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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.5.7] ■■■
[312] 教化活動・釈尊涅槃記
巻三「今昔物語集」の【天竺部】は本朝初の"釈尊一代記"であり、ある意味、大乗仏教の出自を確定させようとの労作でもある。
その観点で考えれば、冒頭の3巻はこうならざるを得ない。・・・
  巻一 釈尊出家・教団創基記 [→]
  巻二 釈尊初期教説記 [→]
  巻三 教化活動・釈尊涅槃記

編年体の編纂だが、「仏伝」を執筆するなら、"常識的に考えて"それは当たり前と思ってしまうが、そうとも言い難いない点に注意が必要だ。
そこに、編纂者の気付きがあったのは間違いないと思う。
だからこその全体構成と考えるべきだと思う。
  【天竺部】冒頭 巻一 天竺…(釈迦降誕〜出家)

  【震旦部】冒頭 巻六 震旦 付仏法…(仏教渡来〜流布)
           [巻六#_1] 震旦秦始皇時天竺僧渡語
  【本朝仏法部】冒頭 巻十一 本朝 付仏法…(仏教渡来〜流布史)
  【本朝世俗部】冒頭 巻二十一…欠巻
           巻二十二 本朝…(藤原氏列伝)

すべての譚に目を通せば、仏教説話といして使えそうもないものがあるのに、仏教説話本とみなす理由は冒頭が「仏伝」となっているせいも大きかろう。ここの見方が肝要。

上記でわかるように、震旦部の頭は反仏教の始皇帝譚だが、この冒頭巻では仏法の視点で歴史を記載する。本朝世俗部の頭は欠巻だが、天皇紀に当たると考えてよいだろう。
三国の仏法史をメインにしているような風体を醸し出している訳だ。ところが、それなら世俗部など不要というか、"邪魔"そのもの。にもかかわらず、そこにえらく力が入っている。
このことは、本来的には、巻一#1譚は天竺王朝の始原を取り上げたかったが、それが不可能なので変則的になったことを意味すると考えるのが自然であろう。天竺の風土では、史書に目を向ける人などいないからそうならざるを得ないということ。輪廻転生観念の社会であり、仏教はそこに因縁観を導入した訳だ。
ちなみに、震旦は天帝観に基づく革命ありきの王朝史は、格別重要な書になる。
一方、本朝には皇統観はあるものの、王朝観とはソリがあわない。文化的に天竺や震旦とは全く異なる訳だ。「今昔物語集」の"三国観"の根底には、この見方が流れていると見るべきであろう。
その結果、上記のような編纂方針になったということ。

【天竺部】はこの後は、釈尊在世時代の前と後になる。
          巻四 天竺 付仏後…(釈迦入滅後の仏弟子活動)
          巻五 天竺 付仏前…(釈迦本生譚)
本朝の世俗部のおよそ仏法譚とは無関係な話が無い訳ではない。それらは巻五に入ってくるから、ちょっと目には本朝部と類似構成に映るが、現世譚扱いになっていないのだから、そのような意図と解釈するのは余りに恣意的と言えよう。素直に解釈すれば、天竺の社会では、仏教以前から、世俗と宗教の間に壁が無いとの見解をしていると考えるべきだと思う。

と言うことで巻三の構成を眺めておこう。

大きく見れば、弟子(#1〜6)、衆生救済(#7〜27)、涅槃の3部(#28〜35)に別れている。・・・
【天竺部】巻三 天竺(釈迦の衆生教化〜入滅)
  -----《1-6 直弟子》-----
  [_1]天竺舎離城浄名居士語__《浄名居士》
  [_2]文殊生給人界語______《文殊菩薩》
  [_3]目連為聞仏御音行他世界語_《目連》
  [_4]舎利弗攀縁暫籠居語____《舎利弗》
  [_5]舎利弗目連競神通語____《舎利弗、目連》
  [_6]舎利弗慢阿難語______《舎利弗、阿難》
  -----《7-12 衆生救済:異類(龍&鳥)救済》-----
  [_7]新竜伏本竜語_______《悪竜》
  [_8]瞿婆羅竜語________《瞿婆羅竜》
  [_9]竜子免金翅鳥難語_____《竜王》
  [10]金翅鳥子免修羅難語____《金翅鳥》
  [11]釈種成竜王聟語______《竜王の女子》
  [12]須達長者家鸚鵡語____《鸚鵡》
  -----《13-15 衆生救済:転生》-----
  [13]仏耶説輸多羅宿業給語___《耶輸多羅》
  [14]波斯匿王娘金剛醜女語__《金剛醜女》
  [15]摩竭提国王燼杭太子語__《燼杭太子》
  -----《16 衆生救済:現世転身》-----
  [16]貧女現身成后語______《貧窮賤孝子》
  -----《17-18 比丘の罪》-----
  [17]羅漢比丘為感報在獄語___《国王》《阿羅漢比丘》
  [18]駈二人羅漢弟子比丘語___《無上菩薩沙弥》《師比丘》
  -----《19-20 衆生救済:供養》-----
  [19]須達家老婢得道語_____《老婢》《羅羅》
  [20]仏頭陀給鸚鵡家行給語___《鸚鵡》
  -----《21 衆生救済:−》-----
  [21]長者家浄屎尿女得道語__《屎尿浄化女人》
  -----《22-24 衆生救済:貪欲者教化》-----
  [22]盧至長者語________《帝釈天》《盧至長者》を教化
  [23]跋提長者妻慳貪女語____《賓頭盧尊者》《跋提長者妻》を教化
  [24]目連尊者弟語_______《目連》《目連弟》を教化
  -----《25-26 衆生救済:仏法未伝地区教化》-----
  [25]后背王勅詣仏所語_____《弟子比丘》《禁制国》を教化
  [26]仏以迦旃延遣賓国語___《迦旃延》賓国》を教化
  -----《27 衆生救済:大逆罪王教化》-----
  [27]阿闍世王殺父王語_____《阿闍世王》
  -----《28-35 涅槃告知〜仏舎利分骨》----- [→涅槃譚]
 [28]仏入涅槃告衆会給語____⇒入滅予告⇒
 [29]仏入涅槃給時受純陀供養給語⇒純陀による最後の供養⇒
 [30]仏入涅槃給時遇羅羅語__⇒実子 《羅羅》との最後の対面⇒
 [31]仏入涅槃給後入棺語____⇒入棺⇒
 [32]仏涅槃後迦葉来語_____⇒摩訶迦葉ご遺体拝礼⇒
 [33]仏入涅槃給後摩耶夫人下給語⇒生母示現⇒
 [34]荼毘仏御身語_______⇒荼葬儀⇒
 [35]八国王分仏舎利語_____⇒仏舎利分骨⇒
[KEY]
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