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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.15] ■■■
[351] 牡蠣の恩返し
誰でも、童話を、見たり聞いたり読んだりした幼少期の頃があった筈だが、それがどのような話だったか覚えている人は実は極めて少ない。
童話は、各人の人生観に大きな影響を与えたに違いないが、残念ながら、その詳細はわからないのだ。

大きくなってから"有名童話"なるものを教えてもらい、なんとなく、自分もソレを聞かされたと思い込んでいたりするのである。

実は、そう考えるようになったのは、幼児期に絵本ばかり見で育った人から聞いた話が印象的だったから。
全ての本が家に残っていたので、眺めてみると、報恩譚はかなりあったものの、所謂、定番モノは一つもなかったという。にも拘わらず、自分が一番よく知る童話は定番モノなので不思議だと言うのである。

余計なことを書いてしまったが、そんなことをついつい思い出させてしまうほど、「今昔物語集」の面白さは引き立っているのだ。

"なにげなき"報恩談が記載されているのだが、これが特筆モノ。なんと登場動物が牡蠣なのだ。
名付けて、"牡蠣の恩返し"。
  【本朝仏法部】巻二十本朝 付仏法(天狗・狐・蛇 冥界の往還 因果応報)
   《16〜19冥界》
  [巻二十#17]讃岐国人行冥途還来語
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」中16不布施与放生得善悪報

つらつら思うに、逆に、"牡蠣の仕返し"もある訳で。

医療の術がなかった時代、おそらく牡蠣に当たれば死んだろう。もっとも、海は清浄だったろうから、滅多なことでは発生しなかったかも知れぬが。
生牡蠣は美味しいが、現代でも、処理されていない品は、確率的に当たる。その病因も判明しているし、元凶も、現代で言うところの"自然に戻そう"活動との推測が得られている。それを考えると、この辺りをひねった現代版が悪報説話としては秀逸かも。

話の筋はこんな具合。

 讃岐香水坂田岐の富者 綾某は
 隣に住む寡人で極貧の老嫗2人が
 常に食を乞いに来るので倦厭していた。
 そこで妻が、
 慈悲を以て、児の如く養うことにしようと提案したから、これに同意。
 ところが、これを良く思わない者もおり、老嫗を讒言したり。
 しかし、養い続けた。
 その讒言者の家人が、縄にを付け蜿貝10個を釣り上げた。
  
(は貝をひっかける道具だろうが、牡蠣養殖筏から下げる縄を彷彿させるものがある。
    蜿という文字からは、蜿足類を想起させるが、現代感覚では希少種で縄では獲れまい。
    原本に注記があるそうだから牡蠣ということで。)

 そこで、家主が買おうとしたが売ろうとしない。
 そこで、善根のためと言うと、この貝には米5斗の価値ありと。
 言い値で買い取り放生。
 その後のこと。
 従者と共に薪伐採しに入山したところ
 松の枯れ木に登って、落ちて死んでしまった。
 もともと、死んでも遺骸は7日間は焼かずに置いておくように、と
 行者に托していたので、山から運んで外に置かれていた。
 すると、その7日目に蘇生。
 妻子にその状況を語った。
  死んだ時、
  僧5名が先導し、俗人5名が追随。
  路は広く平で一直線。左右に立派な宝幢。
  着いたのは、金の宮だった。
  それは、転生先だと教えてくれた。
  老嫗を養った功徳によるところだと。
  宮門の左右に、額に角を囃した者がおり、
  頸を切られそうになったが
  僧俗10名が防いでくれた。
  彼等は海に放生してあげた蜿貝だと名乗った。
  門の左右には膳がでているのだが、
  7日間飢え、口から焔をだしたりしたが、
  それは老嫗に食を施さず厭い悪しみた罪だと言われた。


ちなみに、このグループは以下の5譚。・・・
   《15〜19冥界》
  [巻二十#15]摂津国殺牛人依放生力従冥途還語 📖悪報[2:殺馬罰]
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」中5依神崇殺牛又修放生善得善悪報
  [巻二十#16]豊前国膳広国行冥途帰来語 📖元旦に猫登場
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」上30非理奪他物為悪行受悪報
  [巻二十#17]讃岐国人行冥途還来語
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」中16不布施与放生得善悪報
  [巻二十#18]讃岐国女行冥途其魂還付他身語 📖魂入れ代わり
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」中25閻羅王使鬼受所召人饗報
   [巻二十#19]橘磐島賂使不至冥途 📖「三宝絵詞」の高利貸僧
  ⇒「日本国現報善悪霊異記」中24閻羅王使鬼得所召人之賂免

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