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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.3] ■■■
[339] 「三宝絵詞」の高利貸僧
巻十二の法会関係譚の出典はほぼ「三宝絵詞」984年下巻。[→法会一瞥]

中巻は本朝高僧18人伝だが「日本霊異記」引用だらけ。[↓下記]
巻十二の法会以外では「三宝絵詞」と見かけ同一の「日本霊異記」引用譚があるが、その思想は異なり、「三宝絵詞」の影響を排除しようとしているかに見える。[→経筥延伸]

それなら、「三宝絵詞」を無視するかと思いきや、原典の「日本霊異記」からではなく、そのまま引用していたりもする。
それが僧の金銭譚の2ツ。

  【本朝仏法部】巻二十本朝 付仏法(天狗・狐・蛇 冥界の往還 因果応報)
  [巻二十#19]橘磐島賂使不至冥途語
  【本朝仏法部】巻十四本朝 付仏法(法華経の霊験譚)
  [巻十四#38]誦方広経僧入海不死返来語
前者は、牛肉食の冥界の役人のような鬼であり、本朝的ではなく、震旦北方の風土の鬼のように見える。震旦では、役人に賄賂は当たり前で、冥界の鬼も当然ながらその仕来たりに従うという風に映る。
「今昔物語集」編纂者がここで「日本霊異記」を嫌ったのは、恩返しのために別人を仕立て上げる際に、その対象を"相見・八卦"人と明瞭に示したからではなかろうか。
後者は年率100%だから、現代からすると、いかにも阿漕な金貸イメージだが、リスクが高いし、経済発展著しい社会だからこそ仏教教団も維持できる訳で、それほどの問題ではないような気がする。要sるに、旨そうな儲け話で舅から資金を調達したが、上手くいかなかったにすぎまい。
僧は独自のネットワークがあり、国々の情報をいち早く入手できただろうし、流れを見る目も培われていたから、交易の要石的役割を担っていたのは間違いあるまい。寺院の高利貸も商人達の要望に合わせて始まったのだろう。
「三宝絵詞」は、結構、現実社会の実態を隠さずに描こうとしていそう。「今昔物語集」編纂者は、そこらの姿勢をかったのかも。

《橘磐島賂使不至冥途語》
 聖武天皇代。[在位:724-749年]
 奈良の京 大安寺の西の郷に住む男、橘磐島は、
 寺の修多羅供の銭四十貫を借請け、

   (大般若経の転読講説の法事の布施預かり金が資金運用されていた。)
 越前敦賀の津に行き、商取引し、
 船に荷を積んで還る際、
 俄かに罹病。
 そこで、船を逗留させ、
 馬を借りて乗って独りで急いで還ることにした。
 近江高島
@琵琶湖西北の浜を行ったのだが、
 後を振り返ると、
 1町ほどの距離に3人の男が付いて来るのが見えた。
 山城宇治橋に来た時、
 そのの男達は側に近寄って来たので。
 磐島:「汝達は何処へ行こうとしているのか?」
 鬼:「我等は閻魔王の使。
  奈良の磐島を召しに行くところ。」との答。
 磐島、これを聞いて驚いた。
 磐島:「それは、我のこと。
  どの様な理由で召すのだ?」
 鬼:「我等、先ず、汝の家に行って訊いた。
  すると
  "商の為、国の外に行って、まだ帰って来ていない。"との返事。
  そこで、津に行って捜して
  そこで捕捉しようとしていたら、
  四王
(大安寺四天王)の使と称す者が来て語るには、
  "この人は、寺の銭を借請けて商をしている。
   その金を納めさせるべきである。
   と言うことで、暫く免除するように。"と。
  そこで、家に返るまでは免じたのである。
  それにしても、
  日々、汝を捜し求めていた間に、
  我等は飢えて疲れてしまった。
  もしかしたら、食糧は持っていないか?」
 磐島:「我れ、道にしてかむ為、糒が少し有る。」
 磐島、鬼に糒を与え、食べさせた。
 鬼:「汝の病とは、我等が気である。
  近くに寄るでない。
  なにも恐れることはない。」
 そして、共に、家に到着。
 磐島は鬼達に食を儲け、大饗をふるまう。
 鬼:「我等は牛肉を、願ってもない食料とする者。
  速やかに、それを求めて来て、食わせてくれねば。
  世の中で、牛を取る者とは、我等のこと。」
 磐島:「家に斑牛
(農耕用犂牛)が2頭いる。
  これを与えよう。
  そういうことで、我に赦免を。」
 鬼:「我等、汝から多くの食を受けた。
  その恩に報いなければならない。
  とは言え、汝を赦免すれば、
  我等は重罪を負う破目になり、
  鉄の杖で百度打たることになる。
  もしや、汝と同年の人はいまいか。」
 磐島:「我、特に、同年の人など知らない。」
 一の鬼、それを聞いて、大いに怒った。
 鬼:「汝、幾つだ?」
 磐島:「戊寅の年生まれ。」
 鬼:「その年の人がいる所を知っている。
  汝の代わりにその人を召そう。
  但し、与へてくれた牛は喰うぞ。
  又、我等、打責められる罪はのがれられないから
  我等三人の名を呼んで、
  金剛般若経百巻を読誦させるように。」
 そして、それぞれ名乗った。
  一人目は高佐丸。 二人目は仲智丸。三人目は津知丸。
 そして、夜半になると、出て行き、去ってしまった。
 翌朝、牛一頭が死んでいた。
 磐島、それを見て、大安寺南塔院に行き、
 沙弥仁耀を招請。
 事の次第を仔細に伝え、金剛般若経を読誦させた。
 鬼達は、このお蔭で廻向。
 2日間で百巻読誦満願となった。3か目の暁、かの使の鬼が来訪。
 鬼:「我等、般若の力に依り、
  既に百度の杖の苦を脱れることができた。
  又、常の食の他に、食を増してもらうことができた。」
 喜び、際限なく貴んだのである。
 鬼:「今より後、節日毎に、
  我が為に功徳を修して、食を供すように。」
 それを言うと、忽然と、掻き消す様に去って行った。
 磐島は、90才を越すまで存命。


