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2004.5.19
 
 


水銀のデータが出てこない…

 「EPAの基準は、毛髪水銀濃度1.0μg/gにあたる。しかし、魚介類の摂取量が多い日本などの地域では大多数の人がこの値を超えている。したがって、このEPA基準を日本において採用するのは適切ではない。」(1)
 水銀問題の専門研究機関の報告書(2003年7月にウエブ掲載)に記載された文章である。

 海外で設定された安全基準を適用すると、日本では危険水準を超えてしまうから、基準を下げる理論を作るべし、と主張しているように聞こえる。

 しかも、この文章の後でデータが無いと指摘している。にもかかわらず、この文章ではデータソースを示さず「事実」を述べている。
 例えば、魚介類の摂取量が多くても、毛髪水銀濃度が低い国民例は無いのか、日本国民の大多数がEPAの基準を超えていると推定した理由は何か、大いに気になるが、何も記載されていない。
 (海産物摂取が多い、大海中の小島の住民に、健康問題が発生している話しを聞いたことがない。)

 そもそも、パーマをかけるとパーマ液中のチオグリコレートが水銀を除去し、毛髪濃度が半減しかねないことは、1978年に報告されているそうだ。それを知りながら、厳密な統計的手法を用いないで「疫学」調査を行ったのである。議論できないデータを集めてどうするつもりなのだろう。

 一般的に、専門家がこのような不思議な態度を示す時は、何か問題が発生していることが多い。要注意である。
 (もっとも、まともな調査を行い、とんでもない「確証」データが出たら、社会が大騒ぎになりかねないから、「実証データ」として使えそうにないものを提出して、社会の反応を探っただけかもしれない。)
  → 「水銀汚染警告の不思議…」 (2003年9月16日)

 有機水銀問題と言えば、食塩電気分解工場の廃液による海産物汚染ばかりがクローズアップされてきたから、特定地域問題と見なしがちだ。しかし、このような調査が行われているところを見ると、どうも、有機水銀汚染が全国規模で発生しているようだ。
 日本では、約20年間にわたって、全国津々浦々で、稲のイモチ病対策と種子消毒に有機水銀系農薬(2000tを超える。)が使われてきた。しかも、空中撒布という世界にも稀な方法で水田に大量に撒布したから、地域の隅々まで、水銀汚染は広がっているのだが、この問題が思った以上に深刻化しているのかもしれない。
 (農薬の非水銀化は1966年から本格化し、水田使用禁止が1969年、酢酸フェニル水銀が消えたのが1973年だと言われている。)

 但し、これを反農薬に繋げる主張は筋違いだろう。この農薬のお蔭で稲の生産性が急速に向上したのである。他の技術進歩もあるが、これだけでも収量倍増効果があった筈だ。
 この生産性向上で、日本は工業国家への道を歩むことができ、繁栄したとも言える。我々が、明日の糧の心配をしないで生きれるようになったのは、このような、多少の無茶を覚悟で経済活動に邁進したからである。後で考えれば、高い代償かもしれないが、荒廃した国にとって、他に道があったとは思えない。
 重要なのは、気付いたら、すぐに対応することだ。有機水銀系農薬も抗生物質代替でのりきったのである。

 しかし、現状を見る限り、水銀問題はマイナーな問題と見なされているようだ。本当にそれでよいのか、疑問が湧く。
  → 「水銀汚染のリスクは?…」 (2004年2月26日)

 と言うのは、これから先、酸性雨が消えることがなさそうだからである。つまり、地中の金属(水銀、カドミウム、鉛、アルミニウム)が生物圏にさらに流出してくるのである。
 しかも、日本の環境は、「綺麗」になって行く。汚れて見える、大量の生物繁殖防止は確実に進む。この点だけみれば間違いなく環境改善だが、そこで収穫された産品で見れば、単位体積当りの金属濃度は増えることになりかねない。食物連鎖による、金属濃縮が加速される方向に進む可能性があるのだ。

 一番の問題は、これを杞憂とみなすべきか、さっぱり分からない点だ。参考になりそうなデータが見つからないのである。
 先の報告が出てから、その後なんらかの発表があるものと期待していたが、いつまでたっても、何も登場しない。食の安全問題では、多くの人達が積極的に活動しているようだが、この問題には関心が薄いのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nimd.go.jp/kenkyu/14nenpoh.pdf


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