の王=提婆達多)
[_9]轉輪聖王》
[10]國王》(仙人=提婆達多)
[11]沙弥》
[12]比丘》
---異類譚
[13]《兔+菩薩》
[14]獅子》
[15]  《比丘》 [→拝火と仙果]
[16]《竜王》
[17]《鼠王》@瞿薩旦那国ゴースターナ=于
[18]九色鹿》
[19]《亀・蛇・狐》
[20]《狐》
[21](j)狐+菩薩》
[22]  (j)善生人・阿就女・終尤・明尤》 [→東城国と西城国]
[23]《猿》
[24]《亀・鶴》
[25]《猿・亀》
[26]子象》
[27]《象》@迦湿弥羅国カシミール
[28]《大魚》@摩掲陀国マカダ(ビハール〜北ベンガル)
[29]大魚》
---他
[30]《提婆那延》
[31]《牛飼》
[32]老母》

さて、個別に筋を見ていこう。


 波羅奈国で宮を守る神が、
 大王に羅大臣が謀反を企てていると告げた。
 大王は后と太子と協議の上、密かに国外告亡。
 その途中で糧食が尽きてしまい
 大王は后を殺害しその肉を食そうと決意。
 すると、太子はそれを止め
 自分の手足の肉を提供。
 すると、その臭いで蚊・虻が群れ
 太子の肉を喰らい、苦痛は際限なき程に。
 帝釈天も獣となり、肉の残りをんだのである。
 太子は、
 「願くは、我れ、来世に無上菩提を得て、
  汝等が餓への苦びを済はむと思ふ。」と。
 父母は太子を捨て去ってしまったが、
 太子は、
 「願くは、我れ、
  此の捨て難き身を捨る功徳を以て、
  無上菩提を成じて、
  一切衆生を度せむと思ふ。」と。
 すると帝釈天は姿を現し、
 「汝、極て愚也。
  無上道は久く苦行を修て行る所の道也。
  汝、何ぞ此の施に依て、無上道を成ずべきにか。」と。
 太子は、
 「我れ、若し此の事に於て、
  欺誑の言を致さば、我が身、全く平復すべからず。
  若し、真実の言を致さば、我が身、本の如く平復すべし。」と。
 すると、すべてが平復したのである。
 そして帝釈天も消える。
 大王は隣国王のもとに行き、経緯を語ったところ、
 四種の兵が発せられ羅大臣を罸つことになり、
 本国帰還。大王は位を太子に委付。

本生譚であるから、太子は前生釈尊であり、その布施行為が語られる。このことは、母親の身代わりになるところに焦点を当てている訳ではなく、蚊・虻の飢餓を我身の布施で救うことに意味があるのだろう。
苦行の修行で無上道ではなく、布施でよいのであると、断言したのである。ただ、それに対して帝釈天の反論な記載されておらず、納得したのかも定かではない。
ともあれ、一切衆生を救済するという場合、蚊・虻にも利益を与える必要があるとの思想だけは明確に示されている。

次も、又、捨て身供養。

 誓願を立てて布施行に励んでいた大光明王は
 乞われると施しを行っていた。
 それを知る隣国の王は、
 婆羅門に王の首を乞わせて殺害を計画。
 宮を守る神はそれを知り、
 婆羅門を入れないようにしたが、
 大光明王は、婆羅門訪問を歓迎。
 その要求に応えて自分の頭を切り取り与えた。


 転輪聖王が一切衆生利益の為、仏法を知るものを探すように宣旨。
 その結果、辺土の小国の婆羅門を招請することに。
 その者は、供養を請けなかった。
 そして、王が1.000の着ずを彫り、
 そこに宍油を充たし点火し焼身供養すれば
 法を説こうと言う。
 王は、それに従って、半偈を得る。

   夫生輙死。此滅為楽
   爾時世尊以偈頌曰:
   所行非常,謂興衰法,夫生輙死,此滅為樂。埴作器,一切要壞,人命亦然。
      [法炬 法立[譯]:「法譬經」卷一 1無常品]
 そこで、帝釈天の化身だった婆羅門は姿を現わし尋ねる。
 「汝、此の有難き供養を成して、何なる報をか願ふ?」
 大王は
 「我れ、人天の勝妙の楽を求めずして、
  只無上菩提を求めむと思ふ。
  譬ひ、熱鉄輪を我が頂の上に置くと云ふとも、
  苦しぶ事有らじ。
  終に、此の苦行を以て、無上菩提心を退せじ。」と答えた。・・・

もちろん、転輪聖王は前生釈尊。

 求法の為王位を捨て、山林に入り修行なさった国王がいた。
 すると、仙人が出て来て、国王に告げた。
 仙人:「我は法文を持っており、汝に教へようと思うが、如何?」
 国王:「我、求法で山林で修行中。速やかに教えるように。」
 仙人:「我が言う事に随えば教えるし、随がわないなら、教えない。」
 王:「もし法を聞く事ができるなら、身命を惜しむことなどない。
   ましてや、その他のことなど。」
 仙人:「それなら、90日間毎日5回、針で身を突けば、教えよう。」
 国王:「たとえ毎日1.000回突けと言われても、法の為なら身を惜まない。」
 と言うことで、仙人に身を任せて立ち上がられた。
 そして、仙人は針を50回突いたのだが、痛みは無かった。
 こうして、一日に5回突き、3日経った。
 仙人:「汝、痛ま無いか。
   痛いなら去れ。90日間、この様に突くのだ。どうだ。」
 国王:「地獄に落ち、堂燃燼火に身を焼かれ、
   刀山火樹に身を交える時の痛さは尋常ではないが
   去れとは言われない。
   それになぞらえば、
   この苦痛など、百千万億の一にも達しない。
   と言うことで、痛みなど感じない。」
 そして、90日間忍耐。痛む事は無かったのである。
 完了し、仙人は、八字の文を教えた。
 所謂ゆる、

   諸悪莫作 諸善奉行
 だった。
   最常見的漢譯作:
   諸惡莫作,衆(諸)善奉行;自淨其意,是諸佛教。 [「七佛通誡偈」」
本生譚としては、
 求法苦行する国王⇒釈迦仏
 虐待した仙人⇒今の提婆達多
となる。

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