《誦方広経僧入海不死返来語》
 奈良の京に、妻子を持ちだが、
 日夜、方広経を読誦する僧がいた。
  
(方広=大乗菩薩道であり、
   大方広仏"華厳経", "勝鬘"師子吼一乗大方便方広経
   般若経, 維摩経, 無量寿経, 法華経/大乗方広総持経が該当すると思われる。)

 ところが生業は高利貸。これで妻子を養っていたのである。
 娘は結婚しており、夫婦でこの男の家に住んでいた。
 安陪天皇代のこと。
(=孝謙/称徳天皇)
 娘の夫が陸奥の
(国司三等官)掾に任官となった。
 その時、舅である僧から銭20貫を借用。
 任国で1年経つと元利合計は倍に。
 その後、帰京し、元金だけは返済したが、利息は払えなかった。
 舅の僧は、年月を経ても支払いを迫ったが、
 婿はすでに返済余力を失っていた。
 そのため、心中では、密かに舅を殺そうと考えていた。
 そこで、遠い国に赴任になったと偽り、
 そこで借金返済するつもりと嘘をつき、
 舅に、同道してくれるように頼んだ。
 舅は、その言葉を信用し出立し、
 途中で同じ船に乗ったのである。
 婿は船頭と示し合わせており、
 舅の僧を捕らえ、四肢を縛って海中へ投げ込んだ。
 そして、帰ってから、妻である娘に
 「汝の父、大徳は、途中で船から海に落ちて死んだ。
  助けようとしたが、我も危なかった位で、
  どうやら我だけ助かったのである。
  そんなことがあったので、
  任国に行くのを諦め、帰宅することにした。」
 と言うと、
 娘は大変に泣き悲しみ、
 「なんとも悲しいこと。
  再び父の顔を見ることが出来なくなってしまったとは。
  何とかして、その海の底に行き、
  父の亡骸にお会いしたいものよ。」と。
 限り無く、泣き悲しんだのである。
 ところが、海に突き落とされて底に沈んだ僧は
 海水が寄ってこないので、
 方広経を誦していたのである。
 そうして、2日2晩過ぎた時、
 船がその辺りを通りかかり
 乗っている人が、
 波に任せて浮かんで漂っているのを発見。
 引き上げると、手足を縛られた僧だった。
 顔色も変わらず、衰弱の様子もない。
 船人は大いに怪しいと思い、
 「一体、何者だ?
  何故に縛られているのか?」と尋ねた。
 盗人に出くわし、縛られ海に落とされたと答えると、
 船人は、さらに、
 「どの様な秘法を用いて、
  海に沈んでも死なずにすんだのか?」と尋ねる。
 特段、秘法などなく、
 只、日夜、方広大乗経読誦・受持しているだけ。
 おそらく、そのお蔭かと、と答えた。
 婿の企てを語らず、
 故郷に帰れるように頼んだのである。
 船人はこれを聞き、
 哀れと感じ、家まで送り届けた。
 丁度、その時、
 婿は家で、舅の僧の後世を弔う法事を始めていた。
 僧への供養の膳を整え、
 自ら捧げ持って、僧達に分けていた。
 そこで、舅は顔を隠し、
 僧達に紛れ込み、供養を受けた。
 婿は、突然、その顔を見つけたものだから、
 驚き怖れ身を隠してしまった。
 舅は、婿を恨むこともせず、
 その後、その悪事を語ることもなかった。
 「命が助かったのは、方広大乗経のお力による。」と
 ひたすらに読誦するだけ。


