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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.2] ■■■
[338] 経筥延伸
經函の奇譚は、震旦の仏教伝来地にもある。箱から光が放たれたというのである。
 寺上經函,至今猶存。
 常燒香供養之,經函時放光明,耀於堂宇。
 是以道俗禮敬之,如仰真容。
  [楊衒之:「洛陽伽藍記」卷四 城西 白馬寺]

本朝版は、箱に比して大き過ぎたお経だったが、法華経読誦で伸びて入るようになったという話。

巻十二#25譚[→償債で牛転生]の次に収載されている。
  【本朝仏法部】巻十二本朝付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#26]奉入法華経筥自然延語
 聖武天皇代。[在位:724-749年]
 山城相楽の男。
 父母への報恩を発願。
(「三宝絵詞」では四恩と一般的になっている。)
 法華経を写経し奉った。
 供養後、お経を奉納するため
 遠くから白檀・紫檀を求めて経筥を造らせた。
 細工師を呼び、経の大体の大きさに合わせて造った。
 さて、その筥に経を入れようとしたところ、
 経は長く、筥は短かい。
 と言うことで、願主は経を筥に入れ奉る事ができず、
 大いに長き、懃ろに誓を発し、
 僧を招請して、37日間、この失錯を悔いて、
 又、用材が得られるように祈請した。
 27日目のこと。
 経を取り、試しに筥に入れ奉ると、
 筥は自然に少し延びていたが、僅に長さが不足していた。
 願主は、奇異なことと思ったが、
 これは祈請によって起きたと考え、
 発心し、ますます祈念し、満願の37日を迎えた。
 経を取って筥に入れ奉ると、筥は延ており、
 経は上手く入ってしまい、少も不足すすることもなく、
 願いがかなったのである。
 願主は奇異なことと考え、
 はたして、これは、経が短く成ったのだろうか、
 それとも筥が延びたのだろうかと疑問を持ち
 その経と等しい経と比べると、全く等しい長さで、元のママ。
 そんな訳で、願主は涙を流し、経に向い奉って礼拝したのである。


この譚と前後譚については、出典関係がわかっており、以下のようになっているそうだ。落盤事故生還譚も同じ類としてで並べておいた。・・・
○「日本国現報善悪霊異記」中#15奉写法華経因供養顕母作女牛之因縁
├○「三宝絵詞」中#11高橋連東人…譚末に出典が記載されている。
│└○「大日本国法華経験記」下106伊賀国報恩善男
└○「今昔物語集」
  【本朝仏法部】巻十二 本朝付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#25]伊賀国人母生牛来子家語[→償債で牛転生]

○「日本国現報善悪霊異記」中#6 至誠心奉写法花経有験示異事縁
├○「三宝絵詞」上10山城国造経筥人…譚末に出典が記載されている。
│└○「日本国法華経験記」下105山城国相楽郡善根男
└○「今昔物語集」
  【本朝仏法部】巻十二本朝付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#26]奉入法華経筥自然延語

○「日本国現報善悪霊異記」下#6禅師将食魚化法花経覆俗誹縁
├○「三宝絵詞」中#16吉野山僧
│└○「日本国法華経験記」上#10吉野山海部峰寺広恩法師
└○「今昔物語集」
  【本朝仏法部】巻十二本朝 付仏法(斎会の縁起/功徳 仏像・仏典の功徳)
  [巻十二#27]魚化成法花経語[→魚食無罪]

○「日本国現報善悪霊異記」下13将写法華経建願人断日暗穴頼願力得全命
├○「三宝絵詞」中#17美作國採鐵人
│└○「日本国法華経験記」下13将写法華経建願人断日暗穴頼願力得全命
└○「今昔物語集」
  【本朝仏法部】巻十四本朝 付仏法(法華経の霊験譚)
  [巻十四#_9]美作国鉄掘入穴法花力出穴語[→落盤事故生還] [→金剛般若経]

これらは同類に見えるが、実は思想性がかなり異なる。魚食無罪では、この話をしなかった理由がそこにある。僧はあくまでも魚食禁忌の戒律遵守の姿勢を見せているのが「三宝絵詞」や「日本国法華経験記」。「今昔物語集」編纂者はその手の考え方をとらない。僧が自ら破戒者となることを決断したことから話が始まる。
ここは極めて重要であり、両者は実は水と油。「三宝絵詞」を読んでいた人は、ビックリさせられる筈。
そんな潤色があることを知らしめるための譚なのかもと思うほど。

「今昔物語集」編纂者は、結構、吟味して収載していることがよくわかる例と言えよう。なにも手を入れずママ引用でよさそうなものもあれば、弄らねばならないと考えたものもあり、当然ながら一様な編集にはならないのである。
考えればすぐにわかるが、この譚にしても、僧が居る所は吉野。そんな清流の聖地での漁獲と言う訳ではなく、対象はあくまでも市場の魚。それなりの配慮をしていることを物語る。

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