事業パラダイムを考慮しないと…


 カラーテレビ、ビデオデッキ、オーディオ機器のようなアナログAV市場は成熟し、いかに刺激的な新機構や新仕様でも、大きな流れとしては低落傾向の市場だ。一方、デジタル製品のMD、デジカメ、デジタル・ビデオカメラ、DVDは確かにこれからの成長分野だ。しかし、競争激化は必至だ。
 かつては、こうした伸びる市場で激烈な競争を続けても、それなりの成長と収益が実現できた。しかし、今後は不透明である。技術の進展は速いし、価格競争も激しいので、十分な利益を得ないうちに市場成熟の可能性もある。次世代のAV商品を順に産み出すという研究開発をベースにしたビジネスモデルは今後も有効だといえるだろうか。
 情報通信技術の革新によって、個別製品の時代が終わりを告げ、ネットワーク化が急だ。もはや、個別デバイスや個別機能を埋め込んだアセンブリ商品での強みだけでは優位性の発揮が難しくなる。情報通信技術を活かした新機能企画能力を欠けば魅力的な商品仕様の設計を提案することもできず、OEM生産どころか、完全な下請け生産業者に陥る可能性も高い。

 これからは、企業の投資主体は生産手段ではなく知識基盤となる。研究開発者ばかりの大企業が登場しても驚くにあたらない時代が到来する。一方、現物資産の強みや政権からの保護によりかかっている企業は没落する。現在圧倒的な強みを発揮しているトップ企業も、安泰は保証されない。
 新しい流通の仕組みを構築する業界外からの参入も予想される。新興国の企業はコピー展開で必至に追い上げる。要は、地域や業界の境に関連なく様々な企業が挑戦的に事業を進める時代だ。どの産業でも大きく変化するからのんびりできない。競争相手だが同時に協力相手でもあることが頻繁に起きる。従って、新たな事業パラダイムを先読みし、そこで自社独特のコアコンペテンシー構築を図る体制が不可欠だ。

 例えば、自動車産業なら、ITS(高度道路交通システム)、動力源、環境といった問題に迫られている。事業の枠組み主導型の新しい研究開発システムが登場しておかしくない。
 塗料業界も同じだ。消費者のカラー嗜好に応えるために、塗料会社は自動車メーカーから塗装工程まで工場で一括請いを始めるかもしれない。塗料の開発だけでなく塗装工程そのものでも、自動車会社より高度な知恵が出せるなら、塗料会社は新しいビジネスモデルを実現できる筈だ。当然、研究開発は塗装工程にまで深入りせざるを得ない。

 これまでの「単品商品」の研究開発の発想では対応できない商品も続々登場しつつある。MP3携帯パームトップ・プレーヤーやネットワーク接続ゲーム機器といった商品である。今や研究開発は、コンテンツ・プロバイダーやディストリビューション・システムを含めた構想から出発する必要がある。デバイス技術や実装技術がいかに優れていても、この構想と情報通信技術が無ければ実力発揮の術はないのである。
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