《「三宝絵詞」中巻》
 ["法宝"]…18名目次
 [序]…趣
 [_1]聖コ太子
 └[巻十一#21]聖徳太子建天王寺語
   ⇒[記載]日本記,平氏撰聖徳太子上宮記,
        諾楽古京薬師寺沙門景戒撰日本国現報善悪霊異記,等

   ⇒「霊異記」上4聖徳皇太子示異表, 上5信敬三宝得現報
 [_2]役優婆塞
   ⇒[記載]続日本紀,霊異記,居士小野仲広撰日本国ノ名僧伝,等
   ⇒「霊異記」上28修孔雀王法得異力現作仙飛天
 [_3]行基菩薩
   ⇒[記載]小野仲広撰日本国ノ名僧伝,僧景戒造霊異記,等
   ⇒「霊異記」中29行基大徳放天眼視女人頭塗豬油而呵嘖
        +中7智者誹変化聖人現至閻闕受苦

 [_4]肥後國シシムラ(肉団)尼
 └「法華験記」下98比丘尼舎利
   ⇒「霊異記」下19産生肉団之作女子修善化人
 [_5]伴造義通
   ⇒「霊異記」上8聾者帰敬方広経典得現報開面耳
 [_6]播磨國漁翁
   ⇒「霊異記」上11自幼時用網捕魚而現得悪報
 [_7]義覺法師
   ⇒「霊異記」上14僧憶持心経得現報示奇事
 [_8]越前國小野麿
   ⇒「霊異記」下14拍于憶持千手咒以現悪死
 [_9]山城國圍碁沙彌
 └「法華験記」下96軽咲持経者沙弥
   ⇒「霊異記」上19呰読法花経品之人而現口_斜得悪報
 [巻十四#28]山城国高麗寺栄常謗法花得現報語
 [10]山城國造經函人
 └「法華験記」下105山城国相楽郡善根男
   ⇒「霊異記」中#6至誠心奉写法花経有験示異事縁
 [巻十二#26]奉入法華経筥自然延語
 [11]高橋東人
 └「法華験記」下106伊賀国報恩善男
   ⇒「霊異記」中#15奉写法華経因供養顕母作女牛之因縁
 [巻十二#25]伊賀国人母生牛来子家語
 [12]大和國女人
   ⇒「霊異記」中21攝神放光示奇表
 [13]染部巨鯛女
   ⇒「霊異記」中8攝神放光示奇表
 [14]楢磐島
 └[巻二十#19]橘磐島賂使不至冥途語
   ⇒「霊異記」中24閻羅王使鬼得所召人之賂免
 [15]諾樂(奈良)京僧
 └[巻十四#38]誦方広経僧入海不死返来語
   ⇒「霊異記」下4沙門誦持方広大乘沈海不溺
 [16]吉野山僧
 └「法華験記」上10吉野山海部峰寺広恩法師
   ⇒「霊異記」下6禅師将食魚化法花経覆俗誹縁
 [巻十二#27]魚化成法花経語
 [17]美作國採鐵人
   ⇒「霊異記」下13将写法華経建願人断日暗穴頼願力得全命
 [巻十四#_9]美作国鉄掘入穴法花力出穴語
 [18]大安寺榮好
   ⇒[記載](佚書)石淵寺ノ縁記

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