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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.5.18] ■■■
[323] 須達長者家の女達
祇園精舎を建立し寄進した舎衛城の大富豪 須達長者が登場する話は巻一に収録されている。
  【天竺部】巻一天竺(釈迦降誕〜出家)
  [巻一#13]満財長者家仏行給語📖対外道六師婆羅門
  [巻一#31]須達長者造祇薗精舎語📖仏伝

これに加え、須達長者の家をとりしきる老婢の教化話もあるので見ておこう。
  【天竺部】巻三天竺(釈迦の衆生教化〜入滅)
  [巻三#19]須達家老婢得道語
 須達長者の家に、家を取り仕切る毘低羅という老婢がいた。
 長者が釈尊と弟子達をを招待し供養するのを見て
 もともと性情が慳貪なので、仏法僧を嫌っていた。
 「我が主、長者は、愚かにも沙門の術を信じているが
  仏の名や比丘の名を聞かないことにしている。」
 と広言し、
 舎衛城全体に広がっていった。
 そこで、国王の后 末利夫人は、
 「須達長者は、
  美しい蓮華のように多くの人に尊敬されているのにもかかわらず、
  どうして家の中に毒蛇を護っておられるのだろう。」と思い、
 須達長者の妻(玉耶女)
 「あの老婢は、悪口だらけで、三宝を誹謗。
  どうして追い出さないのでしょう。」と告げた。
 長者の妻の答えは、
 「央崛魔羅のような悪人でさえ、仏は折伏しました。
  あの老婢を気にする必要はございません。」というもの。
 末利夫人は喜んで、
 「明日、仏を宮中にご招待しますから、
  老婢を宮中に参内させて下さい。」と言うので、
 長者の妻は承知した。
 翌日のこと。
 何の説明もうけず、老婢は、
 お金を入れた瓶を持たされて王宮に。
 老婢が来たのを見た末利夫人は、すぐに仏を招待。
 釈尊が王宮到着し、正門から入城。
 左に難陀、右に阿難、後ろに羅羅を供なっていた。
 老婢はそれを見て、大変に驚いた。
 恐怖で毛が逆立ってしまい、
 「この悪人はついてきたのか。すぐに帰らねば。」
 と言い走って逃亡。
 脇戸から出ようとしても閉まっており、
 仏が現れたので、顔を隠したが、役に立たず。
 老婢は心が乱れ、
 東西南北、さらには上下を見だが、どこにでも仏。
 手で顔を覆っても、指の先に仏。
 目を閉じようとしても、できない。
 大空全面に仏の姿だらけだったのである。
 そもそも、城内には、25人の旃陀羅の女、50人の婆羅門の女、
 宮中には仏を信じない500人の女がいた。
 仏が、老婢のため、無数の姿となって出現なさったので
 これらの女達も、邪見を捨て、仏を礼拝して「南無仏」と口唱。
 そうすると、たちまちのうちに、菩提心が生まれたのである。
 しかし、老婢は、邪見が深く、仏を信じようとはしなかったが、
 眼前に仏を見奉ったので、
 多くの生死の罪を滅することが出来たのである。
 老婢は長者の家に帰り、須達長者の妻に申し上げた。
 「今日、お遣いで王宮に参上致しましたところ
  狗曇(=釈尊)が王宮の門におりまして、
  様々に化身された姿を見ました。
  身は金山の様で、眼は青連蓮華より美しく、
  限りなく光を放っておりました。」と言い、
 籠を作って、その中に横臥してしまった。
 釈尊は、祇園精舎にお帰りになるということなので、
 末利夫人は
 「願わくば、あの老婢を化度し下さってからお帰り頂きたく。」と。
 仏は、
 「あの老婢は罪が重過ぎる上に、縁がない。
  しかし、羅羅には、化度する縁がある。」
 と方って、返っていった。
 そして、羅羅が須達長者の家に派遣された。
 老婢を化度するため、
  羅羅は転輪王の姿となり、
  1,250の比丘は、1,000の子に。
 さらに、老婢を玉のような美しい女に変身させたのである。
 老婢、歓喜し、転輪王に敬礼。
 転輪王は十善を説法したので、
 老婢の歪んだ心が治り、悪心も抑えられた。
 そこで、羅羅と大勢の比丘達は、元の姿に戻った。
 老婢は、
 「仏法は清浄で、衆生を見捨てない。
  愚痴の故、長年信じいなかったのに。
  邪悪な心を化度して頂いた。」
 と語ったのである。
 そして、五戒を受け、須陀果を得てから
 仏の御許に参詣し、懺悔し出家し阿羅漢果を。
 さらも、大空に昇って十八変を現したのである。
 波斯匿王は釈尊に老婢の前生の因縁をお尋ねになり、
 お答えを頂戴したのである。・・・
 「極めて遠い昔、宝蓋灯王仏が入滅された後の、像法の時、
  一雑宝花光王の王子 快見が出家した。
  仏道を学んだものの、王子という身分を笠に着て態度は驕慢。
  その師の和上がは、王子のため、甚深般若の空義を説法。
  ところが王子はそれを邪説とみなした。
  師の入寂後には、
   "我が師は、智恵無く、空の義を説いた。
    願わくば、我は後世に、会わないように。"とまで。
  その後、師とした阿闍梨に対しては
   "智恵も弁舌の才もあるお方だ。
    願わくば、我は何世にも渡り、善知識となって欲しい。"と。
  そして、弟子を抱え、空義を邪説として説いた。
  王子は、戒律を守っていたにもかかわらず、
  このように、般若の教義を疑っていたので、
  阿鼻地獄)に堕ち、際限なき苦しみを受けることに。
  さらに、地獄を出て、貧賤の人に転生。
  500世代に渡って耳目が不自由で、
  1,200世代に渡って婢となる結果に。
  それぞれ、
   和上は、前生の釈尊。
   阿闍梨は、前生の羅羅。
   王子は、前生の老婢。
   宮中の邪見の女達は、前生の比丘の弟子達。」


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